第339話 【ゲスの裏切りと闇からの天罰!】反逆の『紅蓮の刃』! 絶望の騎士姫を救う見えざる神威の峰打ち!
「ははっ、姫様直々のご依頼とあれば、断る理由などございません。……しかしながら、我々はしがない冒険者でしてね。当然ながら、それ相応の報酬は頂きますよ?」
下品な笑みを浮べながら提示してくるエンライに対し、ラブリル姫はキリッとした表情でうなずいた。
「勿論だ。正当な護衛報酬は必ず支払う。金貨2枚でどうだ?」
通常であれば、ダンジョン内の護衛依頼など金貨1枚でも破格の高額である。その倍額という提示だ。断る理由などどこにも存在しないはずだった。
「承知いたしました。それほどまでに過酷な好条件でのご提示、心より感謝申し上げます。……おい、お前たち! 傷ついておられる騎士様方に肩をお貸しし、お連れしろ!」
エンライは後ろに控える凶暴な面々へ向け、倒れ込んでいた二人の重傷騎士に肩を貸して連れていくよう指示を出した。
オークたちの解体を速やかに終え、魔石や素材の採取を済ませた二人の魔法騎士が戻ってくると、エンライとラブリル姫は身を翻し、来た道を戻るように歩き始めた。
隊列は、最先頭に索敵職であるスカウトの冒険者。続いてエンライとラブリル姫が並んで歩く。
その背後に冒険者の前衛2名。さらに後ろへ魔法騎士2名。最後尾に、重傷を負った前衛騎士2名と、彼らに親切そうに肩を貸す冒険者2名という配置だ。
歩きながら、ラブリル姫は心からの申し訳なさを込めて口を開いた。
「エンライ……貴行たちも貴重な迷宮探索の時間を割いてまで、我らの護衛を引き受けさせてしまい、本当にすまないな」
すると、エンライはくックックと喉を鳴らして笑い、不気味な声で応じた。
「いえいえ、気になさるな。……なにせ、ちょうど良いところに通りかかって本当に幸運でしたよ。こうして貴重な素材も難なく手に入りますし……何より、邪魔な騎士どもを一網打尽に倒せるのですからねぇ!」
「……な、何!?」
エンライの口元が歪み、邪悪な笑みが浮かんだ瞬間、彼の右手が一閃し、鞘から解き放たれた大剣が猛然と振り下ろされた!
ドスッ! ドスッ!!
「ぐあぁっ!?」
「がっ……!?」
悲絶な断末魔が響く。最後尾で肩を貸していたはずの冒険者二人が、隠し持っていた鋭利なナイフを重傷の騎士二人の心臓へ向けて深々と突き刺していた。二人の騎士は吐血し、崩れ落ちて即死する。
「なっ……ヒューバートに続いて二人まで!?」
重傷の騎士を仕留めた冒険者二人が、不気味な笑みを浮かべて残る魔法騎士二人へ肉薄。同時に、前衛の冒険者2名も後ろから魔法騎士たちへ容赦なく背後から斬りかかった!
「エンライっ! 貴様、自分が何をしているか分かっているのかっ!?」
頭上から襲いかかってきたエンライの凶悪な袈裟斬りを、ラブリル姫は大剣で間一髪受け止めた! ガギィィンッ! と凄まじい火花が飛び散り、重厚な金属音が空洞に轟く。
「分かってますとも! あんたらラビリスの誇る精鋭騎士をここで全滅させれば、迷宮都市の戦力と権力は激減する! あとは俺たち『紅蓮の刃』がこの街を支配するのさ!」
「くっ……ゲスめがっ!」
その時、ラブリル姫の背後から探索職の冒険者が殺気を消してナイフを突き出してきた。
察知したラブリル姫は間一髪でエンライの胸元を強く蹴り飛ばして距離を取り、襲われている魔法騎士たちのもとへ死力で駆け寄った。
だが、多勢に無勢。重傷の身であるラブリル姫と生き残った魔法騎士2名は、あっという間にエンライたち『紅蓮の刃』の精鋭6名に完全包囲されてしまった。
エンライは大剣を肩に担ぎ、凶気あふれる瞳で見下ろしてきた。
「ハハハハッ! 絶体絶命だな、ラブリル姫! 悪く思うなよ、ここで死んでもらうぞ!」
「エンライ……! 貴様ら悪党ども、断じて許さん……っ!!」
ラブリル姫は歯を喰いしばり、死を覚悟して大剣を青眼に構え直した。
◇
……さて、そんな胸糞悪い裏切りの惨劇を、俺たちは高位の隠蔽魔法で姿を消したまま、すぐ間近で観察していた。
脳内では眷属たちとの念話が激しく飛び交う。
(……うわぁ、胸糞悪いクズどもだな。面倒なことになってるよ)
(そうね……助けに入らなきゃ、あの騎士の女の子たちが可哀想だわ)
(領主の騎士と凶悪な冒険者による、醜い内輪揉めですわね)
(一方的に冒険者が騙し討ちで襲いかかっておりました。胸悪き卑劣漢どもです)
(……はぁ、しょうがない。ちょっと懲らしめて助けてあげるとしようか)
俺は隠蔽を維持したまま、大口を叩いているエンライの真後へと音もなく滑らかに移動した。
そして、左腰の神刀ムラマサを鞘ごと抜き放ち——後頭部へ向けて豪快に峰打ちを叩き込んだ!
ゴカァッ!!
「ぐへっ!?」
威勢よく叫んでいたエンライの目が裏返り、何の抵抗もできず地面へ盛大に顔面から突っ込んで昏倒した。
突如としてリーダーが謎の衝撃で崩れ落ちた光景に、ラブリル姫は目を丸くして驚愕する。
直後、アンナ、キュウ、グレイア、ユイ、ウィーラたちも一斉に動いた。
姿なき最強の眷属たちが、恐ろしい精度と神速で冒険者たちの首筋や後頭部へ無駄のない打撃を叩き込んでいく。
「なっ、何だ!? ぐはっ!?」
「か、体が……っ!?」
バタバタバタッ!!
ラブリル姫たちの周りを取り囲んでいた『紅蓮の刃』の精鋭たちが、誰一人として状況を理解できないまま、次々と泡を吹いて空中に浮くように倒れ伏していった。ほんの数秒間の出来事である。
「な、なんだ……!? 一体、何が起こったというのだ!?」
「こ、これは……いったい何が……!?」
言葉を失い、茫然自失となって倒れた悪党たちを見下ろすラブリル姫と魔法騎士たち。
(さて……余計なトラブルに巻き込まれる前に、俺たちは先へ進もうか)
仲間たちへ向けて念話を送る。
(そうね、行きましょう!)
(ははっ、お供いたします!)
俺たちが倒れた悪党たちを踏み越え、静かにその場を去ろうとした、その時だった。
「ま……待てっ!!」
ラブリル姫が、誰もいないはずの空間へ向けて切羽詰まった叫び声を上げたのだ。
(ん……? 俺は思わず足を止めて振り返ってしまった。……いや待てよ、俺たちは完璧な隠蔽魔法の真っ最中だぞ? 俺たちの姿が見えるわけがないはずだが……?)
ラブリル姫は宙を見つめ、必死に手を伸ばしながら震える声を上げた。
「頼む……待ってくれ! 姿を見せてはくれないか……!?」




