第350話 【驚愕の一撃沈黙!】愚鈍なる領主を一瞬で粉砕! 迷宮都市を揺るがす樹海帝国皇帝の真威!
目の前の惨状も理解できず、自らの優位を疑わないラバガル子爵は、下品な笑みを浮かべながら横柄に言い放った。
「ハハハッ! 平民ども、そこへ平伏して土下座しろ! そして涙を流しながらひたすら謝罪するのだ! 貴様らの反省の色次第では、生かして奴隷くらいにはして許してやらなくもないぞ!」
権力に胡坐をかいた愚かな発言に対し、俺は心底呆れ果てた溜息をつき、冷ややかな視線を向けた。
「いや、謝る気は1ミリも無いよ。……と言うより、今のであんたたちを無傷で逃がしてやるっていう選択肢が、完全に消え去っただけなんだけどな」
俺の突き放すような一言に、先頭に立つ騎士が血相を変えて激怒した。
「無礼者めッ! その不遜な言葉使いこそが重大な不敬罪なのだッ! 訳の分からぬ戯言を抜かすなッ!」
「「「殺せぇぇッ!!」」」
騎士たちは一斉に鋭い剣を抜き放ち、ギラギラとした殺気と怒りを剥き出しにして、ゆっくりと間合いを詰めてくる。20名以上の重装騎士が放つ圧迫感は、普通の人間なら腰を抜かすほどの恐怖だろう。
俺は言葉を交わすのも不毛だと悟り、肩をすくめた。
「……はぁ。スラオ、頼んだ」
俺の呼びかけに応じ、服の中に潜んでいた存在が静かに動き出した。
俺の胸元に同化しているスラオは、元々は可愛らしいスライムの形態だ。
だが、俺の眷属となってから凄まじいペースで進化を繰り返し、最終的に悪魔ベルゼブブ、果ては亜神バアルゼブルの領域にまで到達した規格外の存在である。
進化の過程で「マジックスライムエンペラー」の境界も跨いでいるため、この世界に存在するあらゆる属性の魔法を極限の威力で使いこなすことができるのだ。
服の隙間からスラオの漆黒の触手がわずかに覗いた瞬間——
バリバリバシィィィッッッ!!!!!
閃光が炸裂した。
スラオが放った超高圧の紫電が、網の目のように空間を走り抜ける。
雷撃の速度は文字通りの『光速』。人間が反応することなど物理的に絶対に不可能だ。
ドカ通しで落雷を受けたかのような轟音が響き渡り、次の瞬間には、威勢の良かった領主ラバガル子爵、娘のラブリル、そして襲いかかろうとしていた20名の騎士団全員が、白目を剥いて同時に崩れ落ちた。
誰一人として何が起きたのか理解できぬまま、一瞬のうちに意識を刈り取り、全員まとめて気絶させたのだ。
あまりの静寂に、宿の物陰から恐る恐るアキルイが姿を現した。
「え……えええッ!? ひ、ヒロト様……まさか、一瞬で全員殺してしまったのですか……!?」
「いやいや、殺してないって。ただ絶妙な塩梅で気絶させただけだよ」
俺が何でもないことのように答えると、アキルイは膝をガクガクと震わせ、絶句した。
「す、凄すぎる……あの精鋭で知られるラビリスの騎士団が、指一本触れられずに一瞬で全滅するなんて……」
俺は倒れ伏す重装騎士たちの山を見下ろしながら、後ろに控えていたダークハイエルフのグレイアに声をかけた。
「グレイア、こいつらをこのまま街の真ん中に放置しておくわけにもいかないし、樹海に送っちゃって」
「承知いたしました、主上」
グレイアが優雅に頷くのを確認しつつ、俺は遠く離れた本拠地にいる眷属へ念話を開いた。
(デステル、聞こえるか? 今からそっちに領主と騎士団を含めた数十人ほど身柄を転送するんだけど、全員の装備と武器を取り上げて、開拓地でみっちり強制労働させてくれ)
念話の向こうで、堕天使サリエルこと死神デステルが「御意にございます、皇帝陛下。貴重な労働力として有効活用させていただきます」と恭しい声で返してきた。よし、無駄なく有効利用させてもらうとしよう。
グレイアが細い指先をすっと掲げると、倒れている領主、娘、騎士たちの足元に禍々しい闇の沼が出現した。
ズズズズ……ッ!
気絶してピクリとも動かないラバガル子爵たちは、悲鳴をあげることもなく、底なしの闇の中へと静かに沈み込んで消えていった。
「さてと……アキルイ、この後どうするんだ? 領主一族が消えたとなれば、この街も大騒ぎになると思うけど」
アキルイは苦笑いを浮かべながら、深く溜息をついた。
「ハハ……流石にこうなってしまっては、もうこの国には居られませんね。速やかに商会を畳んで、追手の及ばない北の小国群へでも逃亡して一からやり直しますよ」
「そうか……なら、アキルイ。どうせなら俺の国においでよ」
「……え? 俺の国、ですか?」
アキルイが首をかしげる。俺は頭の後ろで手を組みながら、サラリと自分の正体を明かした。
「ああ。俺は樹海帝国皇帝のヒロトだ」
「え……えええええええッ!? じゅ、樹海帝国……!? あの破竹の勢いで世界を震撼させている、あの新興帝国の……こう、皇帝陛下ぁぁッ!?」
三つ目族の商人アキルイは目が飛び出んばかりに驚愕し、その場に勢いよくひれ伏して激しく膝をついた。
「お、お赦しください皇帝陛下! 知らなかったとはいえ、これまであまりにも不敬な態度を……ッ!」
「ああ、そういう堅苦しいのはやらなくていいよ。普通に接してくれなきゃ調子狂うし」
「そ、そう仰られましても……相手が皇帝陛下となると……!」
冷や汗を流して恐縮しまくるアキルイに対し、俺は笑いながら次の提案を出した。
「取り敢えず、俺たちの属国であるアマゾネス国で商売をしてほしいんだ。実はこれから、あの迷宮『千尋の洞窟』もアマゾネス国のすぐ近くに移動させるつもりだからさ。商機は山ほどあるぞ?」
「め……迷宮を、移動……!? そんな神のごとき芸が可能なのですか……!?」
開いた口が塞がらない様子の生真面目なアキルイ。
ちょうど買い出しに出ていたブラウニーのブラリリが街から戻ってくるまでもう少し時間がかかりそうだったため、俺は三つ目族の商人アキルイに樹海帝国の構造や規模について説明することにした。
もっとも、細かい説明をするのは面倒くさかったので、全部グレイアにお任せしたんだけどね。グレイアが誇らしげに帝国の威光を語る姿を横目に、俺はスキルを発動させた。
一瞬で空間を跳び越し、俺は眷属にしたばかりのダンジョンマスターで魔神パズズのバズ、のもとへと転移した。
ここは地下30階の玉座の間。
「バズ、ご苦労様」
突然姿を現した俺に対し、バズは慌てて羽を折りたたみ、頭を下げた。
「し、主上ッ! お疲れ様です! 一体いかがなされましたか?」
「早速なんだけどさ、この迷宮をまるごと別の場所に移転したいんだよね」
「い……移転、ですか!?」
バズは目を丸くして驚いた。
「なに、移転って出来ないの? この迷宮がラビリスの領地にあると、色々と面倒な奴らに目を付けられてウザいんだよね」
「そ、そんな事を言われましても……そもそも迷宮そのものを移転させるなどという術式、聞いたこともありません。本当に可能なのですか……?」
「出来るはずだよ。だって、同じダンジョンマスターで悪魔ベルフェゴルのサクラが、以前『ダンジョンポイントを使えば迷宮の核ごと移転できる』ってそんな感じのこと言ってたはずだし」
「サクラ様が……!? ははぁ、なるほど……。ならば主上、具体的な移転のやり方さえ教えていただければ、私に不服など一切ございません!」
「よし、話が早くて助かるよ。それじゃあ、サクラをここに呼んでみようか。ついでに移転先に考えている領地の領主も一緒に呼ぶとしよう」
俺はそう呟くと、さらなる大移動計画に向けて連絡を取るのだった。




