第354話 【異世界の食卓革命!】捨てる部位が絶品料理へ!? 転生者たちが狂喜乱舞する魅惑のもつ鍋パーティー!
樹海帝国皇帝の城にある、陽光が柔らかく差し込むいつもの広いリビング。
迷宮都市ラビリスの超高速な解体・移転計画をひと通り終えた俺たちは、束の間の休息を得て一時帰宅していた。
俺はふかふかの高級ソファーに深く腰掛け、淹れたての芳醇なコーヒーを口にして息をつく。
右隣のソファーには、ゆったりと足を伸ばして寛ぐ応龍のハク。左隣のソファーには、神秘的なオーラを纏いながら優雅にお茶を楽しむ精霊王で世界樹のレイ。それぞれが至福のプライベート時間を堪能していた。
「ブラリリ、迷宮都市ラビリスには何か良さげな名物料理とか、珍しい食材はあったかい?」
俺はトレイを胸に抱えて待機していたブラウニーでメイドのブラリリに尋ねた。彼女は俺たちとは別行動で、あの街の市場や屋台をくまなく巡り、特産の食材や料理を探索してくれていたのだ。
ブラリリは少し困ったように可愛らしく首をかしげた。
「そうですね……期待して探索したのですが、特に目新しい変わった料理はございませんでした。食材に関しましても、迷宮都市という土地柄、殆どが狩り取った魔物の肉や野草を中心としていたのが印象的でした。ですが、我が樹海帝国の巨大迷宮の方がはるかに魔物の種類も植物も豊富ですので……正直、心惹かれるような食材はありませんでしたね」
「そうかぁ。まあ、長年あの閉鎖的な領主が治めていた街だし、そんなこともあるよな」
「あ、そういえば……ッ!」
「ん? 何か目ぼしいものでも思い出したか?」
「はい! ミノタウロスやフォレストベアの内臓を、独特の香辛料で煮込んだ料理がありました! 癖はありましたが、そこそこ美味しかったです」
「ほほう……内臓、つまりモツだな!」
俺が思わず目を輝かせると、かたわらにいた天使のアリアが「えええッ!?」と大声をあげて顔を顰めた。
「ま、魔物の内臓……!? を、た、食べるのですか……!? いやだ、なんだか気持ち悪いですよ……!」
アリアは元々人間の傭兵で、そこから絶大な功績を上げて天使へと進化を遂げた経緯がある。この異世界で生粋の人間として育ってきたため、内臓を食材として食べるという文化に馴染みがなく、生理的な抵抗があるのだろう。
だが、ハクは「ふふん」と鼻を鳴らして笑った。
「甘いな、アリア。動物や魔物の内臓というのは、肉以上の旨味が詰まっていて実に美味なのだぞ?」
「うんうん! コリコリした食感もたまらないですし、是非ともお腹いっぱい食べたいです!」
そう言って目を輝かせたのは、フォレストリザードから神聖なる霊亀へと進化を果たしたリザだ。
ハクもリザも、元々は爬虫類系の魔物として生を享けた存在だ。獲物を丸呑みにして消化していた過去があるだけに、内臓に対する抵抗感など皆無なのだろう。
さらに、どこからか匂いを嗅ぎつけてやってきた吸血鬼真祖のヒナが、ニンマリとした笑みを浮かべて会話に割り込んできた。
「内臓はね、丁寧な下処理さえしっかりすれば極上の食材に化けるんだよ! 炭火で香ばしく焼いてもいいし、じっくり煮込んでも最高なんだから。あー、話を聞いてたら私も猛烈に食べたくなってきた!」
ヒナは俺と同じく日本からの異世界転移者だ。ダンジョンマスターにして吸血鬼真祖という凄まじい肩書を持つ彼女だが、根っこは根っからの食いしん坊である。
続いて、空間を割るようにして姿を現した魔女のサクラが、俺の首に後ろから抱きついて声を弾ませた。
「だったら決まりね! 今夜は絶対に『もつ鍋』がいいわ!」
サクラもまた、俺たちと同じ異世界転移者であり、悪魔ベルフェゴルの力を宿すダンジョンマスターだ。
「いいねぇ、もつ鍋! 俺も急激に食べたくなってきたぞ。よし、今夜のメインディッシュはもつ鍋に決定だ!」
「「「わぁぁぁいっ!!!!」」」
ヒナとサクラ、そしていつの間にかリビングのドアからひょっこり顔を出していた勇者ユイが、揃ってバンザイをして歓声をあげた。
ユイもまた日本からの異世界転移者であり、勇者でありながら人間からエルダーリッチへと進化した規格外の存在だ。
やはり転移者組の三人は、故郷の味であるモツが大好物らしい。もちろん、俺も大好物だがね。
ふと、俺の頭の中に一つの素朴な疑問が浮かんだ。
「ところでさ……今まで全然気付いてなかったんだけど、俺たちの国で倒した魔牛や魔豚の内臓って、まさか全部捨ててたのか……?」
俺が尋ねると、ブラリリは申し訳なさそうに申し出た。
「はい……解体した際に出る内臓部位は、全てスラオ様をはじめとするスライム系の眷属に消化吸収して処分していただいておりました……」
「おおう! なんてこったい……ッ!!」
俺が頭を抱えると、ヒナとサクラも絶望的な表情で叫んだ。
「うはぁぁーっ! もったいない! もったいなさすぎるよーっ!」
「あんな美味しい部位を処分しちゃうなんて、勿体ないお化けが出ちゃって国が一層滅びちゃうレベルだよ~!」
「よし、決めた! 今日から魔牛や魔豚、その他の食用魔物の内臓は、貴重な最高級食材として徹底的に回収・流通させよう!」
「畏まりました、皇帝陛下! 直ちにそのように手配いたします。調理ギルドで臭み消しの下処理方法や最適な味付けを徹底的に研究させ、市場へと流通させますね!」
頼もしく胸を叩くブラリリに、俺は熱を込めて頷いた。
「ぜひ頼む! 網で香ばしく焼いても絶品だし、濃厚な鍋にしても最高だ。スープはコクのある味噌ベースでも、スッキリした醤油ベースでもたまらんぞ!」
「ぷりぷりのモツはコラーゲンたっぷりだから、お肌もツヤツヤになるし最高なんだよねー!」
ヒナが頬に手を当ててうっとり語ると、ユイも身を乗り出して具材のこだわりを語り始めた。
「野菜もたっぷり入れられるのが良いよね! シャキシャキの歯ごたえが残るくらい煮込むのが一番美味しいんだから!」
「野菜ですか?」
未知の鍋料理に興味津々のブラリリがメモを取り始める。サクラが指を立てて教え込んだ。
「そうよ! ニラ、キャベツ、山盛りのモヤシが黄金の基本セットね!」
「刻んだニンニクもドバッと入れると、スタミナ抜群でさらにグッドだよ!」
「あ、キノコと木綿豆腐も味が染み込んで美味しいから絶対入れてほしいなー!」
「甘みの中にピリッとしたアクセントを効かせるために、輪切りの鷹の爪も忘れちゃダメよ!」
転移者たちの熱烈なアドバイスを、ブラリリは真剣な眼差しで全て手帳に書き留めていった。
ーーそして、その夜。
豪華なダイニングテーブルの中央には、特製のスープから香ばしいニンニクと出汁の香りを立ち上らせる、山盛りの『特製もつ鍋』が鎮座していた。
最初は「内臓なんて……」と引き気味だった天使のアリアも、一口食べた瞬間にその濃厚な旨味とぷりぷりの食感の虜となり、誰よりも勢いよく箸を動かして一発でもつ鍋の大ファンになっていた。
さらに、鍋の楽しみである「締め」の段になると、ご飯を投入した濃厚なおじやにするか、ツルツルと喉越しの良い麺を入れるかで意見が真っ二つに分かれる事態に。
結局、俺の「両方やればいいじゃないか」という鶴の一声により、最初におじやを楽しみ、二杯目に麺を投入して完食するという贅沢すぎるフルコースとなった。どっちも甲乙つけがたいほど絶品だったのは言うまでもない。
この夜を境に、樹海帝国では怒涛の「モツブーム」が巻き起こることとなる。
調理ギルドからレシピが公開されるやいなや、各地で香ばしい煙を上げるホルモン焼きの専門店や、熱々の絶品もつ鍋屋が次々と開業。冒険者や市民たちの胃袋を掴んで離さない大流行となったそうだ。
……まあ、俺は普段あまり街の飲食店で外食をしないので、実際のフィーバーぶりは後から風の噂で知ったんだけどね。
さてさて、美味しいもつ鍋で満腹になり、英気を養った俺たち。
次はいよいよ、緊張感漂う前線の町へ向けて出発することになった。
一体どんな未知なる美味しい食べ物や、珍しい特産品が待っているのか……今から楽しみで仕方がない。
……ん?
……待てよ?
俺たち、何か大事な戦いとか国家の危機とかを忘れて、呑気にメシの話ばかりしてないか……?
こんなゆるゆるな物語だったっけ……?
すいません、脱線しすぎました。次回からは、バッチリ気を引き締めてメインストーリーを爆速で進めます!




