第370話 【驚愕の激戦!】四凶・窮奇vs樹海帝国軍!神話級悪獣との激闘と明かされる新たな陰謀の影!
四凶の一柱である窮奇が放った古代の秘技『羿除六害』。その凄まじい威圧感とともに現れた六体の神話級悪獣に対し、俺たち樹海帝国軍の陣営は瞬時に散らばり、それぞれの標的と対峙した。
亜神ペナンガルのビーは、九つの首を持つ巨竜・九嬰と。
漆黒の髪をなびかせるダークハイエルフのグレイアは、蛇身人面の怪蛇・窫窳と。
勇者でありエルダーリッチのユイは、巨大な盾と矛を構える長牙の怪人・鑿歯と。
龍脈の魔女ウィーラと相棒の巨鳥ロクは、風を纏う超巨大な怪鳥・大風と。
キラーアントエンプレスのアンナは、濁流を身に纏う巨蛇・修蛇と。
そしてユイの使い魔である神獣・九尾の狐のキュウは、恐怖の波動を撒き散らす巨大魔猪・封豨と。
それぞれの死闘が繰り広げられる中、俺は上空で荒々しい風の魔力を滾らせる凶悪な魔獣、窮奇と真っ向から向かい合った。
戦端が開かれる直前、ユイが宙を舞いながらキュウに向けて愛らしくも切実な声を飛ばす。
「あ、そうだキュウちゃん! 封豨の肉は後でみんなで美味しく食べる予定だから、なるべく身を傷つけないように上手に叩きのめしてね!」
その無茶振りのような注文を聞いた九尾の狐キュウは、前足で額を押さえるようにしながら困り顔で返答した。
「ハァ……神話の悪獣を相手に何とも難しい注文をしてくださいますね。しかし主人のお申し付けとあらば、極力傷をつけずに美味しく調理できるよう全力を尽くしましょう」
ユイとキュウの緊迫感の欠けたやり取りを尻目に、グレイアと窫窳の戦域では恐るべき魔力の衝突が始まっていた。
宙に静かに浮かび上がるグレイア。彼女がその華奢な両腕を広げると、周囲の空間へ濃密な闇の魔力が波紋のように拡散していく。
「ヒロト様のお邪魔はさせません……闇の底へ沈みなさい」
グレイアの周囲を漂う漆黒の魔力が集束し、無数の突撃槍と化して一斉に放たれた。
対する窫窳は、太い蛇の身体を実に器用にくねらせ、空中を滑るようにして襲いかかる闇の槍を紙一重で回避していく。
「ほほう、これは驚いたのぅ。ダークハイエルフと聞いて高を括っていたが、なかなか骨のある不思議な術を使うではないか!」
窫窳の頭部は、見る者におぞましさを抱かせる醜悪な老人の顔であった。耳まで大きく裂けた口を耳障りな音を立てて開くと、鋭い毒牙を剥き出しにしてグレイアの細い首筋へ噛み付こうと猛スピードで突進する。
だが、グレイアの周りを静かに漂う高密度の闇の防壁が、窫窳の強烈な突撃を完璧に遮断し、その侵攻をピタリと押し留めたのだった。
一方、ユイと鑿歯の空中戦もまた激しさを極めていた。
ユイの可憐な全身から、世界を揺るがすほどの禍々しい死霊魔力が溢れ出す。
「そこを動かないで! 閃光よ刺せ!」
ユイの指先から、眩い雷光を放つ魔法の稲妻が一直線に放たれた。
しかし、鑿歯は手に持った分厚い大盾を咄嗟に掲げ、凄まじい放電音とともに稲妻を完璧に弾き返してみせた。そのまま右手に握られた巨大な矛をユイへと向ける。
矛——槍とは異なり、穂先に両刃の剣を取り付けた長柄の武器だ。刺突のみに特化した一般的な槍と比べ、穂先が剣になっている矛は「突く」「斬る」という両方の攻撃を自在にこなすことができる万能の兵器である。
「ヌオォォォッ!」
怪叫を上げた鑿歯は、ユイの魔法を盾でいなしながら、空中を弾丸のように飛び回って猛追する。その両手で扱われる矛が、ユイの華奢な身体を穿とうと凄まじい速度で突き出され、あるいは一閃の鋭さで薙ぎ払われた。
「わわっ、やっぱりその矛、刺すだけじゃなくて斬る動きも混ぜてくるんだ! でも、あたしには当たらないよ!」
ユイもまた持ち前の高い運動能力と飛行魔法を駆使し、空中を自在に滑空しながら鑿歯の猛攻を回避する。お互いに高速で空を飛び回りながら、目にも留まらぬ攻防を繰り広げる圧倒的な超高速空中戦を展開していた。
そして、ウィーラとロクが対峙する大風の戦域。
巨鳥ロクの背に跨がり、空中を滑空する龍脈の魔女ウィーラ。彼女は杖を掲げると、息つく暇もなく魔法を連射した。
「炎よ氷よ、我が意に従い敵を穿て! 『炎弾』! 『氷弾』!」
無数の炎と氷の弾丸が、途切れることなく大風に向けて放たれる。
しかし、怪鳥大風は巨大な翼を力強く羽ばたかせ、強烈な風の魔法を発動させた。空間の風の流れを瞬時に歪め、飛来する炎と氷の弾丸の軌道を容易く逸らすと、すぐさま反撃の刃を打ち出す。
「ガァァァッ!」
大風の羽ばたきとともに、空間を引き裂く巨大な真空の刃『風刃』が連射された。
ロクはその巨体を大きく傾けて風刃を間一髪で回避するが、避けることのできなかった一部の刃がロクの胴体に直撃する。しかし、神獣級の頑丈な体躯を誇るロクにとっては、掠り傷程度のダメージにもならないようだった。ロクは背に乗せたウィーラが落馬しないよう、激しい激動の中でも絶妙にバランスを取りながら、安定した飛行を維持していた。
地上においては、アンナと修蛇の不気味な死闘が展開されていた。
修蛇はその巨大な顎を開き、高密度に圧縮された『水弾』を弾丸のように連射する。
「甘いですわ!」
アンナが身軽な跳躍で回避すると、撃ち外された水弾は後方に存在していた手付かずの大木や巨大な大岩を爆音とともに一瞬で粉砕してみせた。
アンナの手には、妖しく光る漆黒の長槍が握られている。
彼女が影魔法を行使して己の姿を足元の影へと溶け込ませると、修蛇の視界から一瞬で姿を消した。次の瞬間、修蛇の完全な死角である背後の影から疾風のごとく出現し、その漆黒の長槍を修蛇の太い胴体へと一気に突き刺す!
だが、修蛇の身体の表面には常時高密度の水の壁が張り巡らされていた。
ガキィンッ!
アンナの放った鋭い突撃は水の壁を貫こうとするが、絶えず激しく流動する水の力によって軌道を強引に逸らされ、決定的な致命傷を与えるには至らない。
また、もう一方の地上ではキュウと封豨が激突していた。
「ブモォォォッ!」
巨大な魔猪・封豨は、その絶大な質量と鋼鉄の皮膚を盾にして猛スピードで突進し、キュウを力任せに弾き飛ばそうと試みる。
対するキュウは退くことなく、その背から生える九本の美しく力強い尾を束ねて前面に掲げ、封豨の突撃を正面からガッチリと受け止めてみせた。
ズズズズズ……!
封豨は力強い前足で激しく地面を蹴り立て、少しずつ、しかし確実に前進を試みる。そのまま巨大な口を大きく開くと、鋭い牙でキュウの尾へ噛み付こうと食らいついた。
「くっ……荒々しいだけの猪が!」
キュウは身を捻りながら空中へと回転跳躍し、封豨の食らいつきを間一髪で後方へと回避してみせたのだった。
こうして妻たちが窮奇の呼び寄せた悪獣たちと熾烈な激闘を繰り広げる中、俺は真の元凶である四凶・窮奇と完全に向き合っていた。
眷属である神眼アイから与えられた飛行スキルを発動し、俺は空中へ静かに立ち上る。
目の前の窮奇は、眼下で悪獣たちが一進一退の攻防を続けている戦況を凝視し、忌々しそうに口元を歪めた。
「くそが……神話の巨人族に加えて、この『羿除六害』の悪獣たちまで召喚したというのに、樹海帝国の前線を突破するどころか満足な攻勢にすら出られぬとはな」
俺は手に持つ武器の柄を握り直し、静かに窮奇へ視線を向けた。
「無駄な悪あがきはやめろ、窮奇。お前たちの仲間であった四凶の一柱・饕餮は、すでに俺たちの手で完全に打ち倒した。最後のお前も、ここで引導を渡して決着をつけてやる」
俺の宣誓を聞いた窮奇は、一瞬の沈黙の後、狂ったような嘲笑を浮かべてみせた。
「フフフ……ハハハハッ! 打ち倒す、だと? まったく呑気な男だぜ、樹海帝国の皇帝とやらは! 良い気になってこんな場所で油を売っていて本当にいいのかなぁ!?」
窮奇の思わせぶりで挑発的な言い回しに、俺は思わず眉をひそめた。
「何……? 一体どういうことだ」




