第335話 【蹂躙される大迷宮と神域の狂乱!】階層全滅の異常事態! 爆進する最強軍勢と九尾の狐が描く圧倒的惨劇!
前進を続ける俺たちの前で、奇妙な光景が展開されていた。
シュタッ! シュタッ! と無数の影が空間を切り裂いて現れる。キラーアントエンプレスのアンナの周囲に、彼女が召喚した工作用眷属たちが次々と召喚されては出現していた。
眷属たちの手には、息絶えたばかりのゴブリンやコボルト、大型の怪物の死骸が大量に抱えられている。
アンナが洗練された手つきで眷属たちから魔物の死骸を受け取ると、すぐさま隣に立つダークハイエルフの女王グレイアが漆黒の闇を展開。影の保管庫へと死骸を一瞬で呑み込ませて回収していく。
そして役目を終えた眷属たちは、アンナの手によって即座に送還され、再び洞窟の暗がりへと消えていくのだ。
この一連の高速な作業が、まるで精密に制御されたベルトコンベアのように永遠と繰り返されていた。
さらに、前衛で九尾の狐キュウが遭遇した魔物を瞬殺するやいなや、こちらもグレイアが滑らかな手つきで影の底へと仕舞い込んでいく。
「……ねえ、ちょっとアンナ。さすがに魔物を倒し過ぎじゃないかい?」
俺が思わず呆れ顔で尋ねると、アンナは黒装束の胸を張り、自信満々に胸を叩いた。
「ご安心ください、ヒロト様! この地下3階に存在していた魔物は、一匹残らずすべて倒して影の中に仕舞い込みました!」
「……え、すべて?」
「はい! ちなみに地下1階と地下2階に残っていた魔物につきましても、後方から追撃させてすべて根こそぎ倒し尽くしております!」
俺は一瞬思考が停止し、頭を抱えた。
「不味いなぁ……それ、めちゃくちゃ不味いんじゃないの!?」
アンナは不思議そうに首をかしげ、シュタタッと指を動かした。
「不味いでしょうか? 既に地下4階および地下5階につきましても、私の眷属たちを大量に派遣してほぼ階層全域を網羅しております。他の冒険者の方々に見つからないよう、偵察用とは別に魔物討伐専門の眷属として『キラーアントアサシン』の大群を召喚し、絶え間なく暗殺と素材回収を行わせているのですが……」
「なるほど……それでさっきからアンナの周りで、しょっちゅう眷属たちが召喚と送還を激しく繰り返していたんだね」
俺は額を押さえて深々と溜息をついた。
「いやいや、いくら何でもそれはやりすぎだって! 階層の魔物が一網打尽に消え去ったら、冒険者ギルドで大問題になっちゃうよ。『魔物が急にいなくなった』なんて事態になれば、俺たちが極秘で潜入していることがバレちゃう可能性がある。少なくとも『この洞窟に何か異常事態が起こっている』と察知されて、ギルドや領主から大量の調査隊や騎士団の手が入るぞ。……まあ、倒しちゃったものは今更どうしようもないから、今後は俺たちの進行ルート上で直接遭遇した魔物だけを狩るようにしよう」
「ははっ! 大変失礼いたしました、主様! 今すぐアサシン部隊へ討伐中止の命令を出します!」
アンナは慌てて深く平伏し、念話を飛ばして眷属へ指示を出した。
「あ、そうだ。アンナ、冒険者ギルド側の動きも継続して偵察してくれているかい?」
「勿論にございます! この迷宮都市ラビリスにおける主要な重要施設には、既に密偵用の眷属を配置済みです。冒険者ギルドの本部や領主の館、主要な検問所に至るまで、24時間態勢で完璧に監視しております!」
「流石アンナ、抜かりがないね。……それから、仕舞い込んだ魔物の死骸だけど、いつまでもそのままにしておくわけにもいかないし、素材の回収も処理しておかないとね」
俺の言葉を受け、グレイアが優雅に艶やかな唇を微笑ませた。
「それでしたら陛下、影に保管した死骸は、一旦我が領地である樹海帝国へと空間転移で送り、待機している配下の者たちに手際よく解体・部位分けをさせましょう。そして、価値のある希少素材や魔石だけを再び私の闇の保管庫に回収して整理いたしますわ」
「うん、それが一番効率的だね。任せたよ、グレイア。……あとアンナ、地下5階まで眷属の偵察が行き届いているなら、地下5階以降に置かれている宝箱の中身も眷属たちに先回りして回収させておいてくれ」
「承知いたしました! キラーアントアサシンの召喚を即座に解除し、代わりに解錠と強奪を得意とする『キラーアントシーフ』を召喚して、宝物庫や隠し部屋の財宝をすべて回収させます!」
方針が決まると、俺たちはアンナの先導のもと、何一つ障害物のない最短ルートを恐ろしい速度で爆進した。
地下3階、地下4階を文字通り疾風のごとく駆け抜け、あっという間に地下5階の最奥——ボス部屋の前へと到達していた。
眼前には、巨木の幹をくり抜いて作られたような、重厚で巨大な鉄の観音開き扉が立ちはだかっている。
ギィィィ……と鈍い音を立て、俺はまるで自分の家の玄関ドアを開けるかのような、あまりにも気楽なノリでそのボス部屋の巨大扉を押し開けた。
広大なドーム状の空間の中には、整然と陣形を組んだゴブリンの大集団が待ち構えていた。
中央に鎮座するのは、巨大な体躯に漆黒の重甲冑を纏い、太い大剣を構えた『ゴブリンジェネラル』が一匹。
その背後には、長弓を構える『ゴブリンアーチャー』が数匹。
怪しげな杖を握り、禍々しい魔力を練り上げる『ゴブリンメイジ』が数匹。
そして前衛を固める凶暴な『ゴブリンソルジャー』が数十匹。
まさに一筋縄ではいかない、初心者殺しのボス部屋の布陣だ。
「おっ、さすがボスの部屋だ。いっぱいいるねぇ」
俺がのんきに感心していると、前衛に立つ九尾の狐キュウが、妖しく輝く九本の尾を優雅に揺らした。
(ヒロト様、この程度の雑魚の群れ、どうぞ私めにお任せくださいませ)
次の瞬間、侵入者を察知したゴブリンアーチャーたちの弦から、無数の矢の雨が目にも留まらぬ速さで降り注いできた!
同時に、ゴブリンメイジたちが完成させた火球や氷閃の攻撃魔法が、ガンガンと爆音を立てて飛来する!
さらに「ギャァアアッ!」と耳腔を裂く叫び声を上げ、武器を掲げたゴブリンソルジャーの大群が、怒涛の雪崩となって一斉に襲いかかってきた!
「くうんっ!」
キュウが凛とした声を上げると、その身体が神々しい光とともに一瞬で数倍の大きさに巨大化した!
しなやかで巨大な九本の毛並みの良い尻尾が、まるで意思を持つ巨大な盾のように旋風を巻き起こして振り回される!
ドスドスドスッ! と絶え間なく降る矢の雨は、巨大な尻尾の装具のような毛並みに弾かれ、次々と粉砕された。
飛来した強力な攻撃魔法の数々も、九尾の持つ神聖な魔力障壁に衝突した瞬間、かき消されるように威力を失って消滅していく。
(……参りますわ!)
キュウは一瞬でゴブリンの大群の真っ只中へと跳躍した。
そこからは、まさに言葉通りの『一方的な蹂躙』だった。
キュウの鋭利な神速の爪が一閃するたびに、ゴブリンソルジャーたちの首や胴体がまとめて切断されて宙を舞う。
それと同時に、九本の巨大な尻尾の先から、炎、氷、雷、風といった多属性の極大魔法が無詠唱で間髪入れずに乱射された!
ドガァァァンッ! バチチチチッ! ボッガァァァンッ!
「ギギャアアアッ!?」
凄絶な爆発と閃光がボス部屋全体を包み込む。
ゴブリンジェネラルも、メイジも、アーチャーも、反撃どころか悲鳴を上げる暇すら与えられず、神速の魔法と爪の暴風によって一瞬で灰燼へと帰し、蒸発していった。
静寂が戻った広い部屋の石畳の上には、血の一滴すら残らず、転がった大量の魔石だけがキラキラと光を反射していたのだった。




