第341話 【神速の制裁と圧倒的慈悲!】愚者を叩き伏せる漆黒の一閃! 救世の神聖魔法と深層への旅立ち!
「貴方様方は……一体何者なのですか?」
なおも真剣な眼光で俺を注視してくるラブリル姫に対し、俺は冷ややかに肩をすくめてみせた。
「言ったはずだ、ただの旅人だってね。それ以上を話すつもりはないよ。……それより、そんなことを気にしていていいのか? 倒れている『紅蓮の刃』の奴らは、死んではいない。ただ気絶しているだけだ。これだけの血の臭いが充満していれば、すぐにでも周囲から魔物が集まってくる。無用な長話をしている暇があるなら、一刻も早く地上へ引き揚げることだな。俺たちは先を進ませてもらう」
怪我を負った魔法騎士二人とラブリル姫の計3人で、魔物が蠢くこの8階から無事にダンジョン入口まで生還できるとは到底思えないがね。
だが、恩を仇で返してくるような連中の尻拭いまでしてやる筋合いはない。これ以上関わるのも面倒なので、このまま放置して立ち去るのが一番だ。
すると、先ほどグレイアに平伏させられていた魔法騎士が、再び懲りずに青筋を立てて怒鳴り散らしてきた。
「無礼者めがっ! 助けてもらったからとつけ上がりおって、領主様の令嬢に対するその言葉遣いは何だ! たかが旅人風情の分際で……許さんぞっ!!」
「行くぞ、みんな」
俺は騎士の叫びを完全に無視し、眷属たちに声をかけて背を向けて歩き出した。
その瞬間、頭に血が上った騎士が、立ち去ろうとする俺の右肩を強引に掴もうと後ろから急激に手を伸ばしてきた。
だが、俺には眷属である亜神バアルゼブルことスラオから共有されている最高峰の魔力検知と空間把握能力がある。背後からの騎士の不躾な動きなど、手のひらを見るより鮮明に把握していた。
ドカァンッ!!
「ぐあぁっ!?」
振り向きざま、俺は腰の神刀ムラマサを鞘ごと抜き放ち、一閃のもとに草薙の軌道で叩き斬った。寸分の狂いもない猛烈な峰打ちが騎士の胸板を粉砕し、男の巨体は岩壁まで激しく吹っ飛ばされて叩きつけられた。
「そこで領主の娘共々、哀れに死に果てるがいい。冒険者どもも時期に目を覚ますだろうからな。……まったく、助けて損をしたよ。次、俺や仲間に安易に手を出してきたら……次は本当に首を跳ねるぞ」
「カハッ……あ……ッ」
壁に埋まった騎士は胸を押さえ、絶望に顔を歪めたまま、二度と一言も発することができなくなった。
「あ、待ってください……! お願いです、不作法をお詫びいたします……っ!」
俺が再び背を向け、今度こそ無視して立ち去ろうとしたその時だった。
ラブリル姫が必死の形相で駆け寄り、俺の右手を取って両手で固く握りしめてきた。必死にすがりつくその青い瞳には、涙が浮かんでいる。
俺はぴくづく眉を寄せ、鋭い眼光で振り返った。
「……手を放せ」
「申し訳ありませんでした……ッ! 私の部下が大変なご無礼を働いたこと、心よりお詫び申し上げます! ですが……ですがどうか、見捨てないでください! 私たちだけでは、怪我人もおり、この深層ダンジョンを脱出することは叶わないのです……! どうか、どうかダンジョンの出口まで護衛をお願いできないでしょうか……!?」
「……はぁ。まったく、しょうがないなぁ」
俺が溜息を漏らすと、壁際で倒れていた騎士が忌々しそうに舌打ちをし、恨みがましい目で俺を睨みつけてきた。
ほう……まだやる気か?
俺が今度は容赦のない本気の殺気を込めて睨み返すと、騎士は瞬時に血の気を引き、首をすくめて勢いよく地面へ下を向いた。
「まあいいや。ところで……この二人、まだ息があるよ」
俺は地面に血だまりを作って倒れている、先ほど胸をナイフで刺されたはずの二人の騎士を指差した。
「えっ……!?」
驚愕するラブリル姫を余所に、俺は左手を血まみれの二人へ向けた。
世界樹にして精霊王である眷属レイが、最高峰の神聖回復魔法を発動させる。
瞬時に周囲の空間へ神々しく荘厳な神気が満ち溢れ、溢れ出た聖なる光の粒子が二人の騎士の全身を優しく包み込んだ。
次の瞬間、ドス黒く濁っていた傷口が急速に再生し、肉が盛り上がり、血が逆流するように消えていく。
「な……なんだこれは……!?」
「傷が……塞がっていく!?」
死の淵にいたはずの二人の騎士が、信じられない様子でガバッと跳ね起きた。彼らは自らの両手を開いたり握ったりしながら、全身の調子を確かめる。
「どうして……完璧に刺されたはずなのに……」
「どこも痛くない! それどころか……身体の底から力が満ちていて、体調がすこぶる良いぞ……!?」
信じがたい神跡を前に呆然とする騎士たちを横目に、俺は次に気絶している『紅蓮の刃』の面々へ視線を向けた。
「あの悪党どもは、とりあえず縛っておくか」
再び左手を気絶した冒険者たちへ向けると、レイの精霊魔法を応用し、地面から生えた鋼より固い植物の蔓がうねりを上げて伸び、彼らの両腕と両脚を頑丈に拘束した。
「一応、目覚めた後に魔法を使われたら面倒だからな。魔法も禁止にしておこう」
右手をかざし、スラオの闇魔法を行使する。
闇の粒子が気絶した冒険者たちの首の後ろへと吸い込まれ、完全な魔法使用禁止と著しい体力低下をもたらす漆黒の呪い魔方陣が刻み込まれた。
仕上げとして、俺はレイの回復魔法をラブリル姫と生き残っていた二人の魔法騎士にもまとめて照射した。
瞬時に光が彼らを包み込み、激戦で蓄積していた打撲、切り傷、疲労、精神的な消耗のすべてが一瞬にして完治した。
「こ、このような超位階の回復魔法、見たことも聞いたこともありません……!」
魔法騎士は自らの手を見つめ、震える声で感嘆の声を上げた。
「これなら十分、自力でダンジョンから出られるだろう」
「えっ……! あ、はい! たしかにこれほどの状態になれれば……!」
全身の傷が癒え、全快した自分の体を確かめたラブリル姫が、弾けたように頷く。
「フェン、念のためこの子たちをダンジョンの入り口まで安全に護衛してあげなさい」
俺が声をかけると、勇者ユイの肩にちょこんと止まっていた眷属の不死鳥フェニックス——フェンが愛らしく鳴き、ラブリル姫の華奢な肩の上へと軽やかに飛び移った。
聖なる炎を纏う美しき火の鳥が肩に止まり、ラブリル姫は息を呑んで目を見開いた。
「じゃあね」
俺たちは今度こそ後ろを振り返ることなく、大迷宮のさらなる深部を目指して足を進めたのだった。




