第352話 【驚天動地の迷宮消失!】ダンジョン丸ごと解体&新都市創造! 樹海帝国の規格外すぎる大計画!
ダンジョンマスターでもある魔女のサクラが、恐縮しきりの魔神パズズ——バズに向かい、可愛らしく首をかしげながらダンジョンの転移手順を説明し始めた。
「いい? 構造としてはとっても単純なのよ。まずね、現在この『千尋の洞窟』内に放している魔物たちを全て一度ダンジョンポイントに変換して、ダンジョンコアへ回収するの。その後、この玉座の間を除いた全ての階層と地形もダンジョンポイントへと還元する。そしてコアをそのまま移転先へ持って行って、向こうで一気に展開し直す! 最後に、余ったこの部屋を埋めて終了。ね、簡単でしょ?」
「……そ、それだけって……ッ! 迷宮を丸ごと解体してポイントに戻すなんて、そんな神業のようなマネを……!」
想像を絶するスキルのスケールに、バズは目ん玉が飛び出んばかりに驚愕して呆然と立ち尽くしている。
「大丈夫よ、細かいポイントのバイパス操作は後で私がバッチリ仕込んであげるから」
サクラの頼もしすぎる言葉に、俺はふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
「なぁ、サクラ。ダンジョンを急にポイントへ戻した時、今現在ダンジョンの中で攻略中の冒険者や探索者たちってどうなるんだ? もしかして、階層の消滅に巻き込まれて崩落の犠牲に……生き埋めになっちゃうのか?」
「ふふっ、大丈夫よ~! システムの強制排出機能が働くから、ダンジョン内にいる人間は全員、無傷で地上(ダンジョン外)の安全な場所に転移で放り出されるわ。ちょっとビックリはするでしょうけどね」
「なるほど、それなら惨事にならずに済むな」
「この玉座の間だけを残して最後にするのは、ここまですぐにポイントへ戻しちゃうと、私たちまで冒険者たちと一緒に地上へポイッと放り出されちゃうからなのよ。そんなことになったら、移動の段取りが崩れて面倒くさくなっちゃうでしょ?」
「確かに、ここで放り出されたら目立って仕方がないな。よし、迷宮の解体と移転作業の指揮はサクラに任せるよ」
「ラジャー!」
サクラは愛らしく右手を開き、ピンと額に掲げて茶目っ気たっぷりに敬礼してみせた。そのあまりの可愛さに、場が一気に和らぐ。
俺は視線をヴァンスとヒポリュテの二人へと向けた。
「ヴァンスとヒポリュテは、アマゾネス国とヴァンスの領地の中間地点で、移転先に一番相応しい広大な土地の選定をお願いしたい」
二人は背筋をピンと伸ばし、力強く深く頷いた。
「「承知いたしました、皇帝陛下!」」
「……そうだ。ただダンジョンを置くだけじゃ面白くないな。ダンジョンの直上に、新しい町を作った方が経済的にも流通的にも都合がいい。バズ、ダンジョンポイントを使って、地上に巨大な構造物の町を作れるか?」
「だ……ダンジョンポイントで、地上に町を……!? 迷宮内ではなく、地上にですか……!?」
バズは未知の概念にキャパシティを超えたようで、目を白黒させて固まってしまった。
「あー、まだポイントによる地上建造のシステムを分かってないか。サクラ、町の作成もバズの手伝いをしてやってくれ」
「はいよー! まぁ、もしバズの残りのダンジョンポイントが足りなかったら、私のダンジョンコアからポイントを引き出して、地上都市を作ってからバズに譲渡してあげるわ」
「じょ、譲渡……!? ダンジョンコアのポイントを他者に譲渡するなど、そんなことが……!?」
「ふふ、それも後でじっくり説明してあげるわね」
「わ、分かりました……サクラ様、よろしくお願い致します……!」
バズはもはや、樹海帝国の規格外すぎる常識に圧倒されるがまま、深く頭を下げた。
「サクラ、頼んだぞ。具体的な町の構造や配置については、ヴァンスとヒポリュテ、あとは後で紹介する商人のアキルイとじっくり相談して決めてくれ」
「了解よ! 最高にカッコいい町を作ってみせるわ!」
「ああ、それと……移転直後、当面の間ダンジョンポイントが順調に取得できるようになるまでは、オニバルの軍をダンジョン内に常駐させようと思っているんだ。剣聖にして元オークエンペラーのオニバル率いるアンデッドナイトマスター侍軍団の圧倒的な戦闘力なら、ダンジョン内の凶悪な魔物を狩りまくって、大量のポイントを稼いでくれるだろうからね。迷宮内を実戦訓練の場としても活用できるし、一石二鳥だ」
「ナイスアイデアね! オニバルへの指示と軍の配置については、私から伝えておくわ」
「助かるよ、サクラ。頼むね」
俺は愛おしさを込めて、サクラの柔らかい頬にチュッと軽いキスを贈った。
「アハッ! ヒロトったら~! よーし、気合入っちゃった! 早速移転の準備に取りかかっちゃおうかしら!」
サクラは嬉しそうに頬を染めると、まだ呆然としているバズの首根っこを掴むようにして、玉座の奥にある巨大なダンジョンコアの方へとパタパタと歩いて行った。
俺は残された二人に向き直る。
「ヴァンス、ヒポリュテ、急な呼び出しに応えてくれて有難う。二人を元の場所へ送還するから、移転先の土地選びは早急に進めてくれ」
「「承知いたしました!」」
送還の魔術を発動し、光とともに二人を送り返すと、俺もすぐさま転移魔術を展開して『小鳥の宿』の個室へと戻った。
『小鳥の宿』の一室では、ダークハイエルフのグレイアが三つ目族の商人アキルイへの状況説明をちょうど終えたところで、静かに待機していた。
また、買い出しに出ていたブラウニーのブラリリも街から無事に戻ってきており、俺の帰還を待っていたようだ。
「ただいま」
俺が部屋に足を踏み入れると、グレイアが気品あふれる一礼をもって出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ヒロト様。アキルイ殿への事情説明および樹海帝国の概要についての説明は、全て完了いたしました」
「有難う、グレイア。……さて、それじゃあ早速この迷宮都市ラビリスを引き上げようか。アキルイさん、貴方の商会の本拠地や支店はどこか他の町にあるのかな? 樹海帝国へ向かうついでに、荷物も店舗も丸ごと転移させて引き払おうと思うんだが」
「え……店ごと、転移……!?」
アキルイは突然の提案に目を丸くした。俺はニッコリと笑って頷く。
「うん。アキルイさんにはこれから、北の小国群のとある領地に新しく作る『新しい町』に移って、そこで商会の総責任者になってもらう。その町には、あの『千尋の洞窟』もそのまま丸ごと移転してくる予定なんだ」
「な……ッ!? 迷宮を……町ごと移転!? そんな、神のような御業が本当に可能なのですか……!?」
「可能だよ。だから『千尋の洞窟』は、今日中にこのラビリスの街から綺麗サッパリ消えてなくなるね。明日には、迷宮が無いのに『迷宮都市』を名乗る哀れな街になっちゃうよ」
「うわぁ……あの強欲なラバガル子爵が知ったら、気絶から覚めたあとに血吐いて倒れそうですね……! いやはや、恐れ入りました。実は、私の商会は複数の都市に拠点を構えておりましてね。このラビリスという都市には、新しく事業を進出させる手始めとして、拠点兼宿屋としてここ『小鳥の宿』を作り上げたばかりだったのです」
「ほほぅ! この落ち着いた素晴らしい『小鳥の宿』は、アキルイさんの直営の店だったんだね!」




