第372話 【怒濤の決戦!】大災厄ベヒーモス襲来!崩壊寸前のステラド防衛線と神話級兵器スクルドの超絶臨降!
大自然の戦場では、人間の常識を遥かに絶した狂乱と破壊の嵐が吹き荒れていた。
悪魔ボティスへと至ったリザルド元帥は巨大な猛毒の牙を破滅的な勢いで剥き出し、一撃のもとに巨人サイクロプスの肉体を撃ち抜く。
凄まじい絶叫とともに激しい毒に蝕まれたサイクロプスが崩れ落ちたかと思えば、空からは竜王ドラシルの口から放たれた極太の極大レーザービームが空間を灼熱させ、百腕の巨人ヘカトンケイルの巨躯を貫通してその肉体を粉々に焼き尽くしていった。
炎を纏う巨神ギガンテス、勇猛なるミノタウロスの将軍ミロイド、不吉な怨嗟を撒き散らすスペクターエンペラーのアレオンとコボ4、竜人族長ドルニカ、そして空を統べるグリフォン族長のリグル。名だたる強者が乱入し、混戦の極みと化した戦場。
巨人族の後方に位置していたタキーダ辺境伯軍の歩兵部隊と激突していた樹海帝国の兵士たちは、もはや自分たちの手に負える戦いではないと悟り、命からがら距離を取って立ち尽くしていた。ただただ呆然と、大自然の地形そのものを容易く書き換えていく神話級の威容を前に、唯々目を奪われ言葉を失うことしかできなかったのである。人間や亜人たちの想像を絶する、まさに神々と悪魔、そして伝説の魔獣たちによる天災のごとき大殺戮劇であった。
そんな混沌の極みと化した大自然を後にし、俺と大悪魔バエルのスパは、オダーン軍が怒濤の勢いで攻め入るステラド地域へと転移を果たした。
眼下に広がっていたのは、まさに地獄絵図と呼ぶに相応しい光景だった。
オダーン軍の陣容は、狂乱した魔獣の大群——キメラ、マンティコア、スフィンクス、そして雷を纏う鵺の咆哮が地鳴りのように響き渡る。その中央を蹂躙するように前進する超巨大魔獣ベヒーモスの姿。それはまさに、世界を滅ぼす大暴走そのものであった。そして魔獣の怒濤の波のすぐ背後には、オダーン軍の正規兵である人間や亜人たちの軍勢が黒い地平線となって続いている。
その凶悪な魔獣たちの姿は、どれも一国を容易く滅ぼし兼ねない異形の化け物ばかりだ。
ライオンと山羊、そして蛇という三つの頭を持ち、山羊の胴体と猛禽の翼、蛇の尻尾を備えた獰猛なるキメラ。
人間の不気味な顔に灼熱のごとき赤いライオンの肉体、そして一撃で死をもたらす巨大な蠍の毒針尾を持つマンティコア。
古代エジプトの頭巾を被り額に猛毒のコブラを配した人間の顔に、ライオンの胴体、雄々しい鷲の翼と蛇の尻尾を持つ不気味なスフィンクス。
そして狒々の顔に狸の胴体、虎の手足に蛇の尾を持ち、その全身からバリバリと極大の雷光を炸裂させる雷獣・鵺。
何より絶望的な圧迫感を放っているのが、超極大の肉体を誇る伝説の魔獣ベヒーモスだ。巨大なカバやサイを思わせる巨躯に、あらゆる攻撃を弾き返す強大なサイの角と岩をも噛み砕く鋭い牙。そして全身を覆う鎧のごとき堅牢極まる皮膚は、生半可な攻撃の一切を無効化する絶対の城塞であった。
その圧倒的な軍勢を迎え撃つのは、ステラド地域を守護するマシラン将軍の率いる防衛軍と、熟練の精鋭たちで構成された魔法兵団であった。
マシラン将軍は純粋な人間だ。俺の眷属となって力を得てはいるが、種族としての限界を超えた特別な進化は遂げていない。
しかし、彼はステラド帝国時代に古代遺跡から発掘された失われた歴史の遺物——古代兵器を主力として戦っていた。その古代兵器は、異世界転移者である深淵の魔女サクラと龍脈の魔女ウィーラが持つ圧倒的な現代知識と魔術ノウハウの融合によって、劇的な進化を遂げた最先端の『魔導兵器』へと生まれ変わっていたのだ。
天使へと覚醒を遂げた俺の皇妃アリアが人間時代に使用していた巨大ロボットの技術を応用したメカニカルな兵器に乗り込み、マシラン将軍は縦横無尽に戦場を駆け回る。
さらに人間や亜人たちの地上部隊に加え、サクラが生み出した強力な悪魔型ガーゴイル、狛犬型ガーゴイル、そして妖艶な雰囲気を纏う狐型ガーゴイルの精鋭群が前線を強固に固めていた。
一方、後方で強烈な魔力を滾らせている魔法兵団は、元々は魔法国家ソルセルが誇った最高の魔法使い兵士たちがベースとなっている。
彼らが誇る至高の戦法が『魔法五段撃ち』だ。五列に美しく並んだ魔法使いの集団が、寸分の狂いもなく順番に詠唱と魔法発動を交互に行う。これにより詠唱のタイムラグを完全に相殺し、休むことなく絶え間なく膨大な弾幕を放ち続けることが可能となるのだ。現在は魔法使いギルドの管理のもと、ギルド長である美しきエルフのエルセラが団長として見事に全軍を指揮していた。
「打てぇ! 邪悪なる魔獣どもを押し戻せ!」
エルセラの凛とした号令とともに、魔法兵団が土魔法を連射して地表から巨大な城壁を次々と隆起させる。前面に押し押し寄せたガーゴイルたちが強烈な突進を受け止め、防壁の後方から無数の極大攻撃魔法が雨霰と降り注ぐ。
しかし——オダーン軍の切り札である超巨大魔獣ベヒーモスに対しては、その鉄壁の陣形すら通用していなかった。
「グオォォォォンッ!」
ベヒーモスの全身を覆う超硬度の皮膚は、魔法兵団が放つ『魔法五段撃ち』の火柱や氷結を一切寄せ付けず、容易く弾き返してしまう。ベヒーモスが咆哮を上げて踏み出すたびに城壁は粉砕され、ステラド防衛軍の戦線はみるみるうちに崩壊の一途を辿っていた。
「くっ、ベヒーモスを止めるんだ! これ以上、好き勝手にはさせん!」
ステラド地域へ事前に派遣していた四聖獣の一柱・朱雀が灼熱の炎を纏って上空から急降下し、マシラン将軍が駆る巨大な魔導ロボットが巨躯を投げ打ってベヒーモスを押さえ込もうと試みる。だが、ベヒーモスの規格外の質量と馬力の前には、二大戦力をもってしても完全に押し留めることができず、徐々に後退を余儀なくされていた。
戦線が突破されかける危機的状況の中、俺はベヒーモスと死闘を繰り広げるマシラン将軍の搭乗機——そのコックピットの影、そして戦場を疾風のごとく駆ける影に視線を走らせた。
そこにいたのは、決して見間違えるはずもない、非常に懐かしく頼もしい知った顔であった。
「……スクルドか!」




