第360話 【驚愕の超即効要塞!】国境を覆う魔の迷宮領域と、莫大なダンジョンポイントで迎え撃つ最強の防衛布陣!
会議室の興奮が冷めやらぬ中、凛とした佇まいの女性戦士——アマゾネス国を率いる女王ヒポリュテが、俺に向かって真剣な眼差しで歩み寄ってきた。
「ヒロト様、実は以前ご報告いたしました通り、我が国は有翼人の国をはじめ、近隣の小国数国を傘下の属国として組み入れております。つきましては、その属国群と南の王国との国境線沿いにも防衛軍を展開していただきたいのですが……お願いできますでしょうか?」
「ああ、そう言えば属国化の承認を出していたな。……バズ、南の王国とそれら小国群の国境線ギリギリまで、ダンジョン領域を横長に一気に延長拡張することは可能か?」
俺が話を振ると、魔神パズズであるバズは不敵な笑みを浮かべつつも、慎重に顎に手を当てて考え込んだ。
「理論上は十分に可能だと思われます。……ですが、これほどの広大な範囲を一気に飲み込むとなると、実際に魔力を流し込んでやってみないことには何とも言えませんな」
「んじゃ、まずは現在ダンジョンを安全に延長できるポイントに全軍を一挙集結させて、ダンジョン領域をじわじわと前方へ押し広げながら進軍するとしよう」
「承知いたしました。速やかに魔力ルートを構築いたします!」
バズが胸を叩いて力強く引き受けると、ヒポリュテも満足そうに頭を下げた。
「畏まりました。我がアマゾネス国本隊のみならず、各属国からも至急精鋭の軍勢を派遣させます!」
「頼んだぞ。バズ、まずは最優先でダンジョンの延長作業を進めてくれ」
「はい! お任せください!」
バズの指揮のもと、莫大な魔力が解き放たれ、地表を覆い尽くすようにして迷宮領域が恐ろしいスピードで拡張されていった。
結果として、バズのダンジョンは南の王国との国境線一帯を丸ごと飲み込む形で見事に広がり切ったのだった。
迫り来るモリー公爵軍は、まだ国境の目と鼻の先には到達していない。
そして今、その国境の迷宮領域の上には、樹海帝国が誇る破格の連合軍勢がズラリと一斉に集結を果たしていた。
吸血鬼真祖ヴァンスが率いる、血に飢えた眷属たちの精鋭軍。
ヒポリュテ自らが率いる、一騎当千の戦闘種族たるアマゾネス軍。
さらに、アマゾネス国の属国となった有翼人国が誇る、空中を縦横無尽に舞う有翼人軍。
同じく属国であるサルダス軍、サウナバ軍、サムルド軍の連合部隊だ。
サルダス、サウナバ、サムルドの三国は人間の国王が治めているが、その国民や兵士には人間だけでなく、多彩な亜人や人間と亜人のハーフも数多く含まれている混成部隊である。
そして、この多種多様な大軍勢を現地で一括統括する総大将には、吸血鬼真祖であるヴァンスを正式に任命した。
これほどの大軍隊がダンジョン領域の上に隙間なく駐留しているため、兵士たちの発する圧倒的な生命力と魔力がシステムに吸い上げられ、バズの持つダンジョンポイントはみるみるうちに天秤を振り切るほどの勢いで激増していく。
そして、その大量に増え続けるダンジョンポイントを容赦なく投入することで、国境線には一夜にして難攻不落の巨大な砦が建造され、敵を地獄へと突き落とす凶悪なトラップ群が際限なく作り放題となった。
一瞬にして築き上げられた砦の司令室に、軍の主だった幹部たちがズラリと揃う。
部屋の中央に置かれた、目を見張るほど重厚で豪華な意匠の椅子に、総大将であるヴァンスが深々と腰掛けていた。
その優雅な手には、芳醇な香りを漂わせる赤ワインの入ったグラスが握られている。
ヴァンスの両隣には、彼の眷属であり第二世代の吸血鬼であるヴァイラとヴァールがピシリと控えていた。
二人とも誰もが見惚れる絶世の美女でありながら、現在は黒を基調とした隙のない軍服に身を包み、鋭い眼光を放っている。
ヴァンスは基本的に極度の怠け者であるため、実務の一切を完璧にこなすこの二人が、彼の最も優秀で頼れる側近なのだ。
「フッ……このペースなら、モリー公爵軍は明日には俺たちの仕掛けた地獄の罠ポイントへとまんまと到達するだろうな」
ヴァンスがグラスを揺らしながら言うと、隣に立つヒポリュテが力強く頷いた。
「承知いたしました。伏兵の配置に関しましても、予定通りダンジョンの空間転移機能を用いて即座に背後へ回り込めるよう、完璧に準備が完了しております」
「うむ。今のところは、すべて俺たちの思い描いた通りの完璧な盤面で戦いを進められそうだな」
そんな二人のやり取りを、有翼人軍から将軍として参画している男、ウィグルが感嘆の溜息をつきながら見つめていた。
「しかし……樹海帝国の戦争というものは、最初から最後まですべてが規格外すぎますな……」
ヒポリュテもウィグルの言葉に心から同意するように、苦笑いを浮かべた。
「まさしく、その通りです。あまりの常識外れぶりに、驚きを通り越して呆れるばかりですよ」
「各地の国々に散らばって集合した大軍勢を、一瞬の空間転移だけでこの最前線へ移動させてしまうことといい……」
「このような巨大な砦と無数の死の罠を、僅か一日足らずで何もない平原に完成させてしまうなど、他国の人間が見たら絶対に信じないでしょうね」
「伏兵に至っては、すべてダンジョンの異空間内で潜伏待機。徒歩での移動も一切必要ありませんし、敵に偵察で見つかる心配すらゼロ……」
二人は顔を見合わせ、心底から安堵したような表情で同時に呟いた。
「「……本当に、樹海帝国の傘下に入っていて良かった」」
その瞬間——空間が歪み、二人の目の前に俺が突如として転移で姿を現した。
「うわぁっ!?」
「ヒ、ヒロト様!?」
あまりに唐突な登場に、ウィグルとヒポリュテは飛び上がらんばかりに驚愕した。俺は二人の反応に苦笑しつつ、豪華な椅子で優雅にワインを傾けるヴァンスに向かって表情を引き締めた。
「ヴァンス、気をつけてくれよ。絶対に油断するな。モリー公爵軍の動きには、何か隠された裏があるはずだ」
ヴァンスはグラスを置き、赤い瞳を妖しく光らせながら力強く頷いた。
「勿論、重々承知していますよ、ヒロト様。敵がどんな手を出してこようと、臨機応変に対応するしかありませんからね。なにせ、こちらにはあの恐ろしいオニバル軍とバズが控えており、足元全域にダンジョンが展開されているのです。何が起きようと、すべて叩き潰して見せますよ」




