第310話 【楽園の水上コテージと妻たちの集結】碧海広がるリゾートを満喫! 民族水着の妻たちと極上のバカンスへ!
ロビーの奥から、滑らかな足取りで一人の給仕がこちらへとやってきた。
身長は180センチほど。二腕二脚の人間と変わらぬ体躯をしており、全身は美しい青銀色の魚の鱗に覆われている。
頭部は精巧な魚そのものの造形で、手足には立派な鰭や水かきがついていた。ガッシリとした体格の魚人である。
先ほどジュースを持ってきてくれた女性従業員と同じく、人魚や魚人の種族がこのホテルを切り盛りしているようだ。
「お客様、ご案内いたします。お荷物をお持ちいたしますが、どちらにございますでしょうか?」
丁寧なお辞儀とともに魚人が尋ねてくるが、俺は苦笑いを浮かべながら手を振った。
「ああ、荷物は特にないよ。気にしないでくれ」
スラオの影空間や収納の魔法を使える眷属や側室が多くなったため、俺たちの旅はいつだって完全な手ぶらなのだ。
魚人は意外そうに目を丸くした。
「え、あ……そうでございますか。大変失礼いたしました! それでは、お部屋へご案内いたします。こちらへどうぞ」
魚人の案内で、フロント棟の裏手にある重厚な扉から外へと出る。
一歩足を踏み出した瞬間、視界が一気にひらけた。
どこまでも高く澄み渡る快晴の青空。太陽の光を受けてキラキラと黄金に輝くマリンブルーの海。そして水平線が弧を描く圧巻のパノラマ。あまりにも開放的で美しい景色が、眼前にどこまでも広がっていた。
「うわあぁぁーっ! 最高ッ! 正しく前世で夢見た南国の高級リゾートそのものじゃない!」
ユイが思わず両手を広げて大歓声を上げる。
「お食事は先ほどお通りいただいた本館のレストラン棟となりますので、お時間になりましたらぜひお越しください。お客様のお部屋はこちらになります」
魚人が先導して木製の遊歩道を進んでいく。周りにはヤシの木に似た南国の樹木が青々と茂り、鮮やかな原色の花々が眩しいほどに咲き誇っていた。
そこを通り抜けると、眩しいほどに白い砂浜が出迎えてくれた。宿泊客のためだけに用意されたプライベートビーチだろう。
砂浜から海の上へと、頑丈な木製の木道がスッと伸びている。その左右に点々と並んでいるのが、目的の『水上コテージ』だ。
案内されたコテージの重厚なドアを開けると、そこは天井が高く、壁一面に大きなガラス窓が嵌め込まれた開放感抜群の木造建築だった。
海に向かって広々としたウッドデッキが突き出しており、そこには白い高級リクライニングチェアとローテーブルが設置されている。デッキの端には、なんとプライベートプールまで備え付けられていた。
「(な、なんですかこの夢のようなお部屋はーっ!? 海の上に家があるだけでもおかしいのに、デッキにプールまであるなんて……贅沢すぎてバチが当たっちゃいますーっ!?)」
物陰から覗き込んでいたハーミアが、目を点にして顎が外れそうなほど驚いている。
室内へ戻ると、リビングの床の一部が透明な強化ガラス張りになっており、足元を泳ぐカラフルな熱帯魚たちがバッチリ見えた。広々とした高級感あふれるお風呂とシャワー設備も完備されている。
絶対、地球からの転移者がリゾートホテルをイメージしてプロデュースしたに違いない完璧な作りだ。実に素晴らしい。
寛ぎのひとときに浸っていると、頭の中に応龍のハクから念話が入ってきた。
『ヒロト、なんだかとっても楽しそうな良いところに泊まってるじゃない。私も今すぐそっちに行きたいわ!』
『ハクか。いいよ、おいで。……もしかして、他の皆も来たい感じかな?』
『当たり前じゃない! スーオのリゾートの話を聞いて、皆『ズルい! 私たちも行く!』って大騒ぎよ!』
俺は思わず苦笑し、手続きから戻ってきたグレイアに声をかけた。
「グレイア、部屋を追加で取ってきてくれ。妻たちが全員こっちに来るってさ」
「あらあら、それは賑やかになりますわね。かしこまりました、すぐに追加の手続きをしてまいります」
グレイアが再びフロントへ向かうのを見送り、俺は空間魔法を発動させて妻たちを全員このプライベートビーチへと召喚した。
港町スーオの南国リゾートの絶景と潮風に誘われ、テンションが最高潮に達した妻たち全員がスーオへ集結することになったのだ。
俺はグレイアが戻ってくるまでの間、コテージのプールサイドで妻たちの部屋割りをノートに書き出していった。
「俺の部屋。レイとハク。コボミとハピ。ヒナとアリア。サクラとルシー。リザとスパ。ビーとアンナ。グレイアとウィーラ。ユイとブラリリ。……これで9部屋かな」
戻ってきたグレイアにメモを見せると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「完璧な振り分けですわね。では、追加の5部屋をさっそく押さえてまいりますわ」
グレイアが軽快な足取りでフロント棟へ向かった。
さて、俺もプライベートビーチでのんびりとバカンスを楽しむとしよう。
砂浜に置かれたビーチチェアに深く腰掛け、日差しを遮るために黒いガラスのサイバーゴーグルを装着する。
すると、両脇に人化形態となったハクと世界樹(精霊王)のレイが滑り込んできた。二人とも色鮮やかな水着を着用し、腰にはパレオのような薄く華やかな模様の布を優雅に巻きつけている。
「ハク、レイ、その腰に巻いてる布はどうしたんだい?」
俺が尋ねると、ハクが胸を張って自慢げに微笑んだ。
「ふふん、これね、この町の伝統的な民族衣装なんだって! グレイアがホテルの売店で見つけて、みんなの分をまとめて買ってきてくれたのよ」
「へぇ、すごく似合ってるよ。南国の雰囲気にぴったりだ」
「かわいいでしょ? ヒロトに褒めてもらえるのが一番嬉しいわ!」
ハクはご満悦の様子で頬を染め、レイも嬉しそうに微笑んでいる。
「(ひやぁぁぁっ!? 女神様みたいな美少女たちが次々と現れて、しかもみんなヒロト陛下の奥様だなんて……ッ! この世の天国ですかーっ!?)」
遠くから見ていたハーミアが、眩しすぎる光景に目を眩ませて泡を吹きそうになっていた。
俺は波の音に耳を傾けながら、ふと思いついた疑問をハクに投げかけた。
「ところで、スーオの海には大型で強力な海洋魔物が回遊しているって聞いてたんだけど、このビーチのあたりは大丈夫なのかな?」
ハクは水平線の彼方を指差し、余裕の笑みを浮かべた。
「ああ、大陸の近海にはそんなに強力なのは出ないわよ。本当のバケモノ級は、もっと沖の方に行くとゴロゴロ見えるわね。……ふふ、ちょっと見に行ってみる?」
「いやいや、行かないよ。ただ気になっただけさ」
俺はサイバーゴーグルの奥で苦笑しながら、寄せては返す青い波をゆったりと眺め続けるのだった。




