第328話 【見破られた神威と深淵の商談!】驚愕の三つ目族と絶品料理! 街を揺るがす規格外の秘宝降臨!
無事に迷宮都市ラビリスの検問を潜り抜けた俺たちは、アキルイの案内で『小鳥の宿』へと足を踏み入れ、用意された豪華な個室へと通されていた。
アキルイがこの宿を常宿として愛用している大きな理由が、まさにこの個室の存在らしい。
案内された部屋は想像以上に広々としており、中央には重厚な木製の大型テーブルが鎮座していた。
その周囲にはゆったりとした高級感漂う椅子が十脚も並べられている。本来は大人数で優雅に食事を楽しむための特別個室なのだが、日中は防音魔法が施された商談用の部屋として重宝されているそうだ。
俺、ユイ、ウィーラ、グレイア、ブラリリの五人に加え、足元には猫の姿に化けたミサキとキュウ、肩には小鳥姿のフェンとロク。さらに陰から気配を殺して控えるアンナまで、仲間全員がゆとりを持って寛ぐことができた。
やがて、宿の給仕たちが出来立ての香ばしい湯気を立てる昼食の料理を次々と運んできた。テーブルいっぱいに豪華な皿が並べられ、給仕たちが深々と一礼して静かに部屋を退出すると、アキルイが満足そうに口を開いた。
「改めまして、素晴らしい皆様との出会いに心から感謝申し上げます。本日のこの豪華な昼食は、旅の出会いを祝して私めがご馳走させていただきますので、どうぞ気兼ねなくお召し上がりください!」
「それは助かるよ、ありがとう。みんな、冷めないうちにありがたくいただこうか」
俺の言葉に、真っ先に目を輝かせたのはブラウニーのブラリリだった。フォークを手にして料理を口に運ぶと、その愛らしい顔を幸せそうに綻ばせる。
「んん〜っ! お肉がとっても柔らかくて美味しいです! 秘伝のハーブとスパイスの香味が効いていて、素晴らしい出来栄えですよ、ヒロト様!」
料理の味に定評があるブラリリが絶賛するほどの絶品料理に、ユイやウィーラも舌鼓を打っていた。
一同が美味しそうに料理を味わっている様子を見届けたアキルイは、ふっと表情を引き締め、咳払いを一つした。
「さて……それでは、先ほどのお約束通り、まずは我が『三つ目族』について説明させていただきましょうか」
アキルイが静かに集中すると、彼の額の中央にあったシワのような線がすうっと左右に開き、神秘的な光を放つ第三の目が現れた。
俺は左目の神眼アイを通じて、改めて彼の詳細なステータスを確認する。
アキルイ。年齢は35才の男性。
身長は168センチで、少しふくよかな体型。
相手の警戒心を自然と解きほぐすような、誠実で好感度の高い笑顔が特徴的だ。
アキルイは第三の目を軽く瞬かせながら、落ち着いた声で語り始めた。
「この額に宿る第三の目こそが、我ら三つ目族の象徴であり最大の特徴です。この目を除けば、外見も解剖学的な構造も人間と何ら変わりはありません。そして、私がこの目によって得た特殊な能力……それが『真贋』の力です。真贋とは、あらゆる物品の本物と偽物を見極める眼力。そしてそれは、人間や魔族の『本質』をも見極めることができるのです。ヒロト様たちが紛れもない『本物』の傑物であると見抜いたからこそ、私は思わずお声をかけさせていただきました」
(ふむ……なるほどな。だが、神眼で確認したもう一つのスキル『念力』については、あえて伏せて触れないつもりか)
俺が内心でそんなことを考え、ほんの少しだけ視線を細めた瞬間だった。
アキルイは苦笑いを浮かべ、降参とばかりに両手を上げた。
「……ははは、やはりヒロト様には何も隠せないようですね。参りました。仰る通り、私にはもう一つ『念力』のスキルもございます。視界内の物体を、触れずに自由に動かすことができる能力ですね」
自分の疑念がすっかり顔に出ていたらしい。自分の表情管理の甘さを反省し、気を引き締め直す。
アキルイは穏やかな口調を崩さずに続けた。
「三つ目族は、個人によって第三の目に目醒める能力が大きく異なります。私は幸いにもこの真贋の力を授かりましたので、それを存分に活かせる商人という道を選びました。……我が三つ目族の隠れ里は、ここから遥か東の果てに存在するのですが……。歴史的に人間という種族は、我々のような特殊な異能を持つ三つ目族を極剰に警戒し、忌み嫌う傾向にあります。従って、万が一にも村の場所が人間に知られれば、即座に大規模な討伐隊や奴隷狩りが襲来してしまうのです。故に、具体的な隠れ里の位置については……どうかご容赦ください」
頭を低くするアキルイに対し、俺は首を振って穏やかに微笑んだ。
「別に俺たちは三つ目族に対して何の偏見も思うところもありませんから、村の場所を教えてもらわなくても全く問題ありませんよ。……それよりも、アキルイさんが俺たちを『本物』と見極めたという、その具体的な内容の方が気になりますね」
俺の問いかけに、アキルイは引きつった笑みを浮かべ、ハンカチを取り出して額の汗を拭った。
「ああ……そのことですね。確かに、ここをうやむやにしては納得していただけませんよね。……あらかじめ言っておきますが、私には相手のステータスや詳細な数値を見る力はありません。従って、皆様の正確な種族や具体的な能力値までは分かりませんのでご安心ください。ただ……」
アキルイはゴクリと喉を鳴らし、真剣な眼差しで俺たちを見つめた。
「私の真贋の目が告げているのです。ヒロト様……貴方様はこの世の誰よりも尊く高貴なお方であり、そして周囲に従うお連れの方々は、とてつもなく強大で恐ろしい力をお持ちであると。恐らく、この国に存在する全兵力を集めようと束になっても絶対に叶わない……正真正銘、世界を滅ぼしかねない『災厄』そのものの実力者たちであると。……ですが、具体的にどれほど規格外なのかまでは、私の能力の許容量を超えていて計測すら不可能なのです」
アキルイはニコニコと営業スマイルを浮かべてはいるが、その額からはだらだらと大量の脂汗が流れ落ちていた。
言葉には出さずとも、グレイアやユイ、ウィーラたちが無意識に放っている常人離れした真の圧力を、その第三の目で敏感に感じ取って恐怖しているのだろう。
俺は静かにコーヒーを一口飲み、念を押すように告げた。
「俺たちに対して悪意や害意を向けない限り、こちらから危害を加えるようなことは一切しませんよ。ただし……俺たちの正体や存在について、誰にも口外しないでいただきたい。それだけは約束してください」
アキルイは背筋をピシッと伸ばし、力強く頷いた。
「重重承知いたしました! 神に誓って他言無用、私一人の胸の中に墓場まで持っていく秘密といたします!」
「ありがとうございます。……さて、商談の話に戻りましょうか。アキルイさんは、この国では手に入らないような珍しい品を欲しがっていましたよね?」
「はいっ! もちろんです!」
アキルイの目が一瞬で商人のそれに変わる。
俺は隣に座るダークハイエルフの女王に向き直った。
「グレイア、うちの倉庫から適当に品物を見繕ってアキルイさんに渡してあげてくれ。取引の代金や交渉はすべてグレイアに任せるよ」
グレイアは優雅に一礼した。
「畏まりました、主様」
グレイアは自らの影の中にそっと手を差し入れると、そこから幾つもの品々を取り出し、テーブルの上へと滑らかに並べていった。
未だ見たこともない色彩に輝く高位魔物の極上素材。
複雑かつ緻密な魔導回路が刻まれた、便利すぎる未知の高級魔道具。
そして、樹海帝国の豊かな大地で採れた、芳醇な香りを放つ極上の食材や調味料の数々。
それらが目に入った瞬間、アキルイの目が限界まで見開かれた。
「こ、これは……ッ!? なんという素晴らしい質感……! 一体どんな超高ランクの魔物から採取した素材なのですか!? それにこの魔道具……魔力をほとんど消費せずに発動するなんてあり得ない! おまけにこの食材の見たことのない瑞々しさと香りは一体……!?」
アキルイは興奮のあまり立ち上がり、目を輝かせて怒涛の質問攻めを開始した。グレイアもまた、不敵な笑みを浮かべながら洗練された交渉術でそれに応じ、商談は凄まじい盛り上がりを見せていく。
見たこともない超強力な素材。
文明の常識を覆す便利すぎる魔道具。
一度食べたら忘れられないほど美味しい極上食材。
アキルイは興奮で顔を真っ赤にしながら、震える声で叫んだ。
「す、素晴らしい! 凄すぎる! 売れる……売れますよ! これは迷宮都市どころか、王国中の貴族や富豪が全財産を投げ出してでも欲しがる歴史的宝物です! ヒロト様、グレイア様、これらの商品はもっと在庫があるのでしょうか!?」
アキルイの鼻息荒い問いに、俺は苦笑しながら手を振った。
「ありますよ……手持ちだけでもいくらでもあります。ですが、この国で本格的に商売をするつもりはありませんよ。今回の取引はあくまで今回限りの特別なものです。今のところ、この都市で永続的に手広く商売を広げる気はありませんからね」
アキルイは「そ、そうですか……」と心底惜しそうな表情を浮かべてガックリと肩を落としたが、すぐに気を取り直して深々と頭を下げるのだった。
「非常に残念ですが……まあ、ヒロト様のような伝説級のお方と知古を得られただけでも、商人としてこれ以上の栄誉はありません! 十分に満足いたしております!」
「そう言っていただけると助かります。もし将来、この国や他の地域で本格的に商売を始めるようなことがあれば、一番にアキルイさんに声をかけさせていただきますね」
その言葉を聞いた瞬間、アキルイの顔にパッと輝かしい希望の光が戻った。
「おおおっ! ありがとうございます! その日を首を長くしてお待ちしておりますぞ!」
こうして、絶品料理と衝撃の秘宝が飛び交った秘められた商談は、双方にとって最高の結果で幕を閉じたのだった。




