第351話 【迷宮丸ごと超・大移動!】皇帝ヒロトの規格外な天与! 属国を潤す絶大な慈悲と新次元の領域移転!
悪魔ベルフェゴルのサクラ、樹海帝国の伯爵で吸血鬼真祖のヴァンス、そして属国アマゾネス国の女王ヒポリュテの三人に俺は念話を繋ぎ、迷宮『千尋の洞窟』地下30階へ召喚する旨を伝えた。
三人から快諾の返事をもらうやいなや、即座に召喚魔術を発動させる。
空間が揺らぎ、光の粒子とともに三人が姿を現した。
「ヒロト~! 逢いたかったわ~! 久しぶりぃ~!」
召喚されるやいなや、満面の笑みを浮かべたサクラが弾むような足取りで跳びついてきた。
俺は急な衝撃を受け止めつつ、愛くるしいサクラの頭を右手で優しくなでなでし、左腕でその華奢な体をしっかりと抱き抱える。
「来てくれて有難う、サクラ。……実は、どうしてもサクラに教えて欲しいことがあってさ」
「ふふっ、ヒロトの頼みなら何でも聞いてあげるわよ! なぁに?」
俺の腕の中で甘えるように頬を寄せてくるサクラの後方で、共に召喚されたヴァンスとヒポリュテが、微笑ましいものを見るような温かい目で見守っていた。
「ヴァンス、ヒポリュテも突然の召喚に応じてくれて有難うな」
「はっ! 皇帝陛下のご命令とあれば、たとえ火の中水の中、いつでも参上致しますわ! それこそ……私が入浴中であろうと、トイレに入っている最中であろうと、陛下さえ良ろしければいつでも何時でもお呼びください!」
凛々しい立ち振る舞いのアマゾネス女王ヒポリュテだが、その発言はあまりにも全力すぎる。
「いや……流石にトイレ中は嫌かな」
俺が苦笑交じりに返すと、ヒポリュテはハッとしたように上目遣いで俺を見つめ、急に頬をぽっと赤く染めてもじもじし始めた。
(……ん? なんだか、すごくわたわたしてるな。もしかして、本当に行きたかったのかな?)
召喚されたタイミングが悪く、我慢させてしまったのかもしれない。俺は気遣うように声をかけた。
「あ、もし本当にトイレに行きたいなら、遠慮せずに一度行ってきたらどうだ?」
「そ、そんなっ!? 滅相もありません! 決してそのような意味ではございませんわ! だ、大丈夫です、平気ですっ!」
顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振るヒポリュテ。
すると、俺の腕の中にいたサクラが、呆れたように小さく肩をすくめ、俺の耳元へ口を寄せて小声で囁いた。
「ヒロトったら、本当に鈍感ね……。ヒポリュテは貴方に心底惚れてて恥ずかしがってるのよ。察してあげなさいな」
「ほ、惚れてる……? そ、そうなのか……」
意図せぬ乙女心を知らされ、俺は少し動揺してしまった。
一方、余裕の笑みを浮かべていたヴァンスが軽く肩をすくめて会話に割り込んでくる。
「ハハハ、俺だって流石にトイレ中の召喚はご免被りたいよ。ところで陛下、こんな凄まじい密度の魔力が渦巻く迷宮の最下層に、俺たちを呼び出した目的は何なのですか?」
「ああ、順を追って説明するよ。まずは紹介が先だな。今回、この迷宮『千尋の洞窟』のダンジョンマスターだった魔神パズズ……改め、バズを俺の眷属にしたんだ」
俺の後ろに控えていたバズが、恐縮した様子で深く頭を下げた。
「この度、ヒロト主上の眷属に加えていただきました、迷宮『千尋の洞窟』のダンジョンマスター・バズと申します。新参者の未熟者ですが、皆様どうぞよろしくお願い致します」
「樹海帝国伯爵のヴァンスだ。よろしく頼むよ」
「樹海帝国の属国であります、アマゾネス国の女王ヒポリュテと申します。よろしくお願い致します」
「私は樹海帝国皇帝ヒロトの正妻にして后妃、悪魔ベルフェゴルのサクラよ。仲良くしましょうね」
それぞれが手短に自己紹介を交わす。
場が温まったところで、俺は本題を切り出した。
「実はさ……この広大な迷宮『千尋の洞窟』を、ヴァンスの領地とアマゾネス国の中間地点くらいに、丸ごと移転しようと思っているんだ」
「「えええっ!?」」
ヴァンスとヒポリュテが同時に目を見開いた。
「い、移転!? 迷宮そのものを動かすのですか!? それは……何とも素晴らしい!」
「移転だなんて……! 一体どうやって……そんな神業のようなことが可能なのですか!?」
「サクラ、確かダンジョンの移転って出来るんだよな?」
俺が腕の中のサクラに尋ねると、彼女は自信満々に胸を張った。
「もちろによ! 難易度は高いけれど、核の魔力を正しくバイパスさせれば簡単に出来るわ。なんだったら、私の所有しているダンジョンもまとめてヒロトの近くに持ってきてあげましょうか?」
「いやいや、サクラのダンジョンは今の場所で機能してるから大丈夫だよ。バズのダンジョンがラビリスの領地内にあると、強欲な領主とか面倒な連中に目を付けられてウザいから動かしたいんだ。それに……ヴァンスとヒポリュテに承諾をもらえれば、二人の国の近くに移転させることで、経済の発展と防衛力の強化を一気に図れると思ってね」
俺の意図を聞いたヴァンスは、目から鱗が落ちたように膝を打った。
「なるほど……! 我が国の兵士たちのレベル上げの場として活用できるだけでなく、万が一他国との戦争になった際、ダンジョン内の無数の強力な魔物たちをそのまま天然の防衛戦力として利用できるわけですね! 我が国への破格のお気遣い、心より感謝申し上げます! 是非ともお願い致します!」
ヒポリュテも歓喜に目を輝かせた。
「我がアマゾネス国にとっても夢のようなお話です! 迷宮から産出される貴重な素材やドロップアイテムを自国で直接売買できるようになれば、国力が何倍にも跳ね上がります! 是非、お願い致します陛下!」
「よし、喜んでもらえてよかった。それともう一つ。この街で知り合った三つ目族の優秀な商人アキルイという男がいるんだ。彼の商会も両国の近くに移転させて、ダンジョンに関わる素材の買い取りや商売の流通を一手に管理させようと思っている」
「承知致しました! アキルイ殿の受け入れ態勢を即座に整えさせます!」
「うむ、特に問題はないね。勿論、彼が上げる商売の利益からは、しかるべき税を納めてもらうけれどね」
「それは当然の義務だな。詳しい条件や手続きは、後でアキルイ本人と直接詰めてやってくれ」
「了解したよ、陛下」
話がスムーズにまとまり、俺はバズとサクラの方に向き直った。
「サクラ、バズはダンジョンの具体的な転移のやり方が分からないらしいんだ。やり方を教えてあげてくれないか?」
「いいわよ~! コツさえ掴めばそんなに難しくないから、優しくスパルタで教えてあげるわ!」
「お、お願いしますサクラ様……! 本当にこの大迷宮を丸ごと移転できるのですね……!」
未知の領域への期待に目を輝かせるバズに、サクラはニヤリと頼もしい笑みを返したのだった。




