第316話 【暗黒街の暗闘と銃火の脅威】太古の魔法銃とオーチの陰謀! ハーフエルフ救出へ動き出す城の覇者たち!
「今ここでお前から武器を奪ってもいいんだよ」
氷のように冷たいスクルドの言葉が謁見の間に響き渡ると、重苦しい静寂が空間を支配した。横にいたハーミアは青ざめ、口をパクパクとさせて腰を抜かしかけている。
(ひえええぇぇッ!? さ、さっきまで大人しく話を聞いてたのに、いきなり殺気全開ですかーっ!? ここ敵の本拠地なんですよーっ!?)
冷汗を垂らすハーミアに対し、グリガスは引きつった笑みを浮かべながら、必死に首を振った。
「そ、それは無理というものだ! 勘違いしないでくれ、俺たちは太古の兵器など持っていない!」
スクルドは眉を少し跳ねさせ、冷静に視線を注ぐ。
「ふむ……そうか。後からこの街に入り込んできた後発の勢力は、古代兵器を持っていないのだな?」
「その通りだ! 我々はこの身につけた強烈な戦闘スキルと力だけでのし上がってきた叩き上げだ。古代の遺物など所有してはおらん!」
「すると……本物の古代兵器を所有しているのは、最初にこの遺跡に潜伏したというハーフエルフたちか」
「そうだ! 奴らを束ねるハーフエルフの女王、エルサラの勢力だよ!」
スクルドは腕を組み、冷徹な瞳でグリガスを見下ろした。
「ふむ。一応、先ずは詳しい話を聞こうじゃないか」
グリガスは安堵の溜め息を深く吐き出すと、身を乗り出して詳細を語り始めた。
「ふぅ……エルサラの縄張りはこの街の最奥部にある巨大な地下遺構だ。戦える人数は二百人程度。ハーフエルフやハーフダークエルフを中心としてはいるが、半獣人やダンピーラも十数人は混じっている。……何れも、まともな攻撃魔法や精霊魔法すら使えない落ちこぼれどもだ。だが、注意が必要なのは三人の幹部と、奴らが所有する古代兵器だ。幹部はハーフエルフのエルサイア、ライオンの半獣人ライガム、そしてダンピーラのヴァズドの三人。まあ、スクルド殿ほどの猛者ならば幹部どもは全く問題なく倒せると思うが……女王と幹部どもが手にする古代兵器の威力は本物だ」
「古代兵器だと? ……それは『銃』か?」
スクルドの口から出た意外な単語に、グリガスは目を丸くして驚いた。
「なに……!? 『銃』という存在を知っているのか! それは説明の手間が省けて助かるな!」
「やはりそうか」
「ああ。奴らが発掘して所有しているのは、魔法拳銃が二丁と、魔法小銃が二丁だ。使用者の魔力を込め、強力な魔法弾を連射する恐ろしい兵器だ。魔法小銃は遠距離の敵をアウトレンジから狙撃し、魔法拳銃は迫る中距離の敵を正確に射ち抜く。そして懐に入られた近距離は幹部どもの格闘スキルで対応されるため、戦闘において隙というものが一切ない」
「魔法銃は呪文の詠唱が一切不要なため、魔力が続く限り連射が可能と聞いたが、本当か?」
「そこまで知っているのか! 話が早くて実に助かる。鉄の分厚い大盾すら一瞬で貫通するため、不用意に近づくことすらできんのだ」
スクルドはフッと鼻で笑い、顎に手を当てた。
「なるほどな。それで以前、討伐に押し寄せた王国の兵士たちも返り討ちに遭ったというわけか。……ところで、この街は領主であるオーチ伯爵と繋がっていると聞いたが、内部で派手に抗争を起こして問題はないのか?」
「ふん、オーチ伯爵と裏で繋がっているのはハーフエルフどもだけさ。奴らを叩き潰して倒せば、俺たちがその利権の後釜になる。すでにオーチ伯爵の側近とは裏で話がついているのだよ」
「ふむ……怪しいな」
グリガスは顔を顰め、慌てて弁明した。
「おいおい! 本当のことだぞ! ウソだと思うなら誓ってもいい、信じてくれ!」
「お前を疑っている訳ではない。そのオーチ伯爵という男の動きが怪しいと言っているのだ。……グリガス、お前たちはオーチの本当の動向を探った方がいいぞ」
「どういう意味だ……!?」
スクルドは冷ややかな笑みを深め、腕を組んだ。
「オーチ伯爵はそんな単純な男じゃない。恐らくは、お前たちに気づかれぬようオーチの手の者がすでにこの街に入り込んでいるはずだ。お前たちがハーフエルフの縄張りを襲撃するタイミングに合わせて背後から襲いかかり、漁夫の利を狙撃して双方を全滅させる気だろう」
「むむ……っ! なんだと!?」
「知らんのか? 先日、オーチの領城があるノガートに、伝説の四凶『饕餮』が現れて街が半壊したのだぞ」
「ええっ!? りょ、領都が半壊しただと!?」
「我々はちょうどその現場に居合わせていたからな。克明に覚えている」
「……ま、まさかスクルドさんが、その凶悪な『饕餮』を追い払ったというのか!?」
うろたえるグリガスに、スクルドは呆れたように肩をすくめた。
「急に『さん』付けなんて丁寧にならなくてもいいよ。『饕餮』を撃退したのは私の知り合いだ。……とにかく、オーチの兵士たちは『饕餮』にかなりの数が喰われ、壊滅的な被害を受けた」
「く、喰われただとーっ!?」
(ひやぁぁぁっ!? そうなんです。化け物に人間が食べられちゃったんです!? 怖すぎますーっ!)
ハーミアが悲鳴をあげて頭を抱える中、スクルドは淡々と分析を続けた。
「つまり、オーチにとって戦力の急激な補強は喫緊の課題なのだ。何としてでも強力な兵力が欲しいと考えているはず。そんな状況で、貴重な戦力となり得るハーフエルフや古代兵器を、お前たちに破壊させるのを良しとするはずがないだろう。もしオーチの本当の狙いが最初から古代兵器の強奪にあるなら、私の読みも合致する。……グリガス、共闘の話に乗る前に、まずはオーチの真の動向を探るのが先決だな。その動向を含めた作戦を立てるべきだ」
「うぐぐ……確かにお前の言う通りかもしれん……!」
グリガスが汗を流して唸り声をあげた。
◇
その一部始終を、水晶体の映像越しに見ていた俺たちは、城のリビングで思わず顔を見合わせた。
「おいおいグレイア、これってかなり不味いんじゃないかい? 虐げられてきたハーフエルフたちが、いきなり三つの勢力から同時に狙われてるじゃないか」
「……不味いですわね。このままでは彼女たちが全滅してしまいますわ」
グレイアが美しい眉をひそめて焦りを見せる。俺は即座に決断を下した。
「サクラ、ミサキをハーフエルフの救援と監視のために回せるかい?」
「そうですね。ミサキ(黒い猫又)なら気配を消して潜入できますから、すぐにハーフエルフの集落へ向かわせますわ」
サクラが頷くと、ユイも真剣な表情で手を挙げた。
「私も自分の使い魔のフェン(不死鳥フェニックス)を行かせるわ! 上空から異変があればすぐに知らせてくれるはずよ」
「助かるよ、二人とも。……ところでグレイア、ハーフエルフの女王エルサラの勢力に何か強いツテは無いのかい? いきなり俺たちが乗り込んでいっても、警戒されてまともに話すら聞いてくれないだろう?」
俺が尋ねると、グレイアは困ったように綺麗な眉を八の字に下げた。
「我が国の領地で必死に縁者を探してはいるのですが……今のところ浅い伝しか見つかっていませんのよ。『伯父さんの友達の子供がミレースの一員らしい』とか、『子供の頃に隣に住んでいた人が女王の親戚らしい』とか、そんな程度で……」
「うーん、それはかなり遠い伝だな……」
「ええ。せめて幹部の方と浅くても直接の伝があると交渉がスムーズなのですが……。伝が無ければ、どれほど浅くてもそのルートを使って、まずは面会の交渉だけでも試みてみますわ!」
苛烈な暗黒街の陰謀が渦巻く中、虐げられたハーフエルフたちを救うため、俺たちは裏で迅速に手を打ち始めるのだった。




