第353話 【驚天動地の完全崩壊!】迷宮が消えた街の凄惨な末路と、新・迷宮都市で開幕する無双の宴!
「グレイア、アキルイさんの商会の移転作業は頼んだぞ。ヴァンスの国とアマゾネス国の中間に新しく巨大な迷宮都市を作って、そこにあの『千尋の洞窟』を丸ごと移転させる計画だ。サクラとヴァンス、ヒポリュテには既に現地で計画を始動してもらっているから、3人と密に協力して進めてくれ」
俺が指示を出すと、ダークハイエルフのグレイアは胸に手を当てて優雅に一礼した。
「畏まりました、ヒロト様。このグレイア、主上の御意思に従い完璧に執り仕切ってみせます」
「よし。……それからアキルイさん」
俺は目を丸くして立ち尽くす三つ目族の商人、アキルイへと向き直った。
「これから新しい都市の運営や商会の展開で、色々と重要な仕事をやって貰うことになる。その前に、俺の眷属になってほしいんだが……どうかな?」
「け、眷属……ッ!? 皇帝陛下直属の眷属ですか……ッ! 先ほどグレイア様から、眷属となれば破格の絶対的加護と恩恵が得られると伺っておりました! 願ってもないお話です、是非ともよろしくお願い致します!」
アキルイは感涙を流さんばかりの勢いでその場にひれ伏した。俺は微笑みながら彼の肩に手を置き、意識を研ぎ澄ます。
「テイム!」
俺が念じた瞬間、全身を温かな神聖な光が包み込み、脳内に澄んだアナウンスが響き渡った。
<アキルイをテイムしました。>
「おお……おおおおおッ!? な、なんという魔力……! 全身から爆発的な力がみなぎってきます! これが……これが皇帝陛下の眷属の力なのですね……ッ!」
アキルイは己の手を見つめ、桁外れに底上げされた自身のステータスと溢れ出る万能感に体を震わせて歓喜した。その姿を見て、グレイアがどこか誇らしげにクスリと微笑む。
「当然よ。ヒロト様の眷属となれた幸運を噛み締め、これからは帝国の繁栄のために全身全霊で働きなさい」
「ははッ! この命に代えましても、皇帝陛下のために尽力いたします!」
アキルイが固い忠誠を誓ったその頃、現地では規格外の大工事が急速に進められていた。
吸血鬼真祖ヴァンスとアマゾネス国女王ヒポリュテは、新しい迷宮都市の建設地を即座に決定。両国の境界線上に位置する、広大で交通の便が良い平原が選ばれた。
ダンジョンマスターである魔女のサクラは、同じくダンジョンマスターとなった魔神パズズのバズとともに、巨大な『千尋の洞窟』を空間ごとそっくり移転。
さらにサクラは自身の膨大なダンジョンコアのポイントを惜しみなく投入し、なんと迷宮の直上に近代的かつ完璧な新しい迷宮都市を構築して見せたのだ。
その後、完成した地上都市はシステム上でサクラからバズへと譲渡され、名実ともに『千尋の洞窟』の一部……地上階層として組み込まれた。
その都市の設計は、実に緻密なものだった。
三つ目族の商人アキルイ、ヴァンス、ヒポリュテの三人が何度も協議を重ねた都市計画に基づき、理想的な配置で店舗や住居が組み上げられていったのだ。
サクラの手によって作られた街並みは、樹海帝国の各都市と同様に完全な上下水道が完備され、馬車が何台もすれ違えるほど広いメインストリート、市民が憩う緑豊かな公園まで配置された。この世界のどの国家を探しても存在しない、完璧で圧倒的にクリーンな最新鋭都市が誕生したのだ。
街の完成と同時に、アキルイの巨大商会と高級宿屋が堂々と開業した。
噂を聞きつけたヴァンスの国の吸血鬼眷属たち、アマゾネス国の精鋭戦士たち、さらには有翼人の国をはじめとした近隣諸国から無数の冒険者たちが殺到。出来上がったばかりの都市とは思えないほど、街は連日連夜、爆発的な熱気と盛況を極めることとなった。
さらに、この新しい迷宮都市には、剣聖にして元オークエンペラーである樹海帝国の将軍オニバル率いるアンデッドナイトマスター侍軍団が常駐。兵の鬼のような訓練とレベル上げのために『千尋の洞窟』を徹底的に攻略・周回し始めた。
おかげでダンジョンからは伝説級の超高級素材が次々と産出され、それを一手に買い取るアキルイの商売も大儲けで懐が潤いまくる。
ちなみに、この新都市の実質的な領主にはアキルイをそのまま抜擢した。生粋の商人であり、眷属として覚醒した彼なら、上手いこと完璧に管理してくれるだろう。
また、オニバル軍団が深層で魔物を狩りまくったおかげで、ダンジョンポイントも以前とは比べものにならないほど爆発的に増加。ダンジョンマスターのバズも「こんな数字見たことがありません!」と大喜びだ。
潤沢すぎる大量のダンジョンポイントを背景に、売却素材が高く売れるレア魔物や、倒すと莫大な経験値が得られるメタル系の魔物を計画的に配置。結果として『千尋の洞窟』の人気はうなぎ登りとなり、世界中の冒険者憧れの聖地となったのである。
何しろ、街を納める領主のアキルイと、迷宮を管理するダンジョンマスターのバズは、同じ俺の眷属同士だ。どれだけ離れていようと念話で自由自在に連絡が取れる。
互いに最大限の利益が出るよう、裏でいくらでも調整できるのだから、盛り上がらないはずがなかった。
◇
一方その頃……『千尋の洞窟』が跡形もなく消滅してしまった旧・迷宮都市ラビリス。
事態は、移転作業が始まった瞬間の大混乱からスタートしていた。
ダンジョンの解体と同時に発動した強制排出システムにより、その時迷宮内にいた無数の冒険者たちが、一瞬にして地上へと放り出されたのだ。
迷宮の出入口があった大広場に、何百人という冒険者がドッと転移させられる。
「な、なんだ!? 一体何が起きた!?」
「おい、ここはどこだ!? 俺たちは確か地下15階でボスと戦っていたはずだぞ!?」
「どうやら……迷宮の外のようだが……」
混乱する冒険者たちが周囲を見回し、やがて全員が驚愕に目を見開いた。
「あ……あそこを見ろ! 迷宮の入口が……巨大な穴が、無くなっているぞ!?」
「え……!? そ、そんな馬鹿なッ! 巨大な大穴と石造りの門が、跡形もなく消えている……!?」
『千尋の洞窟』が迷宮都市ラビリスから跡形もなく消え去っている事実に気づいた冒険者や、警備していた兵士たちは、顔を青ざめさせて領主館や冒険者ギルドへ怒号を上げながら走り出した。
報せを受けた冒険者ギルド内は、まさに蜂の巣をつついたような大混乱に陥った。
迷宮が存在することで成り立っていた街だ。迷宮が無くなれば、冒険者たちは明日からの仕事も稼ぎも完全に失うことになる。
事態を重く見たギルド幹部は、即座に高ランクの上位冒険者たちを招集し、消えた迷宮の調査を依頼した。
しかし、どれほど周辺を調べ上げようと「迷宮が跡形もなく消滅した」という残酷な事実が確認できるのみ。
なぜ消えたのか、どこへ行ったのか——その真相に彼らが辿り着く術は、永遠に存在しなかった。
さらに、慌てて事態の収拾を求めに領主館へ報告に行った兵士たちは、そこで更なる絶望に叩き落とされることとなる。
「……いない? 領主様も……ラブリル様も……近衛騎士団の方々も全員、どこにもいらっしゃらない……!?」
館の中は完全にがらんどうで、人っ子一人存在しなかった。
それもそのはず、ラバガル子爵も娘も騎士たちも、全員まとめて俺の樹海帝国で武器を取り上げられ、絶賛強制労働の真っ最中だからだ。
頼るべき領主も騎士団も消え失せ、迷宮都市ラビリスは一夜にして完全に崩壊した。
売るための素材が迷宮から一切入手できなくなった大手の商会は、即座にこの街を見捨てて撤退。
仕事が完全に立ち行かなくなった無数の冒険者たちも、次々と他の都市へと移住していった。
さらに、商人や冒険者を顧客としていた宿屋、酒場、武器屋などの各種商店も商売にならないため、雪崩を打つように別の町へと移転していった。
栄華を誇った迷宮都市ラビリスは、文字通りあっという間に不気味なゴーストタウンへと化してしまったのだった。
◇
そんな騒動を余所に、俺たちは樹海帝国皇帝の城にある、いつもの日当たりが良いリビングへと戻ってきていた。
ふかふかのソファに深く腰掛けながら、お茶を淹れてくれたアンナにふと気になっていた疑問を投げかけてみる。
「そういえばさ、アンナ。そもそも最初の原因だった『冒険者ギルドと領主の確執』って、結局なんだったんだ?」
アンナは優しく微笑みながら、淹れたての紅茶をテーブルに置きつつ説明してくれた。
「ふふ、グレイア様経由で調べさせましたが……どうやら、他の大貴族が裏からあの迷宮都市ラビリスにちょっかいをかけていたようですわ」
「へぇ……他の貴族がねぇ。じゃあ、冒険者ギルドはその大貴族の意向を受けて、領主のラバガル子爵に嫌がらせを仕掛けていたってことか?」
「そのようです。ラバガル子爵を追い詰め、弱みにつけ込んで最終的には迷宮都市ごと乗っ取り、自分たちの領地にする計画だったようですわね」
「あちゃぁ……。冒険者ギルドって、そういう政治的な権力闘争からは中立を保って、距離を置いている組織なんじゃないのか?」
「組織全体の理念としてはそのような理想を掲げておりますが……末端の人間や権力に目が眩んだ個人までは制御しきれないのでしょう。今回はラビリスのギルド長自身が、その大貴族と裏でしっかりと手を組んでいたようです」
「なるほどねぇ。中立を謳うギルドの長が自ら裏金で貴族と粘着して悪だくみか。本当に腐りきってるね」
俺は呆れたように肩をすくめ、サクラが用意してくれた甘いお菓子に手を伸ばすのだった。




