第327話 【秘められた第三の目と真実の鑑定!】門番の検問突破! 迷宮都市ラビリスの闇と、集う新たな巡り合わせ!
「私はヒロトです。ただの旅人ですよ。色々な国や街を巡って見聞を広めていましてね」
商人アキルイからの問いかけに対し、俺は人当たりの良い笑みを浮かべながらそう答えた。
もちろん、樹海帝国の皇帝であることや、自分たちの本当の出身地といった危険な情報はあえて伏せておく。
俺に続いて、ユイ、ウィーラ、そしてグレイアもそれぞれ偽名混じりに手短な自己紹介を済ませた。
アキルイは俺たちの身なりや雰囲気をじろじろと観察し、感心したように頷いた。
「ほうほう……! あまりこの近隣では見かけない仕立ての上等な服ですねぇ。それに、美しく珍しい猫や狐、かわいらしい小鳥まで連れて旅をされている方々にお会いするのは初めてですよ。相当な遠国からお越しになられたのでしょう。……もしや、何か珍しい品や宝物をお持ちではありませんか? もしよろしければ、私めに売っていただけないでしょうか!」
もみ手をしながら目を光らせる様子は、まさに根っからの商売人そのものだ。
長蛇の列に並ぶ退屈な時間すらも無駄にせず、常に商売の種を探しているらしい。
(ふふ、幻影魔法でミサキとキュウの尻尾をあらかじめ一本に見せておいて本当に良かったな……。九尾の狐や猫又だとバレていたら、商売どころか大騒ぎになるところだった)
俺は心の中で苦笑しつつ、アキルイに提案した。
「そうですね……いくつか面白いものは持っていますよ。ですが、こんな路上で広げるわけにもいきませんからね。都市の中に入ってどこか落ち着いた場所に腰を落ち着けてから、改めてお見せしましょうか」
「おお、それはありがたい! 確かに周りの目もありますからねぇ。ちなみに私は『小鳥の宿』という宿屋に泊まる予定なのですが、皆さんはもうお宿はお決まりですか?」
「いえ、都市に入ってから適当なところを探そうかと思っていたところです」
俺がそう告げると、アキルイはパッと顔を輝かせた。
「それなら、ぜひ『小鳥の宿』をお勧めしますよ! 宿泊料金が非常にリーズナブルなうえに、何と言っても食事がめちゃくちゃ美味しいんです! 冒険者や商人たちの間でも大評判の宿なんですよ!」
その言葉に、一番に反応したのはブラウニーのブラリリだった。小さな身体をピヨンと跳ねさせ、目をキラキラと輝かせる。
「まあ! 美味しいお料理ですか! それはとっても魅力的ですねっ、ヒロト様!」
「そうだな。料理が美味しいというのは宿選びで一番重要な要素だ。アキルイさん、ぜひその宿を紹介してください」
「お安い御用ですとも!」
アキルイは満足そうに頷いた。
一見すると、どこにでもいる人の良さそうな商人に見えるアキルイ。
だが……気になって何げなく左目の神眼アイで彼のステータスを鑑定してみた俺は、思わず息をのんだ。
(ん……? 人間……じゃない!? 三つ目族……?)
外見はどう見てもごく普通の人間だ。
しかし、よくよく観察してみると、彼の額の中央に、うっすらと横線のシワのような薄い傷跡が見える。
ステータスの数値自体は至って一般的な人並みの数値だが、スキル欄には『真贋』と『念力』という珍しい能力が刻まれていた。
俺が無言で彼のアゴから額にかけてをじっと凝視していると、アキルイはハッと察したように表情を引き締め、周囲に聞こえないよう囁くような小音量で話しかけてきた。
「……おや。お客さん、私が『三つ目族』だとお分かりになりましたか?」
「三つ目族……? 一体どんな種族なんですか?」
俺も声を潜め、耳打ちするように尋ねた。
すると、アキルイの額にあったシワのような線が、すうっと左右に滑らかに開いた。
その下から現れたのは、怪しくも澄んだ光を放つ縦開きの「第三の目」だった。
「ひっ……!?」
後ろで気配を殺していたユイやブラリリたちが、思わず小さく息を呑んで驚く。
アキルイは第三の目をゆっくりと瞬かせながら、驚嘆の混ざった溜息をついた。
「普段、この額の目には強力な『認識阻害』の魔法をかけて隠しているのですがねぇ……。どうやら、お兄さんのその美しいオッドアイに宿る魔眼の力の方が、私の隠蔽魔法よりも遥かに格上のようですね。完全に見破られてしまいましたよ」
さすがは神眼アイの力だ。隠蔽の類は一切通用しないらしい。
アキルイは周囲の視線を警戒するように、すぐに額の第三の目を閉じた。
「この種族の詳しいお話も、ここでは周りの目や耳がありますからね。宿に着いてからゆっくりお話ししましょうか」
「分かりました。続きは宿に着いてからにしましょう」
会話を終える頃には、ちょうど俺たちのすぐ前の旅人たちの順番になっていた。
門番の前で、旅人たちが名前と入国目的を述べている。
「名前はヨハン、行商人だ。素材の仕入れに来た」
門番の兵士は横柄に頷くと、台座の上に置かれた透明な水晶の宝玉を指差した。
「よし、この宝玉に手を触れな」
旅人が恐る恐る宝玉に手を触れると、宝玉はポッと柔らかい白色に光った。門番は「よし、通過しろ」と告げ、旅人は定められた入都市税を支払って門の向こうへと入っていく。
(ん……あの宝玉は何だ? 嫌な予感がするな)
俺は即座に念話でウィーラに問いかけた。
(ウィーラ、あの宝玉って一体何をする道具なんだ?)
ウィーラからすぐに念話の返信が届く。
(ふむ……どこかのデータベースと個人の魔力を照合しておるようじゃな。恐らくは凶悪な犯罪者や指定指名手配犯のチェックじゃろう。犯罪者の魔力は禍々しく濁るからのう、それに反応して光の色が変わる仕組みじゃ)
(……ちょっと待て。犯罪者の魔力? ユイとグレイアは大丈夫なのか!?)
ユイはエルダーリッチであり、不死者アンデッドの王だ。グレイアもまた、数々の戦場を潜り抜けてきた大悪魔級の魔力を宿すダークハイエルフである。普通に触れれば、宝玉が禍々しい黒や赤に染まって大騒ぎになるのは目に見えている。
(分からんぞ。アンデッドや高上位魔族の魔力に反応して『異常』と判定される可能性は極めて高いのう)
(マズいな……! グレイア、ユイ、あの宝玉のチェックは危険だ。念のためにレイの分身体を右手に装備させよう。……レイ、お願いできるか?)
俺の左手に宿る精霊王レイが、可憐な念話の声を響かせた。
(はい、主様! お任せください!)
一瞬のうちに、レイの分身体である繊細で美しく輝く『世界樹の手甲』が、グレイアとユイの右手に幻影として装着された。神聖なる世界樹の力が、彼女たちの秘めたる絶大な魔力を完璧に遮断し、純粋な精霊の波動で覆い隠す。
(レイ、その分身体越しに宝玉に触れてくれ)
そうこうしているうちに、ついに俺たちの番がやってきた。
俺は堂々と前に踏み出し、爽やかな笑みを浮かべた。
「名前はヒロト、ただの旅人です。観光と買い物のために来ました」
「うむ。なら、この宝玉に手を触れな」
俺は素早く『左手』を差し出し、宝玉に触れるフリをした。実際には、左手に宿る精霊王レイの手甲が宝玉に接触している。
キィン……!
その瞬間、宝玉はこれまで見たこともないほど眩い、聖なる純白の光を解き放った!
「おおっ……!? なんという清らかな光だ! まるで大聖堂の最高幹部か聖者のような輝きじゃないか! 文句なしの合格、問題なしだ!」
門番たちが目を丸くして感嘆の声をあげる。
続いてウィーラとブラリリも名前を告げ、宝玉に触れると、それぞれ綺麗な白色に光った。
そして、運命のグレイアとユイの順番だ。二人はレイの分身体が宿る右手で、慎重に宝玉へと手を伸ばした。
ふわりと、宝玉は再び神々しいほどの純白の光を放った。
門番は深く感動したように頷いた。
「素晴らしい……! お嬢さん方も、心が恐ろしいほど純粋で綺麗な証拠だな!」
死霊の王であるユイと、暗黒街を恐怖で沈めたグレイアは、互いに顔を見合わせて何とも言えない気まずそうな表情を浮かべていた。
「よし、合格だ! 入都市税は一人銀貨2枚……あ、ちょっと待て。そっちのペットたちの分も払ってもらうぞ」
「……え!?」
俺は思わず固まった。
(しまつた……! ミサキたち使い魔も隠蔽魔法で姿ごと消しておけばよかった……!)
俺が少し渋るような仕草を見せると、横からグレイアがジト目で俺の顔を覗き込んできた。
「ちょっと、ヒロト。こんなところでケチケチしないの。格好悪いわよ?」
「うぐっ……わかったよ」
俺は泣く泣く、自分たち5人と、ミサキ、キュウ、フェン、ロクの使い魔4匹分の入都市税をまとめて金貨で支払った。
門をくぐり、賑やかな迷宮都市ラビリスの内部へと踏み込む。
少し進んだ開けた広場で立ち止め、後ろからやってくるアキルイを待つことにした。
数分後、アキルイも何の問題もなく検問を突破し、笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。
「いやあ、お待たせしました! さあ、まずは長旅の汗を流すためにも、お部屋を確保しに『小鳥の宿』へ向かいましょう!」
こうして俺たちは、アキルイの案内のもと、大賑わいの迷宮都市ラビリスの街並みを歩き始めたのだった。




