第331話 【絶大なる返り討ちと宣戦布告!】大迷宮の門前で蠢く悪意! 最強の皇帝を怒らせた愚か者たちの末路!
情報収集を終え、今後の行動方針が固まったところで、俺は部屋に集まる仲間たちに問いかけた。
「俺はこの後、大迷宮『千尋の洞窟』の入り口周辺の様子を直接見に行ってみようと思うんだが、みんなはどうする?」
真っ先に元気よく挙手したのは、ブラウニーのブラリリだった。小さな身体を弾ませて提案する。
「ヒロト様! 私は街の中を色々巡って市場や屋台を探索し、この迷宮都市ラビリスならではの珍しい料理や食材を調べて参りますっ!」
「うん、それがいいな。ブラリリは今回のダンジョン攻略には同行させず、拠点でおいしい料理を作ってもらう予定だからね。街での単独行動は危険だし、護衛としてミサキとロクを付けよう」
俺の言葉に、黒猫の姿に化けたミサキがニャァと愛らしく鳴き、ブラリリの足元へすり寄った。
「承知いたしました。ブラリリ様の安全は完璧にお守りいたします」
念話を寄越すと同時に、ウィーラの肩の上にいた小鳥サイズのロクも羽ばたき、ブラリリの小さな肩の上へと軽やかに止まった。
残るメンバーに向き直ると、ダークハイエルフの女王グレイアが静かに胸に手を当てた。
「私はどこまでも陛下のお供をいたしますわ」
元勇者のユイも「私も一緒に行くよ! 迷宮の入り口がどうなってるのか見てみたいしね!」と意気込み、龍脈の魔女ウィーラもパイプの煙を吐き出しながら「妾も一緒に行くのじゃ。ヒロトの側が一番退屈せんからのう」と不敵に微笑んだ。
「よし、全員の予定が決まったな。じゃあ行こうか」
俺たちは宿を出て、廊下にいた宿の従業員に道を聞き、大迷宮『千尋の洞窟』へと向かって歩き出した。
中心街を抜け、都市の北側に位置する巨大な大空洞ゾーンへと近づくにつれ、街道の雰囲気は一変していった。身につけた武具をガチャガチャと鳴らし、独特の威圧感や泥臭さを漂わせる冒険者たちの姿が急激に増えていく。
やがて、山を丸ごとくり抜いたかのような、不気味で圧倒的な大洞窟の開口部が視界に躍り出た。あれが『千尋の洞窟』の入り口だ。
俺たちは少し離れた遠目から、入り口の検問所の様子をじっくりと観察する。
アキルイの情報通り、洞窟の重厚なアーチ状の門前には2名の見張りが対峙するように立っていた。
一人は重厚な金属鎧を身に纏った騎士風の男。もう一人は使い込まれた皮鎧を着た荒々しい冒険者風の男だ。
領主直属の騎士団と冒険者ギルドが、完全に目を光らせて二重でチェックを行っているのがよく分かる。
観察していると、冒険者風の男が入場者の提示するギルドカードを一枚ずつ厳しく検品して身分を確認し、隣の騎士風の男が入都市税ならぬ入場料の金貨を回収していた。
(ふむ……確かにあの検問を正規の身分証なしで突破するのは目立つな。別の隠れルートを探すのが正解か)
俺が思考を巡らせていた、その時だった。
「おいおい……見ねぇ顔だな。千尋の洞窟に興味でもあるのか、お坊ちゃん?」
背後から、不躾で濁ったガラガラ声が急にかけられた。
振り向くと、そこには見るからに胡散臭い男がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。
がっしりとした大柄で肉厚な体型だが、身につけている服や皮甲冑は油と泥で薄汚れている。何日も剃っていない伸び放題の無精髭に、ボサボサの不潔な髪。背中には血生臭い巨大な片刃の戦斧を背負っていた。
間違いなく、この街に巣食う質の悪い冒険者の一人だろう。
「はい。自分たちは冒険者ライセンスを持っていないので中に入れませんから、社会科見学代わりにせめて入り口だけでも見ようと思いまして」
俺は波風を立てないよう、愛想笑いを浮かべて無難に答えた。
男は露骨に俺たちを舐めくさった目で見下すと、薄汚い鼻でフンと鼻鳴らした。
「ハッ! 貧弱そうなガキだと思ったら、ライセンスすら持ってねぇ素人かよ! 俺はBランク冒険者のグンダダ様だ。……どうだ? 中に入りたそうにしてるじゃねぇか。親切なこの俺様が、直々に中に連れていってやろうか?」
「いえ、中に入る気はありませんので、結構です。お断りします」
俺が即座に断ると、グンダダと名乗った男はギラついた目を凶暴に光らせた。特に、俺の背後控えるグレイアやユイといった極上の美貌を持つ女性陣に視線を走らせ、下劣な欲望を隠そうともしない。
「けっ、遠慮すんなって! ポーターとして荷物持ちの扱いで俺様のパーティーに同行させてやるって言ってんだよ!」
言い終わるや否や、グンダダは太い右手をごつごつと伸ばし、強引に俺の左袖を掴んで力任せに引っ張ろうとしてきた。
言葉の通じない粗暴な暴力。だが——
「っと……甘いね」
俺は焦るどころか、冷静に身体を沈めた。
武術と護衛術の要領で、掴まれた左手首をくるりと滑らかに返し、逆にグンダダの太い右手首をガチリと極める!
そのまま体重移動を利用して彼の肘関節を支点に下へと一気に押し込み、体勢を完全に崩して石畳の地面へと叩き落とした!
ドッガァン……!
「ぐはっ!?」
グンダダは惨めな音を立てて倒れ込み、俯せの状態で地面に激突した。
俺は間髪入れず、グンダダの右手首を極めて逃げられないようロックしたまま、彼の巨体の背中に乗馬の要領で馬乗りになり、完璧に制圧した。
関節を極められた強烈な激痛と圧倒的な体幹の固定に、グンダダは悲鳴をあげる。
俺は俯せで身悶えする男を見下ろし、冷ややかな声で語りかけた。
「遠慮なんてしてないよ。最初から明確に断っているのに、無理矢理力ずくで連れていこうとするなんて……何か良からぬ下心でもおありなのかな?」
背中で俺に乗られ、手首を折らんばかりに締め上げられたグンダダは、顔を赤黒く腫らして怒号を上げた。
「お、おい、このクソガキぇええっ! こんな真似をしてただで済むと思うなよ……ッ!?」
「へえ? ただで済まないと、一体どうなるのかな?」
「俺の所属するクランの仲間たちが黙っちゃいねぇぞ! 命が惜しかったら今すぐその手を離せぇっ!」
グンダダは必死で全身の筋力を使い、巨体をのたうたせて逃れようと暴れる。しかし、神眼アイと強大な肉体スペックを誇る俺の手から逃れられるはずもなく、文字通りびくともしない。
「ふ~ん。仲間ねぇ……。生憎だけど、手を離すのはお断りだ」
「このガキがああぁぁッ! ぶっ殺してやる!! 全身の骨を叩き折って殺してやるからな!!」
惨めに地面を這いながら死の予告を叫ぶグンダダに対し、横で冷ややかに見下ろしていたグレイアが、クスクスと蔑むような嘲笑を漏らした。
「ふふ……そんな無様に地面に這いつくばった格好で威勢のいい暴言を吐かれても、何の迫力もありませんわね。むしろ、哀れで見るに堪えないほどみっともないわ」
「なっ……テメェ、ふざけるなよ……っ!!」
「さて、見苦しい遠吠えはいいから、俺たちを強引に拉致して何をするつもりだったのか、詳しく白状してもらおうかな?」
俺が手首の極めをほんの少し強めると、グンダダが「ぎゃああああっ!?」と悲鳴をあげる。
その時、グンダダの身なりをじっくり観察していたユイが、ハッと何か気づいたように声を上げた。
「あ! ちょっとヒロト、見て! この男、右腕に真っ赤な布を巻いてるよ! これって……さっきアキルイさんが言ってた『紅蓮の刃』っていうクランのメンバーじゃない!?」
ユイの指差す先を見ると、確かにグンダダの汚れきった右腕には、鮮やかな赤い布が固く巻きつけられていた。
「……本当だ。赤い布の荒くれ者集団、か。アキルイさんの言っていた通り、相当ガラが悪いね。……これは、ただのチンピラ絡まれ案件として見過ごすわけにはいかなくなったね」
俺の雰囲気が一瞬で冷徹なものへと変わったのを感じ取ったのか、グンダダはなおも形勢逆転を信じて勝ち誇ったように叫んだ。
「そうだ!! 恐怖で震え上がりやがれ! 俺様はあのA級冒険者エンライ様率いる最強クラン『紅蓮の刃』の正式メンバーだ!! 俺に指一本でも傷をつければ、クラン全員でお前ら全員を八裂きにして女どもは玩具にしてやる! 今すぐ土下座して解放しろ!!」
自分の置かれた絶望的な立場も理解できず、最強の存在に向かって凶絶な脅迫を重ねる愚か者。
その言葉を聞いた瞬間、俺の背後に立つグレイア、ウィーラ、そして肩の小鳥たちの瞳から、すべての温度が消え失せたのだった。




