第312話 【絶品朝食と混血たちの暗黒街】次なる目的地ミレース! 虐げられたハーフエルフと危険な遺跡街への旅立ち!
波の音が心地よく響く南国リゾートの朝。俺たちは昨夜宿泊した港町スーオの水上コテージで最高のひとときを過ごし、澄み切った朝の光が差し込むホテルの豪華な食堂へと集まっていた。
朝食は彩り豊かなバイキング形式だ。新鮮な魚介や南国フルーツがずらりと並ぶ中、俺は港町オースの伝統的な郷土料理である『ロシ』と『マスフニ』をチョイスしてみた。
目の前で焼き上げられたロシは、まるで薄手のクレープ生地のようだ。手で触れてみると、指先に吸い付くようなもっちり感としっとりとした弾力がある。
一方のマスフニは、細かく刻んだカツオの切り身にたっぷりのココナッツフレーク、みじん切りの玉ねぎと真っ赤な唐辛子を和え、フレッシュなライム果汁と塩で絶妙に味付けされたスパイシーな和え物だ。
弾力のあるロシの生地にマスフニをたっぷりと包み、ガブリと口へ運ぶ。
「……うんッ! 美味い! カツオの深い旨味にココナッツのまろやかさ、そこにライムの爽やかな酸味と唐辛子のピリッとした刺激が絶妙にマッチしてる!」
「ふふ、本当ですわ。このもっちりした生地とスパイスの相性が抜群でございますね」
隣で同じものを口にしたダークハイエルフのグレイアが、上品に微笑みながら頷いた。食後には絞り立ての濃厚な南国フルーツジュースを飲み干し、フレッシュな南国フルーツを心ゆくまで堪能した。
最高のリゾート体験に大満足した妻たちは、朝食を終えると一旦満足そうに城へと戻っていった。
食後のコーヒーを飲みながら、俺はグレイアに向き直った。
「さて、スーオの料理も満喫したし、そろそろ次の町へ向かおうか。ところでグレイア、ここから一番近い町はどこなんだい?」
「ふふ、昨日のうちにホテルのフロントや従業員たちから、周辺の地理について詳しく情報を集めておきましたの」
「おお、さすがグレイア! 手際が良いね~!」
俺が感心すると、グレイアは少し真面目な表情を浮かべて人差し指を口元に当てた。
「いくつか近隣の町を教えていただいたのですが……その中に、私個人として非常に興味深い町がございましたの。もし宜しければ、まずはその町へ向かってみませんか?」
「興味深い町? どんな場所なんだい?」
「……『ミレース』と呼ばれる、ハーフエルフたちが多く暮らす町だそうですの」
「そういえば、グレイアが治める我が国には、ダークエルフだけじゃなくハーフエルフたちもたくさん暮らしていたね」
俺が頷くと、グレイアの瞳に深い同情と決意の色が宿った。
「ええ。ですが、人間やエルフの王国では今なおハーフエルフたちが苛烈な迫害を受けておりますの。もし彼らに希望があり、我が国への移住を望むのであれば……保護して連れて帰ってあげたいと考えたのですわ」
「いいじゃないか。それなら迷う必要はないな、そのミレースという町に行ってみよう!」
俺が快諾すると、グレイアはホッと安堵の表情を浮かべたが、すぐに気を引き締めるように言葉を続けた。
「ですがヒロト様、お気をつけください。その町に住んでいるのはハーフエルフだけではありませんの。吸血鬼と人間との混血であるダンピーラ、半魔族、半獣人、半魚人など、異種族間の混血たちが身を寄せ合って生きておりますの。表立った他国との交流はなく、都市の裏組織と深く繋がっているという噂もあり……かなり危険な無法地帯のようですわ」
「へぇ……なかなか骨がありそうな町だね。よし、行こう!」
「ありがとうございます、ヒロト様!」
俺たちはホテルに預けていた馬車を引き出し、危険な混血たちの町ミレースに向けてスーオを出発した。
◇
街道を進むこと数刻。小高い丘の上に馬車を止めると、前方遠くに不気味なシルエットが見えてきた。
「あれが……その町かい?」
「ええ、間違いありませんわ。あの異様な遺跡のような建物群が『ミレース』ですの」
遠目に見えるのは、あちこちが崩落した古びた石造りの巨大な遺跡群だ。まるで文明の墓場のような荒涼とした雰囲気が漂っている。
「相当古い古代遺跡のようだけど……あんな場所に住み着いているのかい?」
「そうなのですわ。元々は誰も寄り付かない放置された巨大遺跡でしたの。そこに最初に隠れ住んだのが、行き場を失ったハーフエルフたちでした」
グレイアは遠くの廃墟を見つめながら、その凄惨な成り立ちを静かに語り始めた。
「純血のエルフと異なり、ハーフエルフは精霊との契約能力が極めて薄く、エルフの郷では『汚れた血』として徹底的に虐げられました。そして人間どもの王国へ売られ、奴隷としてまともな食事も与えられず、過酷な労働によって衰弱していく……。耐えかねて逃げ出した者たちが、雨露を凌ぐために辿り着いたのがあの廃墟だったのです」
「なるほど……荒らされ、掘り尽くされて見捨てられた無人の遺跡だからこそ、潜伏するには好都合だったわけだね」
「はい。その後、同様に生き場を失ったダンピーラや半魔族、半獣人、半魚人たちも次々と集まりました。彼女たちは偶然にも遺跡の奥底から古代の強力な魔法兵器を発見し、襲い来る追手を撃退することに成功したのです。ですが……それが裏目に出ましたの」
「裏目?」
「噂を聞きつけた本物の犯罪者や、集落を追われた悪党、浮浪者や孤児、貧困で税が払えなくなった少数民族も庇護を求めて流れ込み……いつしかそこは巨大なスラム街、そして暗黒街へと変貌してしまいました。王国の領主たちも、臭いものに蓋をするように見て見ぬふりを決め込み、今や手出しのできない癌細胞のような危険地帯と化しているのですわ」
「ふむ……想像以上に物騒で危険そうな場所だね。念のため、料理人のブラリリは一度城へ帰そうか」
「それが賢明かと思いますわ」
後部座席で聞いていたエルダーリッチ(勇者)のユイも、苦笑いを浮かべながら同意した。
「そうね、そんな怪しい無法地帯に美味しそうなレストランや可愛いカフェがあるとも思えないし!」
龍脈の魔女ウィーラも頷く。
「うむ。料理人が戦いに巻き込まれては敵わんからの」
「よし、町に入る前にまずは中の様子をしっかりと探ってもらおう。……アンナ、大悪魔バエルのスパの小蜘蛛と一緒に、町の中の警戒網や危険度を調べてくれるかい?」
俺が空間に向かって呼びかけると、シュタッと影の中からキラーアントエンプレスのアンナが恭しく姿を現した。
「御意にございます、ヒロト様。スパ様の小蜘蛛はもちろんのこと、私の眷属である偵察用の『小蟻』たちを放てば、街中の隠れ家や裏組織の動きまで完璧に索敵可能でございます」
「ほう! それは頼もしいな。では、小蟻たちを潜入させて街全体の情報を集めてくれ」
「ハッ! 直ちに手を打ちます!」
アンナが影の中へ念波を送ると、無数の目に見えないほど小さな精鋭の小蟻たちが、ミレースの町へと一斉に滑り出していった。
「よし、偵察の結果が出るまで、俺たちも一度城へ戻ってゆっくり過ごすとしようか」
「「「はい!」」」
俺たちは転移魔法を発動させ、安全で快適な城へと一旦姿を消すのだった。




