第324話 【絶望からの救済と誓いの門出】ハーフエルフの救命と暗殺者の真実! 覚醒の少女へ手渡される勇者の希望!
静寂が戻った館の部屋に残されたのは、圧倒的な力で場を支配した者たちだった。
樹海帝国ダークエルフ国女王、ダークハイエルフのグレイア。
サクラの使い魔である黒猫の猫又、ミサキ。
ユイの使い魔である火の鳥、フェン。
ハーフエルフの女王エルサラ。
幹部の一人であるハーフエルフのエルサイア。
同じく幹部のハーフダークエルフのグライガ。
命を救われたハーフエルフの少女エルファ。
そして、冷や汗を拭うヴァルキリーのスクルド、ヒルド、スコグルの三姉妹と、胸を躍らせるアマゾネスのハーミアであった。
血生臭い戦闘の気配が薄れると、エルサラは深々と頭を下げ、震える声で言葉を紡いだ。
「グレイア様……この度はハーフエルフ一族を滅亡の危機から救っていただき、本当にありがとうございます。我々ハーフエルフとダークエルフは、その美しい容姿ゆえに、いつの時代も悪しき者たちに狙われ続けてまいりました。弱い者は容赦なく捕らわれ、奴隷として売り払われる過酷な運命……。仲間を集めてこの地に集落を築き、必死に生きてまいりましたが、常に外敵の脅威に怯える日々でした。我々には正統なエルフのような強力な精霊魔法も使えず、力が弱いため、古代兵器に頼って防衛してまいりましたが……それももう限界でした。……厚かましいお願いとは承知しておりますが、もしグレイア様がお許しくださるならば、我らを樹海帝国でお世話していただくわけにはいかないでしょうか」
その悲壮な訴えに対し、グレイアは表情を崩さず、静かに肯いた。
「いいでしょう。受け入れますよ。私の国で、共に平和に暮らしましょう」
「ああ……! ありがとうございます……っ!」
エルサラの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。後ろに控えていたエルサイア、エルファ、そしてグライガも、感極まった面持ちで一斉に膝をつき、地に着くほど深く頭を下げた。
エルサラは溢れる涙を拭うと、壁に飾られていた大きな絵画を恭しく取り外した。その裏に隠されていた重厚な金庫の暗号を解除し、中に大切に保管されていた古代兵器の魔導銃を何挺も取り出していく。
「これらは、平和な大地ではもう無用となる物です。我らの命を救ってくださったお礼として、グレイア様にすべて献上いたします」
「うむ。好意を無駄にするのも無作法だ、遠慮なくいただこう。感謝する」
グレイアは古代兵器を受け取ると、その中からとりわけ長銃身で精巧な小銃を一挺手にとり、スクルドの前へと差し出した。
「スクルド……貴女たちの真の目的はこれでしょう。進呈します」
予想外の申し出に、スクルドは目を見開いて息をのんだ。
「おお……! ありがとうございます! これこそが、私たちが喉から手が出るほど手に入れたかった代物です……! しかし、なぜ私たちの真意をお分かりになったのですか?」
グレイアは小さく微笑を浮かべた。
「貴女たちの目的は、打倒オダーン公爵、そして打倒渾沌。大人数の軍勢ならともかく、精鋭とはいえその少ない人数で正面から決戦を挑むのはあまりに無謀。となれば狙う手段は一つ……敵首魁の暗殺でしょう。この小銃は超遠距離からの暗殺に特化した兵器。喉から手が出るほど欲しいはずですよ」
スクルドは苦笑いを浮かべ、受け取った小銃を慈しむように撫でた。
「……その通りです。暗殺など、世間一般の言う『正義』からはほど遠い不真面目な手段ですがね」
スクルドはくるりと振り返り、先ほど決別を告げたアマゾネスの少女を見つめた。
「ハーミア。あなたの真っ直ぐで高潔な考えは、決して嫌いではないわ。けれど……私たちの歩む暗黒の道とは相容れない。今後、共に旅を続けることはできないわ。ここでお別れよ」
「はい……。今までありがとうございました。お気をつけて」
ハーミアもまた、最初から暗殺を目的とするヴァルキリーたちに同行するつもりはなかった。誇り高く頷いて見せる。
ヒルドが柔らかな笑みを浮かべて前に出た。
「まあ、無理をせず、自分の信じる正義を貫きたまえ」
ヒルドは温かい手を差し出し、ハーミアの手をギュッと力強く握りしめた。続いてスコグルも微笑む。
「ハーミアは、冷酷なヴァルキリーより、古の勇者の生き方に近いと思うよ」
スコグルもハーミアと力強い握手を交わした。スクルドが最後に歩み寄る。
「いつの日か……あなたが本物の勇者になれることを祈っているよ」
スクルドも深く頷きながら握手を交わした。
「グレイア様、それでは失礼いたします。……ハーミア、元気でな」
「うむ。またな」
スクルドはグレイアに最高の敬礼を捧げると、ハーミアに向けて親しげに手を振った。ハーミアも笑顔で手を振り返す。
「ありがとうございました! またどこかで会える日を信じています!」
風のように潔く、スクルドたちヴァルキリー達は部屋を去っていった。
取り残されたハーミアは、深呼吸をしてグレイアへと向き直った。
「グレイア様、私もこれで失礼いたします。命を救っていただき、本当にありがとうございました。またどこかでお会いできれば嬉しいです!」
気さくに笑いかけるハーミアに対し、グレイアは心底嫌そうに眉をひそめてみせた。
「私は二度と会いたくないな。貴女のような真っ直ぐすぎる人間といると、面倒な事に巻き込まれそうだ」
思わず苦笑いを浮かべるハーミアに、グレイアは背を向けながら小さく手を振った。
「まあ……死なない程度に無理はするな。じゃあな」
ハーミアは晴れやかな顔で深く頭を下げると、己の信じる正義の道を進むべく、館を後に入った。
一人残ったグレイアが、静かになった部屋で命じた。
「エルサラ、エルファ、エルサイア、グライガ……行くぞ」
「「「「はいッ!」」」」
ハーフエルフたちの元気な返事が響き渡る。次の瞬間、グレイアの足元から広がった深淵の闇が部屋全体を包み込み、全員の身体を優しく呑み込んでいった。
無音の転移が完了し、視界が開ける。
そこは青空が広がる、樹海帝国のダークエルフ国の中央広場であった。
「エルサラ様ーっ!」「無事だったのですねッ!」
広場では、先に避難を終えていたハーフエルフたちと、これまで救出された同胞たちが、拍手と歓声を上げてエルサラたちを温かく出迎えた。抱き合って涙を流す彼らの姿を遠目に見ながら、グレイアは静かに満足げな笑みを浮かべるのだった。
◇
樹海帝国皇帝の城、陽光が差し込むいつものリビング。
俺はソファーに深く腰掛け、妻たちやアンナの念話映像を通じて、暗黒街ミレースで巻き起こった一連の激動の一部始終を見届けていた。
「ふぅ……これで良かったのかね」
俺がポツリと呟くと、隣で優雅に紅茶を嗜んでいた吸血鬼真祖のヒナが、クスクスと笑いながら肩をすくめた。
「まあ、ハーフエルフたちも救われたし、ハッピーエンドじゃない? 綺麗に収まったんだから良しとしなさいな」
「しかし……相変わらずグレイアの冷徹な容赦の無さは怖いね~」
敵を瞬時に処罰したあの圧倒的な暗黒魔法を思い出し、私が苦笑いを浮かべていると、龍脈の魔女ウィーラが愛管をくゆらせながらニヤリと笑った。
「そうでもないじゃろ。大切なものを守るためなら、あのくらいの苛烈さがあってこそ一国の女王というものじゃ」
その時、リビングの扉が開き、ミレースでの極秘任務を終えた猫又のミサキと、不死鳥フェニックスのフェンが姿を現した。
悪魔ベルフェゴルのサクラがパッと顔を輝かせ、手を振る。
「おかえり~! 無事に終わって良かったねぇ」
「ただいま戻りました、サクラ様。凄まじい大掃除でしたよ」
ミサキが愛らしく語尾を揺らしながら歩み寄り、フェンは嬉しそうに羽を羽ばたかせながら、飼い主であるエルダーリッチ勇者のユイの元へと飛び寄り、甘えるように頬を寄せ合うのだった。




