第305話 【絶品バーガーと戦乙女の悲劇】朝食の美味に歓喜するスクルド! 語られる渾沌の絶望と復讐の誓い!
翌朝、ダンジョン内に昇る擬似太陽の爽やかな光を受けてパチリと目が覚めた。
「さて……そろそろ野宿の現場に戻るとするか」
隣を見ると、昨夜俺を魅惑の湯船へと連行した亜神ペナンガルのビーと、キラーアントエンプレスのアンナはすでに起きており、手際よく出かける準備を整えていた。
「ヒロト様、本日の着替えをご用意いたしましたわ」
「ありがとう、アンナ」
アンナに用意してもらったパリッとした清潔な服に袖を通し、洗面所で軽く顔を洗って身だしなみを整える。そして、テント内に残してきた虚影と入れ替わるように、気配を消して野宿のテントへと一瞬で空間跳躍した。
テントの外へ出ると、ブラウニーのブラリリが鼻歌交じりに朝食の準備を進めていた。
鉄板の上でジューッと音を立てて焼かれているのは、厚みのある肉厚なハンバーグ。香ばしく揚げられているのは黄金色のフライドポテトだ。さらには淹れたてのブラックコーヒーと濃厚な野菜ジュースまで添えられている。
……どこかの有名ファストフード店そのものじゃないか!
思わず心の中でツッコミを入れたが、匂いがあまりにも魅惑的なのでよしとしよう。
美味しそうな匂いにつられてテントから出てきたエルダーリッチ(勇者)のユイが、くすくす笑いながらお腹を摩った。
「ふふ、こうなってくると冷たいコーラが欲しくなっちゃうわね」
「確かにね。あ、ブラリリ、俺の分はハンバーグの他にレタスとトマト、それと濃厚なミートソースを挟んでおいてくれ」
俺のこだわり溢れる注文を聞いて、ユイがニヤリと口元を緩めた。
「あ~、あの有名なバーガーね! ヒロトって本当にあれが好きよね」
「大好物なんだよ。あとは追加で、甘辛いソースが効いたてりやきチーズバーガーも頼むよ」
「承知いたしました、ヒロト様! すぐにお作りいたします!」
ブラリリは胸を張って元気に頷いた。
一方、驚愕の表情で鉄板を見つめていたのはスクルドとヒルドだ。ブラリリは二人に対して、特別仕様の巨大なバーガーを作り上げていく。
厚めのバンズを三枚にスライスし、下のバンズの上に新鮮なレタスとみじん切りの玉ねぎをたっぷり乗せる。特製のサウザンアイランドソースを惜しみなく回しかけ、ピクルス、ジューシーなハンバーグ、とろけるスライスチーズをトッピング。さらに真ん中のバンズを重ね、再びレタス、玉ねぎ、ソース、ピクルス、そして二枚目のハンバーグをドンッと贅沢に鎮座させ、上のバンズで挟み込む。
そう、誰もが知るあの名物『ビッグバーガー』である。
スクルドとヒルドはこの特大ビッグバーガーを、なんと一人で三個もペロリと平らげていた。飲み物は新鮮な冷たい牛乳だ。
「な、なんですかこれは~っ!? この香ばしいパンとジューシーなお肉の組み合わせはっ!? 美味しすぎて口に運ぶ手が止まりません……! 太っちゃうのに、おかわりが欲しくなっちゃいます!」
ヒルドは頬を真っ赤にし、口の周りにソースをつけながら歓喜の悲鳴を上げた。スクルドもフライドポテトを数本まとめて口へ放り込み、感動に目を潤ませている。
「このフライドポテトという食べ物も手が込んでいるな……! これほど贅沢に塩を使っているとは素晴らしい!」
「うう、朝からこんな美味しいものを食べさせられるなんて……もう私、ヒロト陛下と離れられない身体になっていっちゃいそうですわ……」
ヒルドがとろんとした目で幸せそうに溜息を吐いた。
そんな賑やかな野営地で朝食を食べながら、俺はヴァルキリーのスクルドとヒルドに向き直り、本題の質問を投げかけた。
「スクルド、前線に行って一体どうするつもりなんだい?」
スクルドは食べかけのバーガーを置き、キリッとした凛々しい表情で強く答えた。
「勿論、オーダンの軍と戦い、反逆者オーダンをこの手で倒すためです」
すると、隣でコーヒーを飲んでいたユイが不意に尋ねた。
「オーダンには、何か個人的な強い恨みでもあるの?」
「は、はい……」
スクルドが暗い影を落とすと、横からヒルドが悔しそうに拳を握りしめ、悲痛な声を上げた。
「スクルド様の婚約者であった、タカージ王子を殺されたのです……!」
「そうか……それは気の毒に」
俺が同情を寄せると、ユイはさらに踏み込んで質問を重ねた。
「一体何があったの? 差し支えなければ教えてくれるかしら」
(ユイは結構ぐいぐい突っ込むなぁ。俺なら今の話だけで触れずに終わらせておくところだけど)
苦笑いする俺の横で、スクルドは遠い目をしながら静かに語り始めた。
「……タカージ王子の異母兄の結婚式が王都で執り行われていた時のことです。突如として、伝説の邪神とされる『渾沌』が現れたのです。当時、私は任務で王都を少し離れていたのですが、渾沌出現の報を聞きつけ、狂ったように現場へ急行しました」
スクルドはゴクリと喉を鳴らし、手に持っていた水を一口飲んで気持ちを落ち着かせた。
「しかし……王城に到着した時に目にしたのは、地獄のような光景でした。混乱の最中、正気を失った王国の兵士たちが互いに殺し合っていたのです。そしてその中には……私の大切な部下たち、親衛隊のヴァルキリーたちの姿もありました……」
ヒルドも苦しい胸の内を吐露するように、スクルドの言葉を引き継いだ。
「私もスクルド様と共に、死に物狂いで王城へ駆けつけました。ですがそこで遭遇したのは、正気を失って血みどろになって殺し合うヴァルキリーや兵士、貴族たちの地獄絵図でした……! 私たちは苦渋の決断で仲間を死なせないよう制圧しながら、王家の方々とタカージ王子を必死に探し回ったのです……」
スクルドは唇を噛み締め、悔しさに体を震わせた。
「ようやく式場へと辿り着いた時には……渾沌と殺し合ったと思われる、凄惨な姿となった王家の人々の死体が転がっていました。……タカージ王子も、冷たくなっていたのです。私は激怒し、目の前にいた渾沌に一切の加減なしで戦いを挑みました。……ですが、私の自慢の長槍も、渾沌には傷ひとつ付けることができなかった。一切の攻撃も魔法も通じず、歯が立たなかったのです……!」
絶対的な絶望を思い出し、戦乙女の隊長であるスクルドの拳からぽたぽたと血が滲むほど強く握りしめられていた。




