第363話 【神刀・生大刀降臨!】魔神バズの超速アシストと悪魔キマリス・オニバルの一刀両断!四凶・饕餮を撃破し剣神へ進化!
右肩を激しく削り落とされた饕餮は、痛みに顔を極限まで歪ませながら、殺意に満ちた眼光でオニバルを強く睨みつけた。
次の瞬間、饕餮の体表から無数の伸びる縮れた羊の毛が、生き物のように一斉に解き放たれ、凶器となってオニバルの全身へと襲いかかった。
だが、オニバルは一切動じることなく、気にも留めない様子で巨大な黒刀を横一文字に払った。
「ぬうっ!?」
饕餮は咄嗟に身をかがめて地を這うように沈み込む。
その頭上を、高速で伸ばされた羊の毛の上半分が綺麗に斬り払われ、空中に舞った。
しかし、下側へと放たれていた無数の毛の束はそのまま地を這い、オニバルの太い両足へと鋭く絡みついた。
「捕まえたぞ! 引きずり倒して喰らい尽くしてやる!」
饕餮は力任せに毛を巻き上げ、オニバルの巨躯を己の方へと引き寄せようと腕力を込めた。
だが、オニバルはドシリと両足を大きく開き、腰を低く下ろしてその絶大な引きに微動だにせず耐え切ってみせた。そして、そのまま巨大な黒刀を右肩の上、八双の構えへと滑らかに持ち上げる。
「——必殺、袈裟斬り!」
凄まじい風切り音とともに振り下ろされる漆黒の刃。
死の危険を察知した饕餮は、泥臭く左へと転がりながら、間一髪でその必殺の刃を避けてみせた。
足元に巻きついたままの頑丈な羊の毛を引きながら、饕餮は冷や汗を流して叫んだ。
「な、なんだその不吉な刀は! なぜ離れた間合いから我が肉体を容易く断ち切れる!?」
オニバルは八双から構えを解かず、低い声で刃の名を口にした。
「神斬りの黒刀……『生大刀』!」
その時、オニバルの足元を見つめていた魔神パズズのバズが、軽く肩をすくめながら声をかけた。
「足元が少々不自由そうだな、オニバル」
バズが右手を軽やかに一振りすると、その袖口から神気を色濃く帯びた超高圧の風の刃が束となって飛び放たれた。
シュバババッ! と空気を切り裂く音が響き、オニバルの両足に固く絡みついていた饕餮の強力な羊の毛が一瞬にして細かく切り払われていく。
突如として横から現れた存在に、饕餮は血走った目を向けた。
「き、貴様は一体何者だ! 邪魔をするな!」
「——フッ、名乗るほどの者でもないがね」
バズは不敵な笑みを残し、その場からふっと姿を消した。
風よりも速く、音よりも疾く。
饕餮が周囲を見回すよりも早く、バズはすでにその無防備な背後へと完璧に移動していたのだった。
「魔神パズズだ!」
背後からの宣告とともに、バズの右手に生えた鋭利な爪が饕餮の背中を襲う。
本来であれば、饕餮の全身を覆う特殊な羊の毛は、あらゆる物理・魔法攻撃を通さない絶対の防御力を誇る。
しかし、神気を脈動させるバズの鋭利な爪は、その強靭な防護の毛皮を容易く貫通し、饕餮の肉深くへと深々と突き刺さった。
「グッ……ハァッ!?」
饕餮の背中から、生臭い不気味な緑色の血がドッと噴き出す。
その凄絶な援護に対し、オニバルは黒刀を構えたまま、少々不満そうに声を張り上げた。
「バズ! 俺の獲物に勝手に手を出すなと言ったはずだぞ!」
「ああ、すまんすまん。目の前に隙があったものだから、つい手が滑ってね……っと!」
バズは頭をポリポリとかきながら、再びふっと幻のようにその場から消え去った。
直後、バズがコンマ一秒前まで頭を置かれていた空間を、饕餮の巨大な爪が空を切って暴風とともに通り過ぎる。
饕餮は激痛に耐えながら振り返り様に爪で薙ぎ払ったのだが、すでにバズは遥か後方、オニバルの背後へと悠々と移動し終えていたのだ。
オニバルは邪魔が入ったことを一度リセットするように息を吐き出すと、黒刀を静かに中段へと構え直した。
「野次馬の邪魔が入ったが、仕切り直しだ」
右肩と背中から緑の血を流し、激痛と屈辱に震える饕餮は、悔しげに牙を剥き出しにして狂気交じりに叫んだ。
「おのれ……おのれぇぇ! 次こそは骨の髄まで噛み砕いて食い殺してやる!!」
饕餮の足下にどす黒い不気味な影が急速に広がり、周囲を覆い尽くすほどの濃厚な闇の霧が大量に湧き出てきた。空間の割れ目を作り、異空間へと逃走を図ろうという算段だ。
だが、オニバルはその企みを瞬時に見抜いていた。
「この俺の目の前で、逃がすと思うか? ——伊都之尾羽張!」
オニバルが魂を揺さぶる大声を上げると、黒刀生大刀の刀身全体から、目が眩むほどの神聖で圧倒的な神気が爆発的に溢れ出した。
その圧倒的な神気の輝きとともに、オニバルは下段にセットしていた黒刀生大刀を、地を割る勢いで一気に天に向かって斬り上げた。
目にも留まらぬ一閃。
ドサリ……。
闇の霧の中へ逃げ込もうとしていた饕餮の巨大な頭部が、胴体から綺麗に分断され、大地へと力なく転がり落ちた。
四凶の一柱として恐れられた古の邪悪饕餮は、悪魔キマリスへと奇跡の進化を遂げた剣聖オニバルの圧倒的な一撃の前に、完全に敗北し討ち取られたのだった。
「オニバル! やったな、見事だ!」
俺は興奮を抑えきれず、勝利を収めたオニバルのもとへ真っ先に駆け寄り、その大きな手を強く握りしめた。
俺の周りにいたウィーラやユイ、グレイア、ビー、アンナたち仲間全員も一斉にオニバルへと駆け寄り、その快挙を称えて心からの惜しみない拍手を送った。
オニバルは照れくさそうに甲冑の頭を下げ、重厚な声で応えた。
「はい、師匠! おかげさまで討ち取ることができました」
「それにしても、その黒刀の威力は本当に凄まじいな。一体どうなっているんだ?」
俺が感嘆しながら尋ねると、オニバルは愛刀を愛おしそうに見つめながら説明してくれた。
「これは生大刀と言う名の神刀です」
「なるほど……俺が持っているムラマサと同じ、最高峰の神刀というわけか」
「はい。私が悪魔へと進化を果たした際、それまで長年愛用していた魔剣の日本刀が、私の進化に引きずられるようにして共に神刀へと進化したのです」
「遠距離から間合いを無視して斬り裂くスキルや、神斬りのスキルまで手に入れたみたいだし……いよいよ弟子のお前に俺を超えられてしまったな」
俺が苦笑いしながら言うと、オニバルは滅相もないといった風に大きく首と手を振った。
「いえいえ! 師匠の領域にはまだまだ到底到達できておりません。私の技など、師匠の足元にも及びませんよ」
「いやいや、謙遜するなよ。あんな間合いを無視した神速の不可視の攻撃、俺だって初見じゃ躱せる自信がないよ」
「ご冗談を。師匠なら一瞬で見抜いて軽々と回避されるでしょう。私など、まだまだ師匠には到底敵いません」
謙虚に語るオニバルだったが、俺が秘かに彼を鑑定してみると、ステータス画面に驚くべき変化が起きていた。なんと、彼がこれまで冠していた『剣聖』の称号が、さらに上の領域である『剣神』へと劇的な進化を遂げていたのだ。
「おいおい、謙遜している場合じゃないぞ。ほら見てみろ、称号も『剣聖』から『剣神』に進化しているぞ!」
俺が鑑定結果を教えると、オニバルは自身のステータスを確認し、目を見開いて感無量といった様子で頷いた。
「どうやら……あの饕餮という強敵を倒した瞬間に、私の限界が押し広げられ、進化を果たしたようですな」
こうして、伝説の四凶・饕餮との死闘は、新たな『剣神』の誕生という最高の形で幕を閉じたのだった。




