第326話 【大空を駆ける幻惑の馬車!】迷宮都市ラビリス到着! 美しき眷属たちと挑む新たな冒険への第一歩!
俺たちは次なる目的地である迷宮都市ラビリスを目指すため、まずはかつて訪れたことのある暗黒街ミレース近郊の森の中へと転移した。
この世界の転移魔法は、一度でも行ったことのある場所にしか跳べないのがつくづく不便だと痛感する。
今回、俺と一緒に旅をするメンバーは実に豪華で頼もしい顔ぶれだ。
まずは主人公である俺、ヒロト。
左目にはあらゆる真実を看破する神眼のアイを宿し、服の中には亜神バアルゼブル(大悪魔ベルゼブブ)へと進化した元スライムのスラオを潜ませ、左腰には神刀のムラマサを差している。
そして左手には、可憐な少女の姿をした精霊王(世界樹)のレイがしっかりと添えられていた。
ここに右手を預かる応龍のハクがいれば俺のフル装備が完成するのだが、ハクは現在めでたく妊娠中であるため、樹海帝国のお城で大切に大切にお休み中だ。
さらに心強い仲間たちが続く。元勇者で現在はエルダーリッチのユイ。その肩の上には、使い魔である不死鳥フェニックスのフェン。
龍脈の魔女ウィーラ。その肩の上には、使い魔であるロック鳥のロク。
フェンとロクは目立たないよう小鳥サイズに身を縮め、それぞれユイとウィーラの肩の上にちょこんと可愛らしく止まっている。
気配を完全に消しているキラーアントエンプレスのアンナ。冷徹な美貌を誇るダークハイエルフのグレイア。
そして、樹海帝国の城でメイドを務めるブラウニーのブラリリだ。
ブラリリは本来城の管理を担っているのだが、料理がとてつもなく上手で大好きな女の子だ。せっかくだから他国の珍しい料理や食材を経験して腕を磨きたいとお願いされて、今回の同行を特別に許可した経緯がある。
足元には、吸血鬼真祖ヒナの使い魔である九尾の狐のキュウと、サクラの使い魔である黒い猫又のミサキがしなやかに佇んでいた。
総勢としてはかなりの人数になるが、人型をとっているのは俺、ユイ、ウィーラ、グレイア、ブラリリの5人のみ。アンナは影のように気配を消して普段は姿が見えないため、周囲から見れば「5人組の旅人グループ」にしか見えないだろう。
これなら、馬車一基もあれば十分に全員で移動が可能だ。
グレイアが静かに手をかざすと、自らの影の中から重厚な作りの大型馬車を滑らかに呼び出した。以前の移動時にも使用した、漆黒の美しい馬車だ。
だが、そこには肝心の馬が一頭も繋がれていなかった。
グレイアは馬車の扉を開き、静かに促した。
「皆さん、乗ってください」
ユイが首をかしげ、周囲をキョロキョロと見回す。
「あれ? グレイア、お馬さんはいないの?」
横からウィーラがパイプの煙をくゆらせながら、ニヤリと笑って答えた。
「くっくっく、地上の馬など使っていては時間がかかるからのう。今回はロクに運んでもらうのじゃよ」
「ええっ!? 空を飛ぶの!? でも、そんなの目立ちすぎて上空で見つかっちゃわないかしら……?」
俺も同意して頷いた。
「そうだね。この国の人達に見られるのは流石に不味いよ。騒ぎになって冒険どころじゃなくなるからね」
グレイアは不敵な笑みを浮かべ、胸を張った。
「ふふ、ご安心ください。私とスラオで完璧な『視覚阻害』と『認識阻害』の重層隠蔽魔法をかけますから、下から見てもただの雲にしか見えませんわ」
「そうか! それなら完璧ね、安心したわ!」
「各自の飛翔魔法でぞろぞろ飛んでいくより、馬車でくつろぎながら移動する方が優雅でいいじゃろぅ?」
ウィーラの言葉に、俺も納得して頷いた。
「そうだね。じゃあ馬車に乗ろうか。あ、それとミサキとキュウ、そのままの姿だと街に入った時に怪しまれるから、尻尾は1本にしておいてね」
ミサキは猫又なので尻尾が二本に分かれている。
キュウは九尾の狐なので豪華な尻尾が九本もあるのだ。
このままの姿で迷宮都市に入れば、一目で上位の魔獣だとバレて大騒ぎになってしまう。
ミサキとキュウは即座に高度な幻影魔法を行使した。一瞬で光が収まると、ミサキは可憐な一本尻尾の黒猫に、キュウは美しい毛並みを持った一匹のキツネへと姿を変えた。
ミサキがニャァと愛らしく鳴き、念話で伝えてくる。
(失礼いたしました。これでただの黒猫に見えるはずです)
ユイが屈んで二人を撫で回した。
「うん! 全然わからないよ、すっごく可愛い! これなら絶対大丈夫ね!」
全員が豪華な馬車の中に乗り込み、シートに腰を下ろす。
すると、ウィーラの肩の上にいた小鳥サイズのロクが、パッと羽ばたいて馬車の外へと飛び出していった。
直後、ゴオオオオッ……! という凄まじい風圧とともに、ロクは本来の威容である巨大なロック鳥へと一瞬で巨大化した。見上げるほど巨大な両足の鋭い鉤爪が、馬車の頑丈な屋根をガチリと掴み取る。
間髪入れず、グレイアとスラオの強力な魔力が馬車全体を包み込み、周囲の風景へと完璧に溶け込ませて隠蔽した。
バサッ……! バサァッ……!!
巨大な翼がひと羽ばたきするだけで、馬車は飛空艇のような滑らかさで一気に大空へと飛び立った。グレイアが念話で正確な方角を指示し、馬車は雲を突き抜けて超高速で迷宮都市ラビリスへと向かって突き進んでいった。
◇
雲上の快適な空の旅はあっという間に終わり、俺たちは迷宮都市ラビリスの郊外にある静かな街道沿いに到着した。
安全な物陰で全員が馬車から降りる。
ロクは再び可愛らしい小鳥サイズへと縮み、ウィーラの肩の上へと軽やかに戻った。グレイアは馬車を再び底なしの闇の中へと格納する。
ユイが広大な景観を見渡し、目を丸くして歓声を上げた。
「すごーい! あっという間に着いちゃったねー!」
ウィーラが鼻高々に胸を張る。
「ふふん、そうじゃろう! ロクの脚力にかかれば、この程度の距離などひとっ飛びなんじゃよ!」
「よし、さあ、行こうか!」
俺たちは気持ちを新たに、巨大な外壁に囲まれた迷宮都市ラビリスの巨大な城門に向かって歩き出した。
城門前には、都市に入ろうとする商人や旅人、開拓者たちの長い列が出来上がっている。俺たちは素直にその最後尾へと並んだ。
ふと見ると、俺たちが並んでいる長蛇の列とは別に、一切立ち止まることなくスイスイとスムーズに都市の中へ吸い込まれていく別の専用レーンが存在していた。
ユイが不思議そうにその列を指差す。
「ねえねえヒロト、あっちのガラガラな列は何だろうねー?」
すると、俺たちのすぐ後ろに並んでいた身なりの良い中年男性が、親切に声をかけてくれた。立派な荷馬車を引いた商人風の男だ。
「おや、お兄さん方はラビリスは初めてですか? あっちの列はですね、高い税金を払っている貴族様や、ランクの高い冒険者、それにこの都市の永住許可証を持っている住民用の優先入り口なんですよ。身分証を提示するだけで顔パスで通過できるので、待たずにすぐ都市に入れるんです」
ユイがパッと笑顔になってお礼を言った。
「あ、ありがとうございます! そうだったんですね、疑問が解けました!」
気さくな商人の男性は、親しみやすい笑みを浮かべて自己紹介を始めた。
「いえいえ! 私はアキルイという者でしてね、商人をしております。ここから少し離れた商業都市アキリスから商品を仕入れに来たんですよ。……見たところ、皆さんはかなりの別嬪さん揃いのご一行ですが、一体どちらからお越しになったのですか?」




