第367話 【驚愕の真実!】ギリシア神話の神話級巨獣ヘカトンケイル襲来!グリフォン帝リグルと不死将コボ4の激闘!
白竜王ドラシル率いる古竜たちの圧倒的なブレス爆撃と、地上の竜人たちが放つ怒涛の連撃。その相乗効果により、炎を纏う巨神ギガンテスとの戦闘も、このままいけば我々樹海帝国軍の圧倒的勝利で終わることは間違いなかった。
戦況の推移を空中で見守りながら、俺はふと頭に浮かんだ既視感に苦笑いを漏らした。
「それにしても……一つ目のサイクロプスに、炎のギガンテス、そして百本の腕を持つヘカトンケイルか。なんだか地球で聞いたティタノマキアやギガントマキアの戦いを見ているようだな」
俺のつぶやきを聞きつけた元勇者のエルダーリッチ、ユイが不思議そうに首をかしげて尋ねてきた。
「なにそれ、ヒロト? そのティタ……なんとかって?」
「俺がいた地球のギリシア神話に出てくる、巨人族と神々による壮絶な世界覇権争いのことだよ。まさに今、目の前で暴れているサイクロプスやギガンテス、ヘカトンケイルたちが総出演する有名な神話の話さ」
「へぇー、面白いね! で、その神話だと結局どっちが勝つの?」
「巨人族が悉く敗北して、最高神である大神ゼウス率いる神々が勝つんだよ」
「そっかー、やっぱり最後は神様が勝つんだね!」
納得したように頷くユイを見送りつつ、俺は眼下のタキーダ辺境伯軍へと視線を戻し、眉をひそめた。
「だけど……こんな規格外の巨人族が南の王国に存在していたなんて、今まで一度も聞いたことがないぞ。一体なぜタキーダ辺境伯軍の陣形に混ざっているんだ? そもそも、奴の軍隊のくせに、総大将であるタキーダ辺境伯本人の姿がどこにも見当たらないのも妙だ」
すると、隣で美しく長い髪を風になびかせていた龍脈の魔女ウィーラが、知的な瞳を輝かせて同意した。
「ふむ……確かに妙じゃのう。ここでいくら推測を重ねても埒があかぬ。南の王国の内情に詳しい者に直接尋ねてみるのが一番手っ取り早かろう」
「そうだね。じゃあ、アキルイを呼び出すとするか」
俺は即座に南の王国の元関係者であるアキルイへ思念伝達を送り、空間召喚の了承を得てから目の前の空域に彼を召喚した。
当然、アキルイは飛行能力を持たないため、俺はあらかじめグリフォン軍団から一匹のヒッポグリフを呼び寄せておいた。
ヒッポグリフ——鷲の立派な翼と上半身に、馬のしなやかで力強い後半身を持つ幻獣だ。鋭く尖った嘴と、獲物を引き裂く前足の獰猛な鉤爪が特徴的である。召喚されたアキルイを、手際よくそのヒッポグリフの背に乗せてやった。
背に跨がり姿勢を安定させたアキルイは、驚きつつも恭しく首を垂れた。
「ヒロト様、お呼びでしょうか! 一体何が……?」
「アキルイ、あそこのタキーダ辺境伯軍の陣形を見てくれ。恐ろしい巨人族が大量に混じっているだろう? タキーダ辺境伯の軍勢には、元々あんな巨人の兵団が存在していたのかい?」
アキルイは目を見開き、眼下で暴れ回る巨躯の群れを凝視して驚愕の声を上げた。
「な、なんということだ……! いいえ、ヒロト様! 確かあの巨人族たちは、南の王国の遥か東端に聳え立つ未開の山脈に潜んでいたはずです。タキーダ辺境伯の領地からは大きく外れた未開地に棲んでいたため、彼の正規軍に組み込まれていたことなど過去に一度もありません!」
「そうか……となると、今回タキーダ辺境伯軍の傘下に入って攻め込んできたのには、何か特別な裏の事情がありそうだな」
俺たちが分析を進める間にも、戦場の一角ではタキーダ辺境伯軍の最凶戦力・ヘカトンケイルと、樹海帝国が誇るグリフォン軍団およびコボ4率いる不死者軍団による熾烈な死闘が繰り広げられていた。
ヘカトンケイル——上半身だけで百本もの異様な腕を生やした伝説の超巨大怪物。丸太のように太く筋肉質な上半身は完全に裸であり、その異形ぶりは見る者を慄然とさせる。
なんと三体ものヘカトンケイルが、強大な土魔法を行使して巨大な城塞並みの大岩を次々と生成し、樹海帝国軍に向けて破城砲のごとく超高速で投げつけていた。
対するグリフォン——鷲の力強い翼と上半身に、百獣の王ライオンの下半身を併せ持つ天空の覇者。鋭利な嘴と前足の巨大な鉤爪は、鉄甲すら容易く引き裂く。
そのグリフォン族の頂点に立つ族長リグルは、俺の眷属となった後、狩猟用の特設迷宮で狂ったようなレベリングと修練を重ねていた。その甲斐あって、彼はかつてのグリフォンキングから、さらなる高みである『グリフォンエンペラー』へと圧倒的な進化を遂げていたのだ。
通常のグリフォンよりも二回り以上大きい圧倒的な体躯と漆黒の羽毛を誇るリグルは、ヘカトンケイルが投擲する超巨大な大岩を、超絶的な飛行スピードで紙一重に回避しながら急接近する。
避けきれない位置に迫る大岩に対しては、前足の鋭利な鉤爪を一閃させ、一瞬で粉々に砕き割ってみせた。
そのままヘカトンケイルの目元へ突撃し、振り回される猛威を掻い潜って致命の爪撃を叩き込もうと試みる。しかし、相手の腕は文字通り百本! 空白が存在しない連続の拳撃を完全に掻い潜ることは叶わず、ヘカトンケイルの太い腕と、リグルの肉迫する鉤爪が激しい音を立てて衝突した。
両者ともに一歩も引かず、決定的な有効打を決められないまま、戦況は壮絶な持久戦へと突入していた。
そしてもう一方、コボ4対ヘカトンケイルの戦域。
コボ4は生前、エルフの放った卑劣な弓矢によって命を落としたコボルトであった。コボ1、コボ2、コボミの弟であり、コボ5の兄にあたる人物だ。
一度は命を落としたものの、不死王ルシーの死霊魔法によって奇跡的に蘇生を果たし、生前のコボルト種からアンデッドの最高峰たるスペクター種へと変貌。その後の血を吐くような修練の果てに、現在は『スペクターエンペラー』へと大進化を遂げていた。
ヘカトンケイルは怒りに任せて土魔法で生み出した巨大な大岩を連発して叩きつけるが、実体を持たないスペクターエンペラーとなったコボ4には、あらゆる物理攻撃が一切通用しない。大岩は彼の半透明な体を空しく滑り抜けるだけだ。
だがその反面、コボ4の放つ精神攻撃や死霊魔術だけでは、ヘカトンケイルの絶大な生命力とタフすぎる肉体に決定的なダメージを与えることができず、こちらの戦況も完全に硬直状態に陥っていた。
こうして、ヘカトンケイル二体については、グリフォンエンペラーのリグルとスペクターエンペラーのコボ4が完璧に足止めして抑え込んでいる状態だ。
そして残る最後の一体に対しては、コボ4の配下であるスペクター種、ファントム種、レイス種からなる無数の不死者兵士たちが、肉体をすり抜ける特性を活かして決死の連携でなんとかその進撃を凌ぎ切っていたのだった。




