第334話 【絶望の階層を嘲笑う神威!】爆速で破られる大迷宮! 影に潜む無敵の軍勢と神速の階層突破劇!
キラーアントエンプレスのアンナによる洗練された先導のもと、俺たちは大迷宮『千尋の洞窟』の地下1階を前進していた。
道中で遭遇する魔物は、ゴブリンやコボルトといった下級の怪物ばかりだ。
前衛を務めるアンナの影のような漆黒の強襲や、九尾の狐キュウの鋭い爪の一閃によって、魔物たちは悲鳴をあげる暇すら与えられず一瞬で肉塊へと変えられていく。
倒した魔物の死体や魔石は、俺の体表に潜む亜神バアルゼブルことスラオの影の中に、痕跡一つ残さず即座に格納されていった。
ダンジョンの性質上、完全に冒険者たちとの遭遇を避けることは難しく、何度かすれ違う場面もあった。
だが、俺たちが纏う高位の隠蔽魔法の前には、どのような優秀な探索者であっても俺たちの気配すら察知することはできない。
彼らはただの冷ややかで不気味な風が吹き抜けたと誤認し、首をかしげながら通り過ぎていくばかりだった。
地下2階へと降りる石造りの階段に辿り着いたその時、脳内にダークハイエルフの女王グレイアからの念話が滑り込んできた。
(ヒロト様、捕縛した『紅蓮の刃』の残党二名を、無事に死神デステル様へ引き渡して参りました。地下牢獄へ厳重に収監しておりますわ)
(ありがとう、助かったよ。今すぐグレイアをこちらへ召喚するね)
(はい、いつでもどうぞ)
俺が神眼アイの威光とともに空間を繋ぐと、グレイアが静かに姿を現した。あらかじめ高位の隠蔽魔法を自身に付与した状態での召喚だ。
「ちょうど地下2階へ降りるところだったんだよ」
グレイアは妖艶な微笑みを浮かべ、闇に包まれた眼下の階段を見つめた。
「なるほど、この階段を降りて次の階層へ向かうのですね」
「そうだよ。それじゃあ行こうか」
隠蔽に守られた俺たちは、足音すら殺して滑らかに階段を下っていった。
到着した地下2階も、広大でじめじめとした岩肌の洞窟構造がどこまでも続いていた。
アンナが影からひらりと現れ、胸に手を当てて報告を入れる。
「ヒロト様、私の眷属たる羽蟻たちが地下2階の全域へ到達いたしました。さらに、既に地下3階への侵攻と構造の把握を進めております」
「素晴らしい手際だね。どんどん下の階層まで範囲を広げていってくれ。ところで、この地下2階には冒険者がどれくらい入っているかい?」
「はい。現在、当階層には10組の冒険者パーティーが確認されております」
「了解した。引き続き、出来る限り他の冒険者と鉢合わせしない安全ルートで進むとしよう」
「御意にございます。その条件に最も適した最適ルートを割り出します」
アンナの言葉に重なるように、グレイアが優雅に一礼した。
「陛下、こちらで討伐した魔物の死体や素材は、今度は私の影の保管庫へと格納させていただきますね」
「うん、助かるよ。回収は任せた」
配置を整え、俺たちは再び前進を開始する。
最前線に立つのは、鋭敏な察知能力を持つアンナと九尾の狐キュウ。二人が索敵しながらダンジョンを疾走し、現れた魔物をことごとく瞬殺していく。
そのすぐ後ろに配置されたグレイアが、倒された魔物の死体を漆黒の影へ滑らかに呑み込ませて回収。
その中央に俺が位置し、俺の後方にはエルダーリッチである元勇者のユイと、龍脈の魔女ウィーラが続く。ユイの肩には小鳥サイズの火の鳥フェンがちょこんと止まり、愛らしい瞳で後方の警戒を怠らない。
この地下2階でも、現れるのは主にゴブリンやコボルトたちだった。
地下1階では単独で徘徊していたが、ここでは弓を構えたゴブリンアーチャーや、装備を固めたコボルトソルジャーといった上位種が混ざり、群れをなして襲いかかってくる。
だが、そんな上位種の群れであっても、最強の眷属たちにとっては止まっている標的と変わりない。キュウの放つ不可視の斬撃やユイの指先から放たれる微小な魔力弾によって、一切の反撃を許さず一瞬で全滅させられていく。
さらに、前衛のキュウはダンジョン特有の罠の感知においても圧巻の能力を発揮した。
足元が崩れ落ちる落とし穴や、壁から大量の毒槍が飛び出す仕掛け、天井の巨岩が落ちてくるトラップなど、古典的ではあるが初見殺しの罠をことごとく事前に見破り、解除するか起動させないよう迂回して安全に突き進んでいく。
何一つ危険らしい危険に遭遇することもなく、あまりにもあっさりと地下2階の探索は終了し、俺たちは地下3階へと続く階段に辿り着いたのだった。
大迷宮『千尋の洞窟』の地下3階へと足を踏み入れる俺たち。
隊列はより強固に再編されていた。
先頭を進むのは、圧倒的な索敵と神速の爪を持つ九尾の狐キュウと、影を自在に操るキラーアントエンプレスのアンナ。
そのすぐ後方に、撃破された魔物を残さず収容するダークハイエルフの女王グレイア。
そして、その中央を歩くのが俺——ヒロトだ。
俺の左目にはあらゆる真実とステータスを暴く神眼のアイ。左手には精霊王の宿る意思を持った宝剣、世界樹のレイ。左腰には万物を切断する神刀のムラマサ。
そして身体の表面には、かつてスライムとして出会い、今や亜神バアルゼブルへと昇華した大悪魔ベルゼブブのスラオが守護として纏わりついている。
俺のすぐ後ろには、莫大な龍脈の魔力を体内に宿す龍脈の魔女ウィーラ。
そして最後尾を固めるのは、絶対的な魔法攻撃力と圧倒的な戦闘経験を誇る元勇者にしてエルダーリッチのユイ。
その右肩には、いざとなれば神聖なる灼熱の炎で全域を焼き尽くすユイの使い魔、火の鳥のフェンが神々しく佇んでいた。
世界を震撼させるほどの規格外の戦力が一堂に会し、大迷宮の深淵を踏み荒らすように侵攻を続けていく。




