第333話 【容赦なき天誅と忍び寄る罠!】大迷宮に響く悲鳴! 影から下された神罰と『紅蓮の刃』への抹殺宣告!
高度な隠蔽魔法に身を包み、薄暗い洞窟の通路を慎重に進んでいく俺たち。
道中、ユイの肩に乗る火の鳥フェンだけは自力での隠蔽魔法が使えない様子だったので、ユイがすぐさま秘めたる魔力を分け与え、完璧な隠蔽を付与して事なきを得ていた。
やがて、しなやかな動作で前衛を走っていた九尾の狐キュウがピタリと足を止め、俺たちに振り返って念話を飛ばしてきた。
(ヒロト様、この先の開けた部屋で何者かが争っている気配がします。魔物ではなく……人間同士の戦いのようです)
(人間同士の争いか……。余計な面倒事には関わりたくないなぁ。キュウ、ここを避けて通り抜ける迂回路はあるかい?)
俺が尋ねると、影から不意に現れたサイバー忍者姿のアンナが首を横に振った。
(申し訳ございません、ヒロト様。この階層の構造上、あの部屋を通らずに先へ進む迂回路は存在いたしません)
(そうか……まあ、通り道なら仕方がないな。俺たちは隠蔽魔法で完全に消えているわけだし、関わらずに見ないフリをしてそのまま通り過ぎるとしよう)
俺たちは足音を殺し、争い声が響く部屋の入り口へと差し掛かった。
だが……広々とした岩部屋の中へ一歩足を踏み入れた瞬間、俺たちの視界に飛び込んできたのは、単なる喧嘩や冒険者同士の縄張り争いなどではなかった。
そこにあったのは、凄惨で卑劣きわまりない凌辱の光景だった。
「ひははは! 逃げられると思うなよ! おい見ろ、お前の自慢の女がどう料理されるか、その汚い目でしっかり見ておけ!」
下劣な下笑いを浮かべた冒険者Aが、血を流して倒れる一般人の男性を地面に激しく伏せさせ、背中に乗って強固に制圧している。
その目線の先では、体格のいい別の冒険者Bが、着衣を破かれて泣き叫ぶ若い女性の上に覆い被さっていた。
「いやあああああっ! 助けて! やめてぇええええっ!」
「ケッ! 無駄な抵抗はやめろ! こんな地下深くに誰も助けになんか来やしねぇんだよ!」
地面に押さえつけられた男性が、血を吐きながら必死で叫ぶ。
「頼む、やめてくれ……っ! 俺たちは……俺たちはあんたたちを無事に案内する『運び屋』として雇われたはずだろう!? なのになぜこんな真似を……っ!?」
冒険者Aはせせら笑い、男性の頭を地面に踏みつけにした。
「ハッ! ポーターだと? 騙される方が馬鹿なんだよ! 最初からギルドや見張りの目に留まらないこの奥深くまでお前らを連れ込んで、料理するのが目的だったに決まってんだろ!」
「初めから……初めからこれが目的だったのか……っ! くそっ、俺はどうなったっていい! 頼む、離してくれ! 彼女だけは……彼女だけは逃がしてくれええっ!!」
「ハハハッ! 女を逃がすわけねぇだろうが! ギャーギャーうるせぇんだよゴミが!」
ドカッ! と惨烈な鈍音が響き、冒険者Aは男性の顔面を容赦なく蹴り飛ばした。
「ぐっ……ぁ……っ!」
激しい暴行を受け、意識を失いかける男性。
(……酷いな。喧嘩なんて生易しいもんじゃない。ただの胸悪く不快な犯罪行為だ)
俺が冷ややかな視線を向けていると、隣に立つユイが小さく息を呑み、男たちの腕元を指差して念話を飛ばしてきた。
(ヒロト様……見て! あの冒険者たち、右腕に真っ赤な布を巻いてるよ……!)
(間違いない……アキルイさんが言っていた『紅蓮の刃』のメンバーだね。入り口のグンダダと言い、どいつもこいつも救いようのない外道ばかりか)
その瞬間、いつもは大人しく優しい元勇者のユイから、ぞっとするほどの凄まじい怒りの殺気が溢れ出した。
(ヒロト様……ごめんなさい。私、同じ女性として……人間として、あいつらだけは絶対に許せない! 無視して素通りなんて……絶対に出来ませんよ!!)
(同感ですわ。我が主君の御前で、このような醜悪な汚物を見せつけられるだけでも万死に値します)
ダークハイエルフのグレイアが静かに暗黒の魔力を滾らせ、龍脈の魔女ウィーラもパイプを噛み締めながら目を細めた。
(全くじゃ。こんな不快なゴミの羽虫ども、生かしておくだけ世界の損失じゃな)
彼女たちの強い意志を感じ取った俺は、静かに一言だけ頷いた。
(よし……やっちゃおう)
ユイ、グレイア、ウィーラ(((はいっ!!)))
言葉が終わるか終わらないかの瞬間だった。
女性の上に覆い被さり、まさに服を破らんとしていた冒険者Bの後頭部へ、隠蔽状態のユイが超高速で接近した。
そして——ゴツンッ!! という凄まじい骨砕音が部屋に響き渡る。
ユイが渾身の力で振り下ろした重厚な杖が、冒険者Bの後頭部を強打したのだ。
「ぎゃっ!?」
悲鳴すら上げる間もなく白目を剥いて卒倒した男を、ユイは「この汚い男がぁっ!」とばかりに容赦ない蹴りで吹き飛ばし、女性の上から強引に排除した。
「な……!? なんだ!? 何が起きた!?」
地面で男性を押さえつけていた冒険者Aが、突如として相棒が何者かに殴られて吹っ飛んだ惨状に、何が起こったのか理解できずパニックに陥り、目を白黒させてキョロキョロと周囲を見回す。
だが、彼の視界には誰も映らない。
その背後へ、滑るような足取りで移動したのは龍脈の魔女ウィーラだ。
「無防備すぎるぞ、愚か者が」
ウィーラは冷酷な呟きとともに、しなやかで力強い回し蹴りを冒険者Aの後頭部へと叩き込んだ!
ドバァンッ!!
「ぐへっ!?」
強烈な衝撃波とともに、冒険者Aの身体は弾丸のように前のめりに吹き飛び、岩壁へと激突して動かなくなった。
さらに、闇の中から伸びたグレイアの漆黒の影が、気絶した二人の男たちの身体を瞬く間に包み込み、引きずり込むように闇の深淵へと静かに沈ませていく。
ほんの数秒で完了した完璧な天誅。
傷だらけの男性と服を乱した女性は、何がどうなったのか全く理解できず、腰を抜かしたままポカンと無人の空間を見回していた。
もちろん、高位の隠蔽魔法を纏う俺たちの姿や気配は、彼らには一切認識できない。
(……よし、これで十分だろう。このまま隠れてここは通り過ぎよう。あいつらが気絶して消えたなら、この二人だけでも何とか魔物に会わずに自力で出口へ辿り着けるはずだ)
ユイ(そうですね! 無事で良かったです……!)
グレイア(ふふ、行きましょうか)
(うむ。……ああ、そうだ。グレイア、影に沈めたあの『紅蓮の刃』の冒険者二人は、そのまま樹海帝国へ転送して死神デステルに引き渡してくれ。入口で捕まえたグンダダと一緒に牢屋へぶち込んで、みっちり尋問させよう)
グレイア(畏まりました、陛下。一瞬で処理して参ります)
グレイアは影の中に滑り込み、転移魔法で一瞬だけ樹海帝国へと戻り、すぐさま何食わぬ顔で俺たちの元へと復帰した。
俺たちは何事もなかったかのように、惨劇の部屋を後にして先へと進む。
すると、影からアンナが滑らかに現れ、報告を入れてきた。
(ヒロト様、私の眷属である羽蟻たちがこの地下1階全域の網羅を完了いたしました。さらに、既に地下2階への階段を発見し、下の階層への探索・把握を進めております)
「素晴らしい手際だね、アンナ。上層は冒険者たちの目も多いだろうから、眷属の探知を使ってできる限り他の冒険者グループと遭遇しない最短ルートを選んで進もう。宝箱なんかもどうせ大した物は入っていないだろうし、宝は無視してどんどん下の階層へ降りていこうか」
アンナは恭しく胸に手を当て、忍びの笑みを浮かべた。
「承知いたしました。これよりは私めが先導いたします!」
最強の影たちに守られながら、俺たちは迷宮都市の闇を切り裂くように、大迷宮『千尋の洞窟』の更なる深層へと足を踏み入れていくのだった。




