第330話 【闇から潜む影と深淵の予告!】領主とギルドの陰謀を蹴散らせ! 大迷宮『千尋の洞窟』へ挑む最強の陣容!
「まさに仰る通りでございます。皆様、流石の洞察力とお察しの早さ……! 領主様と冒険者ギルドとの確執につきまして、私からこれ以上具体的な内情をお話しすることは叶いませんが、皆様が私に素材をお売りいただいても何一つ問題がないことだけは、ご理解いただけたでしょうか」
三つ目族の商人アキルイは、感銘を受けたように第三の目を大きく見開きながら、深々と頭を下げた。
俺は満足そうに頷き、思考を巡らせる。
「なるほどね。ところでアキルイさん、さっき『大迷宮には基本的には冒険者しか入れない』と言っていたけれど……その言い方からすると、当然『例外』が存在するんだろう?」
「はい! いやはや、本当にお話が早くて助かります! 説明の手間が省けますよ」
アキルイは嬉しそうに身を乗り出すと、人差し指を立てて秘密を明かすように声を潜めた。
「冒険者ライセンスを持たぬ者が合法的に迷宮へ立ち入る方法は二つございます。一つは、冒険者の荷物を運ぶ『運び屋』として同行すること。そしてもう一つが……この都市を治める『領主様の特別な許可証』を得た者です。ヒロト様方には、私が裏から手を回して、その領主様の特例許可証を発行してお手元にお届けいたしますよ!」
「なるほど、許可証か……」
俺は顎に手を当て、確認のために問いかけた。
「その許可証を使って迷宮の門を潜る際、出入口で検問を行っているのは領主の配下の兵士だけかい? それとも、冒険者ギルドの職員も一緒に立ち会って人間をチェックしているのかな?」
アキルイは「あ」と声を上げ、頷いた。
「万が一の事故や緊急時に、最速で救助隊を編成して派遣できるよう、迷宮の出入口検問所には領主の兵士と冒険者ギルドの職員が『双方』詰めて厳重にチェックを行っております」
「だったら、その許可証は不要だ」
俺の即答に、アキルイはきょとんと目を丸くした。
「えっ……? 不要、ですか……!?」
「当たり前だろう。俺たちは冒険者ギルドに顔や存在を知られたくないんだ。許可証を提示してギルド職員に顔を覚えられれば、それだけで怪しまれて余計な尾行や探索をつけられる危険性が高まるからね」
アキルイは困惑したように頭を抱えた。
「冒険者ギルドに隠したいというお気持ちは理解できますが……しかしヒロト様、検問を通らずにどうやってあの厳重な警戒を抜けて迷宮に入るおつもりですか?」
「それは秘密だ。……ああ、そうだ。大事なことを一つ言い忘れていたよ。俺たちの存在や力については……もちろん『領主』にも他言無用だからね?」
「ええっ!?」
アキルイは驚愕の声を上げ、椅子から転がり落ちそうになった。
「り、領主様にも内緒ですか!? さすがに私の後ろ盾である領主様報告なしでこれほどの傑物をお通しするのは……」
俺は目を少し細め、冷ややかな視線をアキルイへと向けた。
「おや? 先ほど『絶対に他言無用にする』と誓ったばかりなのに、もうその約束を破るつもりかい? ……そんなに簡単に口が滑るようじゃ、今後の取引や信頼関係にも関わるなぁ」
「は、ははぁぁっ……! 申し訳ございません! わかりました、誓いは絶対に破りません!」
俺の静かな威圧感に青ざめたアキルイは、必死で額の汗を拭いながら平伏した。
「領主様には……『私が個人的に契約した凄腕の野良冒険者を使っている』と上手く誤魔化しておきます! と、とにかく! それでは現在判明しクリアされている階層までのダンジョンマップをご用意しますね!」
「いや、地図も不要だ」
「なっ……!? ち、地図まで不要なのですか!?」
度重なる断りに、アキルイはもはや開いた口が塞がらない様子だ。
俺はフッと苦笑いを浮かべた。
「最初から地図があったら、ダンジョンの攻略も探索も楽しめなくなるだろう? それに、出来合いの地図に頼っていると隠し部屋や裏通路を見逃す可能性があるし、何より『油断』に繋がるからね」
(それに……もしかしたら、この迷宮の奥には管理している『ダンジョンマスター』が存在し、俺たちと敵対することになるかもしれない。もし探索中にダンジョンの構造をリアルタイムで組み替えられたら、古い地図なんて何の意味もなさなくなるし、かえって罠になるからな)
心の中でそう思考を補強していると、アキルイが心配そうに身を乗り出してきた。
「し、しかしヒロト様! あの大迷宮は伊達ではありませんよ! 精鋭揃いの領主様直属の騎士団ですら、綿密な地図を持ってしても『15階』までしか到達できていないのですから……!」
「大丈夫ですよ。何も問題ありません」
俺が自信に満ちた笑みを浮かべて言い切ると、アキルイは「はぁ……皆様のスケールは私の理解を超えていますね」と深く溜息をつき、諦めたように肩を落とした。
「分かりました……。では、せめて情報だけでもお納めください。現在、大迷宮『千尋の洞窟』は『23階』まで到達・開拓されています。その最深部に到達したのは、この都市で最強と名高いクラン『紅蓮の刃』です。彼らはA級冒険者であるエンライという男をリーダーとし、総勢25名の凄腕で構成されています。エンライは目立つ赤髪に真っ赤な高級革鎧を装備しているので一目で分かりますよ。また、メンバーは全員、識別用に右腕に赤い布を巻いています。ただ……非常に気性が荒く暴力的なクランですので、迷宮内で遭遇した際はお気をつけください」
「なるほど、赤い布の荒くれ者集団か。分かった、覚えておくよ。色々とありがとう、アキルイさん」
こうして三つ目族の商人アキルイとの密談は終わりを告げた。
俺たちは静かに個室を後にし、宿の2階に確保した広々とした客室へと戻った。
部屋の扉を閉め、周囲に誰もいないことを確認すると、俺は静かに呼びかけた。
「アンナ、出てきてくれ」
次の瞬間——シュタッ! という風を切り裂く微かな音とともに、一人の少女が姿を現した。
先端技術と忍びの意匠が融合したような、サイバー忍者のごときスタイリッシュな黒装束を身に纏ったキラーアントエンプレスのアンナだ。彼女は俺の目の前に恭しく膝をつき、深々と頭を垂れる。
「御前におります、ヒロト様。どのようなご命じでしょうか」
「アンナ、お前の配下のキラーアントたちを即座に都市中に放ち、この迷宮都市ラビリスのあらゆる動きを探らせてくれ。特に……『領主の動向』『冒険者ギルドの裏の動き』、そしてあの商人『アキルイ』の身辺からは決して目を離すな」
「御意にございます。影となり虫となり、あらゆる情報を即座に主様へお届けいたします」
アンナは膝をついた姿勢のまま、一瞬で風景へと溶け込むように姿を消した。
頼もしい配下の手際を見届けた俺は、部屋に残る仲間たち——ユイ、ウィーラ、グレイア、ブラリリ、そして肩や足元に寄り添う使い魔たちの方へとゆっくり振り返った。
「さて……情報収集と外掘りは埋まった。いよいよ、大迷宮『千尋の洞窟』の本格攻略といくか!」
俺の言葉に、最強の眷属たちの目が一斉に爛々と輝き出したのだった。




