第347話 【新記録達成の衝撃と不穏な影!】ダンジョン制覇の結末! 狙われた商人アキルイと迫る領主の罠!
迷宮都市ラビリスの大迷宮『千尋の洞窟』、地下30階ボス部屋。
激闘(?)の末、俺はこの階層を統括していたダンジョンマスターの魔神パズズを無事にテイムした。
そして、彼には新しく『バズ』という威厳の欠片もない名前を授けたのだった。
俺は悪魔ナベリウスであるコボ2の背から降り、頭を下げているバズへ気楽に問いかけた。
「バズ、ところで気になってたんだけどさ、このダンジョンって全部で何階まであるの?」
「は……地下50階まで存在しております、主上」
「え、あと20階層もあるんだ……結構深いな」
「はい……? それはどういう意味で……?」
バズが困惑の表情を浮かべる中、元勇者でエルダーリッチのユイが、パズズを倒したことで室内の奥に新しく出現した階段を見つけてパッと顔を輝かせた。
「じゃあ、さっそく次の階に行こー!」
テイムが完了したことで迷宮の仕掛けが更新され、地下31階へと続く道が開かれたのだ。ユイは軽い足取りでその階段に向かってズンズンと歩き出してしまう。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいッ!」
バズは慌てて羽を羽ばたかせ、ユイの前へと滑り込んだ。
「ん? なに? どうしたの?」
「下に行って……一体何をなさるおつもりなのですか!?」
「え? 勿論、討伐&素材回収だよー! 31階以降の魔物もどんどん狩って、レア素材を大量ゲットしなきゃ!」
「や、やめてくださいッ! 討伐された魔物を再出現させるには、膨大なダンジョンポイントが必要になるのです! これ以上狩り尽くされたら、ダンジョンの維持機能が崩壊してしまいますッ!」
バズが涙目になりながら本気で懇願してくる。
俺はあごに手を当てて少し考えた。
「……そだね。バズを眷属にした以上、このダンジョンは言わば俺の所有物みたいなものだしな。管理者の懐を痛めさせてまで乱獲するのも悪いし、ここらで今回の迷宮探索は止めておこうか」
「えーっ!? もう終わりなのー!?」
ユイが露骨にガッカリした様子で唇を尖らせたが、隣にいた龍脈の魔女ウィーラが肩をすくめて宥める。
「まあ、主様がそうおっしゃるのならしょうがないじゃろ。自分の領地を荒らすようなものじゃからのう」
「うう……がっかり。もっと暴れたかったのにぁ」
「よし、バズ。俺たちは一旦地上へ帰るわ。また後で連絡するから、ダンジョンの管理よろしくな」
「は、はいっ! ご配慮感謝いたします、主上!」
バズの見送りを受けながら、俺たちは転移の陣を使って地上へと戻ることにした。
◇
地上へ戻った俺は、いつも懇意にしている商人のアキルイに会って、今回獲得した大量の素材を買い取ってもらうことにした。
指定した『小鳥の宿』のプライベートな個室で、アキルイとテーブルを挟んで向かい合う。
「アキルイさん、頼まれていた素材を持ってきたよ」
「おお、ヒロト様! お待ちしておりました。お怪我もなさそうで何よりです。……今回は一体、何階まで行かれたのですか?」
「地下30階だ」
「な……ッ! 地下30階ですか!?」
アキルイは驚愕のあまり持っていた羊皮紙を落としそうになり、目を見開いた。
「ええっ、それはこの迷宮都市ラビリスの歴史上、前人未踏の新記録じゃないですか! 冒険者ギルドがひっくり返りますよ! ……もしや、地下30階が最下層だったのですか?」
「いや、最下層は地下50階だ。でも31階より下には行かない事にしたよ。……この洞窟の探索は、今回で最後だ」
「そうですか……承知いたしました。理由など色々とお聞きしたいことは山ほどありますが、深く聞くのは野暮というものでしょう。控えておきます」
「うん、その方がお互いのためだと思うよ」
アキルイは深く納得したように頷いた後、ふと思い出したように声を少し潜めて言った。
「ところでヒロト様……この街の領主であるラバガル子爵のお嬢様が、ヒロト様の行方を必死に探していらっしゃいますよ?」
「ふむ……ダンジョン内で成り行きで助けてしまったのだが、今思えば失敗だったな。会うつもりは全くないよ」
「それが賢明でしょうね。実を言いますと……私が最近市場に仕入れた規格外の超高級素材ですが、ヒロト様から入手したルートであることが、領主側にほぼバレてしまっているのです。今お嬢様や領主様に会ったら、いろいろと面倒なことに巻き込まれるでしょうから」
「やっぱり……勘が鋭いというか、目ざといというか……」
俺がやれやれと溜息をついたその時、空間が揺らぎ、キラーアントエンプレスのアンナが気配もなくぬっと姿を現した。
「ヒロト様、ご報告いたします。この宿に向かって、武装した騎士たちが大挙して押しかけてきております。領主ラバガル子爵と、その娘も同行しているようですわ」
「えっ!? ここがもうバレたのかな?」
「いえ、気配を探る限り……どうやら彼らの狙いはヒロト様ではなく、そちらのアキルイさんを捕まえようとしているようです」
「えぇッ!? 私ですか!?」
アキルイが目を見開いて自分の胸を指さした。
「はい。間違いなくアキルイさんを包囲する動きです」
「一体何でしょう……私はラバガル子爵とは定期的に納入を行っており、関係は極めて良好だったはずなのですが……」
背後に控えていたダークハイエルフのグレイアが、冷ややかな笑みを浮かべながら告げた。
「ふん……アキルイさんが抱えている、主上から買い取った破格の超高級素材と利権をそのまま強奪するつもりでしょうね」
ウィーラも腕を組みながら不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「そして、アキルイさんを尋問して、ヒロト様の居場所を白状させるつもりじゃろ。浅ましい貴族の考えそうなことじゃ」
「なるほどね……。アキルイさん、逃げるか? 俺の隠れ家に匿ってもいいよ」
アキルイは冷や汗を拭いながらも、商人としての腹を括ったように頷いた。
「ふむ……お気遣いありがとうございます、ヒロト様。ですが、ここで逃げては商会全体に迷惑がかかります。取り敢えず、私が表に出て直接会って話をしてみましょう」
その時、部屋の扉が控えめにノックされ、宿屋の娘が青ざめた顔で入ってきた。
「す、すいませんアキルイ様……! 領主様がお見えになって、『アキルイに大至急話がある』とおっしゃっているのですが……」
「分かりました、すぐ伺います」
アキルイは静かに立ち上がり、嵐の予感が漂う1階へと足を進めた。




