第345話 【神速の屠殺と無慈悲な美食!】エルダードラゴン一瞬の滅絶! 秘術の開花と絶望に震える魔神!
迷宮都市ラビリスの誇る大迷宮『千尋の洞窟』、地下30階ボス部屋。
俺たちは今、ダンジョンマスターの正体を現した異形の魔神パズズと真っ向から対峙していた。
どうやら、この魔神パズズとの戦闘はもはや絶対に避けられないようである。
「フハハハッ! 後悔してももう遅いぞ! 我が絶対の僕どもよ、目覚めよ!」
パズズが凶悪な咆哮とともに巨大な手をかかげると、強力な召喚魔法が発動した。
パズズの左右前方に、部屋の半分を埋め尽くすほどの巨大で禍々しい二つの召喚魔方陣が地面に眩く展開される。
「お前たちが一体何者なのかは知らんが、ここで終わりだ! 我が真の力に恐れおののくが良いッ!」
咆哮とともに凄まじい風圧が吹き荒れ、二つの魔方陣の中から恐ろしい威圧感を纏った2頭の巨大なエルダードラゴンが出現した。天を突き破るような竜鳴が部屋中に響き渡る。
「どうだ! 圧倒的絶望とはこのことだ! 今更命乞いをしたところで既に遅いわ! 己の迂闊さを呪いながら、我が誇る最強のエルダードラゴンどもに無残に食い殺されるが良い!!」
高笑いしながら俺たちの絶望する顔を期待するパズズに対し、俺は思わず口元を緩ませて呟いた。
「おお……! これは凄いな、ドラゴンステーキが食えるじゃないか」
隣にいたキラーアントエンプレスのアンナも、うっとりと目を輝かせる。
「まあ! 最高級の竜肉ですね、ヒロト様。とっても美味しそうですわ」
「ふ……ふはは! バカを言うなッ! 混乱して頭がおかしくなったか!? 最強の種族たるエルダードラゴン2頭を、そう簡単に倒せる道理が——」
パズズの威勢の良い大演説など、俺たちの仲間は完全に無視していた。
背後では、誰が最初にドラゴンを料理するかを決める白熱したジャンケン大会が開催されている。
「最初はグー、ジャンケン、ポン!」
「やったぁぁーっ! 勝ったわ! 一番手は私ね!」
エルダーリッチにして勇者のユイが、無邪気に飛び跳ねて歓声を上げた。
「くっ……私が二番手か。一瞬で終わらせないでちょうだいね」
ダークハイエルフのグレイアが不満そうに唇を尖らせる。
「うう……負けたのじゃ。美味しそうな竜肉を真っ先に切り刻みたかったのじゃが……」
龍脈の魔女ウィーラががっくりと肩を落とし、アンナも残念そうに溜息をつく。
「ああ、残念ですわ。ヒロト様に私のカッコいいところをお見せしたかったですのに……」
「……???」
あまりに予想外すぎる目の前の光景に、魔神パズズは開いた口が塞がらないといった顔で、完全な無言になってフリーズしていた。自分たちが召喚した伝説の竜が、まるで食材扱いされているのだから無理もない。
「クスクス……それじゃあ、いくわよ! 実はね、この日のために練習していた新奥義を初めて実戦で使うの!」
ユイが可憐に微笑みながら、ふわりと宙へ舞い上がった。
異変を察知した1頭のエルダードラゴンが、巨大な顎を開いて口内に破壊的な魔力を猛烈に集め始める。超高威力のアシッドブレスを吐き出す構えだ。
だが、それよりも早くユイが両手を天に掲げて叫んだ。
「神聖なる裁きの光よ、全ての悪を打ち砕け! 『ホーリークラッシュ』!!」
エルダーリッチというアンデッドの頂点に立つ存在であるはずのユイが、なんと聖魔法における最高峰の最終奥義を高らかに唱えたのだ。
次の瞬間、エルダードラゴンの頭上に目が眩むほどの神聖な光が凝縮され、荘厳で巨大な魔力の塊が形成される。
まばゆいばかりの神聖な魔力。……え? ちょっと待って、エルダーリッチであるユイ自身は属性ダメージで大丈夫なのか!?
俺が焦る暇もなく、輝く超重量の神聖魔力が、隕石のごとき勢いでエルダードラゴンへと一直線に降り注いだ。
ズドォォォォォンッ!!!!
ブレスを解き放つ直前だったエルダードラゴンは、あまりの神聖魔力の圧力と衝撃に耐えきれず、叫び声をあげる間もなくグシャリと押し潰され、肉片となって豪快に弾け飛んでしまった。
「ああっ!? 俺たちの最高級ドラゴンステーキの肉がああああ!?」
俺が悲鳴をあげると、隣にいた世界樹にして精霊王のレイが優しく微笑んだ。
「ふふ、大丈夫ですよ、ヒロト」
レイが可憐な手を差し伸べ、極上の聖なる回復魔法を弾け飛んだ肉片へと放つ。
光が肉片を包み込むと、時間が逆巻くように一瞬で肉が集まり、エルダードラゴンは傷一つない無傷の綺麗な『死体』として元の姿に完全再生した。
「おいおい……ヒヤヒヤさせないでよユイ。あまりにやり過ぎだろ。肉が粉々になって食えなくなるかと思ったよ」
着地したユイは、えっへんと言わんばかりに胸を張った。
「あら、心配性ねぇ。レイの回復魔法があれば完璧に元通りに戻せるってことは、事前に実験して確認済みよ!」
「そうだったのか……。ところでさ、ユイはエルダーリッチなのに、聖魔法を使った反動やダメージの影響はないのか?」
「ふふっ、それもすでに解決済みよ! レイの精霊力をあらかじめ私の全身に纏わせてもらって、アンデッドとしての弱点属性を完璧にガードしているの!」
「なるほど……流石はレイだな。精霊王の力は本当に半端じゃないよ」
俺が深く感心してレイを称えると、レイは頬を少し赤らめて嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、ありがとうヒロト。実は最近、ユイや不死王ルシー、それに悪魔ベルフェゴルのサクラと一緒に色々合同で魔法の研究をしているのよ。……いずれは、私たちがヒロトのお子を妊娠できるようになる魔法も完成させるわ」
「えっ!? ろ、ロストテクノロジー級の成果なんじゃないのそれ!? 本当に!?」
「ええ、もうすぐ完全妊娠魔法も完成するから、楽しみにしていてね?」
そんなトンデモない会話を俺たちが繰り広げていると、残されたもう1頭のエルダードラゴンが、仲間を殺された激怒で凄まじい咆哮をあげながら襲いかかってきた。
「主上の大切なお食事を邪魔するんじゃないわよ」
グレイアが冷徹な瞳で一歩前へ出ると、彼女の背中から漆黒の闇の触手が何本も一斉に伸びた。
触手は巨大なエルダードラゴンの全身を瞬く間に拘束し、動きを完全に封じ込める。
シュバッ!!
次の瞬間、一本の太い触手がエルダードラゴンの胸の隙間を寸分の狂いもなく貫いた。
心臓部を一突きにされた竜が絶命すると同時に、触手は器用に胸から輝く巨大な魔石だけをくり抜いて取り出した。
「ふぅ……綺麗に殺したわよ。お肉に一切の傷もついていないわ」
グレイアが指を鳴らすと、倒れたエルダードラゴンはそのまま彼女の闇の異空間ストレージへとスムーズに収納・保存された。
ここまでの時間は、ほんの数秒。
「お前たち……一体何者だ……っ!? 最高位のエルダードラゴン2頭が……一瞬で……瞬殺だと……!?」
あまりの出来事に、魔神パズズは全身の毛を逆立て、ガタガタと震えながら絶望の表情を浮かべていた。




