第368話 【圧巻の無双!】リザルド元帥の超絶覚醒!百腕の神獣ヘカトンケイルを砕き、凶悪なる四凶・窮奇現る!
最凶の巨人・ヘカトンケイルの後方から虎視眈々と進軍を開始していたタキーダ辺境伯軍の歩兵部隊に対しては、コボ4が率いるアンデッド以外の地上兵力と、天空を舞うグリフォン軍団のグリフォン種およびヒッポグリフ種がガッチリと足止めし、見事に抑え込んでいた。
グリフォン軍団に所属するヒッポグリフ——地球の神話などではグリフォンと雌馬の間に生まれたと言われている伝説の魔物だ。
だが、この異世界においてヒッポグリフはグリフォンとは完全に異なる独立した別種である。決して雌馬との間に生まれた魔物というわけではないのだが、グリフォンと非常に近い生態系と習性を持っているため、互いに助け合いながら同じ群れで生活しているのだ。
鷲の雄々しい翼と鷲の前半身、そして馬のしなやかで力強い後半身。
空を切り裂く鋭い嘴と、獲物を一瞬で引き裂く前足の獰猛な鉤爪を備えている。
戦場全体を見渡せば、タキーダ辺境伯軍と樹海帝国軍の戦力はまさに激しく拮抗している状況であった。
しかし、その拮抗した戦況を根底から破砕する絶対的な破壊者が現れる。悪魔ボティスへと至ったリザルド元帥の参戦により、戦場の流れは一瞬にして一変することとなったのだ。
悪魔ボティスたるリザルド元帥。
全身を覆う漆黒の禍々しい重甲冑、その手には絶大な魔力を宿す漆黒の大剣。頭部から天に向かって伸びる二本の禍々しい角と、並の魔物を噛み砕く鋭い牙。背からは圧巻の一対二枚の漆黒の蝙蝠の翼を広げ、圧倒的な威圧感を放ちながら戦場へ降臨した。
リザルド元帥は凄まじい風切り音を立て、グリフォン帝リグルやコボ4の兵士たちと死闘を繰り広げていたヘカトンケイルの目前へと一気に飛びかかる。
巨獣ヘカトンケイルはリザルドの接近に気づくと、その体に纏う圧倒的な悪魔の気配に本能的な生命の危機を察知。それまで兵士たちに向けられていた攻撃を即座に中断すると、土魔法を行使して巨大な大岩を生成し、息つく暇もなくリザルドに向けて間髪入れずに放ち始めた。
百本もの無数の腕それぞれから、矢継ぎ早に投擲される巨大な大岩の雨。
それはまさに、物理攻撃における最強の威力を誇る連続投擲魔法であり、途切れることのない岩石の嵐となってリザルドを絶望的に襲い散らす。
だが、リザルド元帥は顔色一つ変えなかった。空中に静止するように浮かび上がると、手にした漆黒の魔剣をひと振り、ただ横一閃に薙ぎ払う。
ドゴォォォォォンッ!
一瞬の静寂の後、空を埋め尽くしていた百を超える巨大な大岩が一瞬のうちに真っ二つに叩き斬られ、爆散して塵へと変わった。
しかし、ヘカトンケイルも死に物狂いだ。百本の腕から間髪入れずに放たれる大岩の第二波、第三波が、絶え間なくリザルドの視界を覆い尽くすように迫り来る。
「ふむ……攻撃の数だけは一丁前だが、少々うっとおしいのぅ」
鬱陶しそうに呟いたリザルド元帥は、その巨体を眩い漆黒の魔力で包み込んだ。
次の瞬間、彼の姿は人の形を捨て、絶大な存在感を放つ神話級の大蛇へと変貌を遂げる。
それは彼が進化する前の真の姿——世界蛇ヨルムンガンド。超巨大な巨人ヘカトンケイルでさえも小さく見えてしまうほどの、山脈のごとき圧倒的な身体。まるで堅牢な岩石のようにゴツゴツと隆起した漆黒の鱗、背に生える巨大な蝙蝠の翼、大地を掴む四本の太い足。そしてすべてを切り裂く鋭い爪と牙に、深紅に怪しく燃え上がる眼光。
かつては濃紺であったその体躯は、悪魔ボティスへと劇的な進化を遂げたことで、吸い込まれそうなほど深い純粋な漆黒へと深化していた。
ドドドドドッ!
間髪入れず放たれた大岩の連撃がリザルドの巨大な身体に次々と直撃するが、鋼鉄以上の硬度を誇る漆黒の鱗に弾かれ、粉々に砕け散るばかりで掠り傷一つ与えられない。
「ぬるいぬるい! 儂の真の姿を前によくぞ耐えてみせたが……これならどうだ!」
リザルド元帥は空中で巨躯を大きく捻り、太く長い漆黒の尻尾を薙ぎ払うように力任せに振り回した。
ドバァァァァンッ!
ヘカトンケイルは百本の腕を総動員してクロスさせ、迫り来る巨大な尻尾を力ずくで押さえ込もうと試みた。だが、悪魔ボティスの腕力と世界蛇の質量が組み合わさった一撃は、巨人の力すら遥かに凌駕していた。百本の腕は容易く粉砕され、ヘカトンケイルの巨体は遥か彼方へと吹き飛ばされて大地を激しく転がった。
「ガハハハッ! 巨人ごときの力では、儂の太刀打ちなど到底耐えられるはずもなかろう!」
大自然を舞台とした、タキーダ辺境伯軍対樹海帝国軍の全面戦争。
タキーダ辺境伯軍は、一つ目のサイクロプス、炎を纏うギガンテス、そして百本の腕を持つヘカトンケイルという三種族もの神話級巨人族を揃え、圧倒的な暴力で大自然へ侵攻してきた。
対する樹海帝国軍は、大自然の各領地を統治する優秀な領主たちを中心に、以下の五つの勢力で迎撃にあたり、長らく互角の拮抗状態を保っていたのだ。
南部の勇猛なるミノタウロス軍。
西部の天空を支配するグリフォン軍。
中央部の誇り高き竜人軍および竜王ドラシル率いる竜族勢。
東部を守備するスペクターエンペラーのコボ4率いる不死者軍。
そして北部から駆けつけたスペクターエンペラーのアレオン軍。
五大勢力が完璧な連携で巨人軍団を押し留めていたところへ、最凶の悪魔ボティスたるリザルド元帥が乱入したことにより、戦況は完全に樹海帝国軍の圧勝へと大きく傾くこととなった。
樹海帝国皇帝である俺と愛する妻たちは、上空の安全域からその圧巻の戦況を見下ろし、着実に勝利へと近づいていく状況に心から満足していた。
だが——その絶好の戦況を切り裂くように、突如としてタキーダ辺境伯軍の本陣奥深くから、天地を揺るがすほどの凶悪な暴風が吹き荒れ始めた。
「ん? あの禍々しい気配は……タキーダ辺境伯の奴、何か奥の手でも仕掛けてくる気か?」
俺が目を細めた直後、タキーダ辺境伯本陣の上空に、あまりにも見覚えのある異様な姿がゆらりと浮かび上がった。
窮奇——邪悪なる四凶の一柱。
凶暴な虎の身体に、空を穿つ鋭い鷲の翼。剥き出しになった太く鋭い牙と、岩をも引き裂く巨大な爪。体長十メートルにも及ぶその巨大な体躯からは、暴風を自在に操る不吉な属性魔力が狂ったように溢れ出していた。
上空に現れた窮奇は、眼下で撃破されていく巨人軍団を見下ろし、顔を歪めて忌々しそうに咆哮した。
「くそがッ! かつて神々と対等に戦ったあの神話の巨人族どもを味方に付ければ、樹海帝国相手でもある程度対等に戦えると思ったが……まだ戦力が足りないというのかッ!?」
「あいつは……四凶の窮奇か!」
俺が警戒を強めたその瞬間、傍らに立っていた愛しき妻の一人、亜神ペナンガルである将軍ビーが、美しくも決意に満ちた表情で前に一歩躍り出た。
「ヒロト様、あの不遜なる風の魔獣は私にお任せください。私が一瞬で叩き伏せてみせます!」




