第342話 【自滅する悪党と神獣の凱旋!】縛られし『紅蓮の刃』! 階層を踏破し解放される深層の虐殺宣言!
背後から、遠ざかるラブリル姫の切羽詰まった叫び声が洞窟内に響き渡る。
「ヒロト! 『千尋の洞窟』から無事に地上へ出たら、必ず領主の館へ来なさい! 今回の最高のお礼をします! 絶対に来るのですよ! ……い、いいですね!? これは領主の娘としての絶対命令です!!」
かなり必死な声だったが、俺たちは一切振り返ることなく、その声を完全に無視して薄暗い通路の先へと足を進めた。命令されたからといって、素直に従う筋合いなどどこにもない。
一方その頃——取り残された『紅蓮の刃』の現場では。
「おい! さっさと起きろっ、この悪党どもが!」
怒りに満ちた一人の騎士が、地面に倒れて気絶していた『紅蓮の刃』のリーダー、エンライの顔面を強めに引っ叩いて叩き起こした。
「う……あぐっ!? な、なんだ……!? こ、これは一体どういうことだ!?」
頭を振って意識を取り戻したエンライは、自分の両手両脚に巻きついた異様な植物の蔦に気づき、血相を変えた。
腕に力を込め、力任せに引き千切ろうと力むが、神聖なる植物の蔓は鋼鉄以上の硬度を誇り、ピクリとも動かない。それどころか、暴れれば暴れるほど締め付けが強くなっていく。
「な、なんだこの異常な蔦は!? ほどけ! 早く解きやがれ!!」
「うるさい! 罪人らしく大人しくさっさと歩け!」
続いて、魔法騎士によって強引に首根っこを掴み起こされたのは、『紅蓮の刃』のメインヒーラー兼魔法使いである女術士エルダラだった。
「ふん、たかが草の蔓ごときで調子に乗らないで! こんなもの、アタシの火炎魔法で焼き尽くしてやるわ! 『ファイアーボール』……! ……え? 『ファイアーボール』!? ……っ、なんで防壁が!? 魔法が発動しない!?」
エルダラは必死に手に魔力を込めようとするが、首の後ろに刻まれた漆黒の魔方陣が妖しく光り、魔力の練り込みを完璧に遮断していた。
「な、何なのこれ!? 魔法が……アタシの魔法がまったく使えないのよ!?」
「無駄な悪あがきはよせ。文句を言わずに足を動かせ!」
こうして、気絶から無理やり起こされた『紅蓮の刃』の精鋭メンバー6名は、全身を拘束された無様極まりない姿で、騎士たちの監視のもと入口へ向かって歩かされることとなった。
「くっ……何かおかしいわ……。一歩歩くたびに、全身の体力が極限まで絞り取られていくみたい……。息が上がって……頼むから、ちょっと休ませてちょうだい……っ」
エルダラは額から大量の汗を噴き出し、膝をガクガクと震わせながらヨロヨロと力なく歩を進める。
俺の施した呪いによって、彼らの体力は常に最低水準まで低下させられていた。
「駄目だ! 休むことなど許さん、さっさと進め!」
惨めな悪党どもの背中を押しながら、一人の騎士がラブリル姫の隣へ寄り添い、低く静かな声で問いかけた。
「……姫様。あの異質な強さを誇るお方たちは……一体全体、何者なのでしょうか?」
ラブリル姫は静かに首を横に振った。
「私にも分からないわ……。ただ一つ明らかなのは、私たちが九死に一生を得て助かったという事実だけ。……あの場に漂っていた、世界を滅ぼしかねないほどの圧倒的な魔圧を感じたでしょう? どちらにせよ、あの方たちとは絶対に敵対しない方が身のためよ。……今はただ、素直に領主の館へ来てくださるのを待つとしましょう」
「そ、そうですね……。仰る通りです」
騎士はごくりと唾を飲み込み、深く頷いた。こうして騎士隊と捕縛された『紅蓮の刃』の一団は、重い足取りで『千尋の洞窟』の出口を目指して引き揚げて行ったのだった。
◇
(……しかし、俺の隠蔽魔法を見破られた理由がユニークスキル『直感』だったとはな。流石にスキルの法則性までは魔法でカバーしきれないか……。今後は隠蔽魔法を過信しすぎないように、より慎重に立ち回らなきゃな)
俺は心の中で反省しつつ、眷属たちと共に洞窟の深層へとグングン進んでいく。
地下10階を越えたあたりから、周囲には冒険者たちの気配が完全に途絶えた。
本来であれば、このあたりの階層には深層に挑む上級冒険者のパーティが何組か蠢いているはずなのだ。しかし、俺たちが昨日引き起こした『地下5階までの魔物消失問題』の対応にギルドが追われており、上級冒険者たちも全員地下5階までの調査に駆り出されているらしい。
おかげで冒険者たちの目を警戒して隠れる必要が一切なくなり、俺たちの踏破速度は跳ね上がった。
そうして瞬く間に地下20階を突破した、その時だった。
『ヒロト様、ユイ様。無事に騎士たちの護衛を完了いたしました』
脳内に、ラブリル姫の護衛に向かっていた不死鳥フェンからの念話が届いた。
(お疲れ様、フェン。無事でよかったよ。ユイ、召喚して戻してあげてくれ)
「了解よ! 『従魔召喚』!」
勇者ユイが可愛らしく呪文を唱えると、空間が歪み、真っ赤な聖炎を纏った不死鳥フェンが羽ばたきながら姿を現した。
ユイはフェンを優しく手の上に乗せ、労うように撫でた。
「フェン、お疲れ様! 何も問題はなかった?」
フェンは甘えるように首を鳴らし、ドヤ顔で報告してきた。
『報告いたします。道中は特段の問題もございませんでしたが……地下5階付近にて、別行動をとっていた『紅蓮の刃』の残存メンバーから奇襲を受けました。そのため、私が聖なる炎で速やかに返り討ちにし、無力化しておきました』
「ふふ、ご苦労様! これで『紅蓮の刃』は完全に壊滅、おしまいだね。……それにしても、領主の娘を襲うなんて本当にどうかしてるよ」
ユイがあきれたように溜息をつくと、隣を歩いていた龍脈の魔女ウィーラもパイプの煙をくゆらせながら深く頷いた。
「全くじゃな。欲望に目が眩んだ愚か者の末路としては、実にくだらんものじゃわい」
俺は地図代わりの魔導書を開きながら、みんなに問いかけた。
「ところで……確か冒険者ギルドの記録だと、現時点でこのダンジョンの最高攻略階層って地下23階までなんだよね?」
ウィーラが不敵な笑みを浮かべて応じた。
「そうじゃな。ギルドの連中はそう言っておった。つまり24階以降は、人間が足を踏み入れたことのない前人未踏の領域ということじゃ」
「よし……じゃあ、地下25階を越えたら、階層の魔物を加減なしで全部討伐していこうか」
俺の言葉に、最前線を歩いていたダークハイエルフの女王グレイアが、美しくも酷薄な笑みをその唇に刻んだ。
「ふふ……あと5階ですね。主上の御心のままに。今度こそ一匹残さず、徹底的に屠ってみせましょう」




