第304話 【過剰すぎる野宿警備と秘密の夜伽】災害級の眷属で完璧警戒! 追放王女の絶叫と隠された至福の温泉夜話!
日が傾きかけた頃、スクルドが薦めてくれた街道沿いの少し開けた小高い丘に着き、俺たちは野宿の準備を始めることにした。
もちろん、俺たちは夜になったら空間魔法で密かに城の豪華な寝室へ帰ってベッドで寝るつもりなのだが、スクルドたちには内緒だ。余計な混乱を避けるため、俺たちが中で寝る(と思わせるための)立派なテントもしっかりと設営しておいた。
「よし、野宿といえばやっぱり豪快な飯だな!」
夕食のメニューは、極上のステーキだ。巨大な魔牛の肉の中でも特にサシの入った最高級部位を、魔法で出させた特厚の鉄板でワイルドに焼き上げていく。ジューシーな肉汁と香ばしい脂の香りが周囲に充満する。傍らでは新鮮な野菜も一緒に焼き、まさにキャンプの醍醐味であるバーベキュー状態だ。やっぱり肉には白飯が欠かせないということで、大釜でふっくらと炊き上げた大麦ご飯と、深みのあるコンソメスープも添えられた。
「う、美味い……! 美味しすぎるッ! なんなのだこの肉の柔らかさは……! 噛むたびに溢れる肉汁で口の中が幸福で満たされるッ!」
「この肉は一体何ですかぁぁッ! 旨すぎます、口の中でとろけて消えちゃいます……ッ!」
案の定、スクルドとヒルドは目にも留まらぬ速さでガツガツと肉と飯を喰らい、涙目で何度もおかわりを重ねていた。絶品料理に胃袋を掴まれた二人は、もはや威厳ある戦乙女というより腹ペコの野生動物だ。
満足そうに腹を摩る二人を横目に、俺はふと思い立ったように呟いた。
「さて、夜間の安全のために焚き火の番が必要だな」
すると、隣でスープを飲んでいたエルダーリッチ(勇者)のユイが、楽しそうに微笑んだ。
「火の番なら、うちのフェンの出番ね!」
ユイが指を鳴らすと、空中に眩い火柱が立ち昇り、伝説の聖獣である不死鳥フェニックスのフェンが神々しく姿を現した。
その光景を目撃したスクルドとヒルドは、食べていた肉を喉に詰まらせそうになりながら目を見開いた。
「ええぇぇッ!? ふ、フェニックスだと……!?」
「伝説の不死鳥を、火の番のためだけに呼び出したというのですかぁぁッ!?」
二人が口をぐうの音も出ないほど開けて固まる中、ユイは可愛らしく胸を張る。
「そうよ、私の自慢の使い魔なの」
降り立ったフェンは、俺とユイに向かって恭しく首を垂れた。
「陛下、ユイ様、お呼びいただき心より感謝申し上げます。どのような命であれ、与えられたお仕事を誠心誠意、全うさせていただきます」
「よろしく頼むわね、フェン」
「ああ、朝まで焚き火の火が絶えないように見張っていてくれれば十分だよ」
「承知いたしました。完璧に維持してみせます」
「さて、あとは夜間の警備だな」
俺が言うと、すかさずキラーアントエンプレスのアンナが前に出た。
「では、我が眷属を呼び出し、周囲の警戒に当たらせましょう」
アンナが腕を掲げると、地面から影が広がり、体長数メートルを超える禍々しい巨躯を持ったキラーアントキング一匹と、その配下であるキラーアントジェネラル五匹が一瞬にして召喚された。
「ひ……ひぇえええッ!? き、キラーアントキングぅぅッ!?」
「キング種といえば、一匹だけでも国災害級! たった一匹で大都市を一つ完全に陥落させられるほどの絶望的な戦力ですぞ!? それを……それを手軽に呼び出すだなんて……っ!」
スクルドとヒルドは顔面を蒼白に染め、ガクガクと膝を震わせた。一国の軍隊すら破滅させる異形の軍勢が、目の前に勢揃いしているのだから無理もない。
「しかも……しかも、これほどの化け物たちを、ただの『夜の見張り』に使うだなんて正気ですかぁぁッ!?」
スクルドの叫びを意にも介さず、アンナは冷徹な声で命じた。
「不審者を近づけるな。頼んだよ」
「ははっ! 承知いたしました、アンナ様!」
さらに追撃とばかりに、俺は空間の歪みから悪魔ナベリウスのコボ2を召喚した。
「ひ、ひぃぃぃぃぃッ!? け、ケルベロスだぁぁッ! 3つの頭を持つ地獄の番犬が出たぁぁッ!」
ヒルドがスクルドの後ろに隠れて金切り声を上げた。俺は苦笑いしながら首を振る。
「ケルベロスじゃないよ。悪魔ナベリウスのコボ2さ。ほら、背中に立派な黒い翼があるだろう?」
コボ2は俺の前に片膝をつき、恭しく頭を下げた。
「陛下、再び御尊顔を拝し奉ることができ、この上ない光栄に存じます」
「コボ2、夜間の周囲警戒用にヘルハウンドを数匹借りたいんだが、手配できるかい?」
「勿論にございます! 偉大なる陛下の御身を守護するため、我が配下の中でも極上のヘルハウンドを厳選して召喚いたしましょう!」
コボ2が指を鳴らすと、闇の中から燃え盛る炎を纏った漆黒の巨狼——ヘルハウンドキング一匹と、ヘルハウンドジェネラル五匹が召喚された。空間を揺るがす咆哮が周囲の森に響き渡る。
「あああああッ!? ヘルハウンドの……しかもキング種までぇぇぇッ!?」
スクルドは頭を抱えて絶叫し、ヒルドは震える指で俺たちを指差した。
「い、一体これからどこを攻め落とすつもりなんですかぁぁッ!? この戦力なら王国どころか世界が滅びますよ!?」
「どこも攻めないよ。何回も言わせないでくれ、ただの見張りだよ」
俺は半目になりながら呆れて告げた。
「これだけガチガチに警備しておけば夜中にモンスターに襲われる心配もないから、君たちも安心して眠るといい。ただし、危険だから勝手に敷地の外へ出歩かないでね」
「は、はいぃぃ……絶対に出ません、出られませんッ……!」
完全に畏怖しきったスクルドとヒルドは、壊れた人形のように激しく頷いた。
これで明日の朝まで安心して城へ帰ることができるだろう。念のため、フェンには精神通信で一言伝えておく。
(フェン、もし夜中にあのヴァルキリーたちが急用で俺のテントに用がありそうだったら、すぐに知らせてくれ)
(フェン:承知いたしました、ヒロト陛下。微細な動きも見逃さず監視いたします)
すっかり意気消沈したヒルドは、焚き火の端で体育座りをしながら呆然と呟いた。
「全くもって規格外すぎます……。このままあの反逆者オーダンと戦っても、一瞬で勝ちますよ……」
スクルドも深く溜息をつきながら頷いた。
「勝つどころか……樹海帝国の気まぐれ一つで、この南の王国全体が容易く蹂躙されて崩壊してしまうだろうな……」
二人が絶望と驚愕に浸っている隙に、俺たちは「おやすみ」と言ってテントへ入った。そして、中で姿を消すと、即座に空間魔法を発動させ、樹海帝国のお城にある俺の豪華な寝室へと秘密裏に戻ったのだった。
「ふぅ……やっぱり自分の城のベッドと風呂が一番だな」
街道の泥や汗を洗い流すため、俺は服を脱ぎ捨てて全裸になり、寝室に備え付けられた巨大な大理石のお風呂に向かおうとした。
その時——空間がフワリと揺らぎ、人質ならぬ人形形態で現れた亜神ペナンガルのビーと、キラーアントエンプレスのアンナが、スッと寝室の扉を開けて入ってきた。
二人の目は怪しく光り、妖艶な笑みを浮かべている。
「ヒロト様、本日は遠征のお仕事、大変お疲れ様でした……。今夜の夜伽に参りましたわ」
「おいおいおい! 部屋に入るときはノックくらいしろよ! 俺は今まさに全裸なんだぞ!?」
突然の乱入に俺が慌てて前を隠すと、アンナは無表情のまま、どこか満足げに小首を傾げた。
「申し訳ございません。ですが、無防備なヒロト様を襲う絶好のチャンスでしたので、つい」
「狙って入ってきたんかい!」
俺がツッコミを入れる間もなく、ビーとアンナは身に着けていた衣類をサラリと脱ぎ捨て、滑らかな白い肌を露わにした。
「さあヒロト様、私たちが心を込めてお身体を綺麗に洗わせていただきますね……」
「逃がしませんよ、ヒロト様」
妖しい熱気を孕んだ二人に両腕をしっかりと絡め取られ、俺は抗う間もなく、湯気が立ち上る魅惑のお風呂場へと連行されていくのだった。




