第3話 スライムの洗車機チート!?神秘の白蛇を手甲に纏い、木上の隠密トカゲを従えて目指せ最強パーティ!
「はぁ……助かったのはいいけど、全身泥だらけだな」
巨大な魔猪からの命からがらな逃走劇。命拾いはしたものの、転んだ拍子に黒のパーカーとジーパンは泥と樹液でひどい有様だった。手でパンパンと叩いてみるが、繊維に染み込んだ頑固な汚れは一向に落ちない。
過酷なブラック企業時代、何日も同じ服を着倒していた悪夢のような記憶が蘇る。せめて清潔感くらいは保ちたいものだ。
その時、ふと思いついた。
(ねえスラオ……君の能力って『消化吸収』だったよね? この服に付いた泥汚れだけを吸収することってできるかい?)
左肩に乗っていたスラオが、ぷるんと身体を揺らした。
(よごれ……? ぬめぬめしたやつ……? ぼく、たべる! やれるー!)
(おお、本当か! じゃあ頼むよ)
俺が左腕の袖を差し出すと、スラオは嬉しそうにポヨンと跳ね、俺の腕から胸元にかけて覆いかぶさるように広がった。
モゾモゾ、モゾモゾ……。
ひんやりとしたゼリー状の感触が、服の表面を滑っていく。ちょっとくすぐったい。
すると──信じられない光景が目の前で起きた。
スラオが通過したあとの生地から、泥も、頑固な植物の汁も、一切合切が消え去っていたのだ。それどころか、長年着古して擦り切れていたパーカーの繊維まで、まるで製造直後の新品のように鮮やかな黒とパリッとした張りを叩き出している!
「うおっ!? なんだこれ!!」
ただの洗濯どころの騒ぎじゃない。これは『素材の再構成』レベルの超精密な消化分解とクリーニングだ! 服の生地そのものには一切ダメージを与えず、付着した異物だけを極限の精度で識別・吸収している。
(ヒロト! できたよー! キレイキレイになった?)
(すごい……すごすぎるよスラオ! 新品以上だよ! 君、天才か!?)
(えへへー! ぼく、ほめられたー!)
得意気にプルプルと震えるスラオを、右手で撫で回してやる。
スライムの『消化吸収』……一見ただの雑用スキルに思えるが、これ、分子レベルで物を分解・精製できるトンデモないチート能力の片鱗なんじゃないか……?
そんなスラオとのやり取りを、足元でマリンブルーの瞳を輝かせながら見つめていた白蛇がいた。
白蛇は「私にも構って」と言わんばかりに、すするりと身体を滑らせ、俺の右腕へとすり寄ってきた。ひんやりとした極上の真珠のような鱗が、肌を心地よく撫でる。
「はいはい、君も可愛かったよ」
右手で白蛇の頭を優しく撫でてやると、白蛇は実に気持ちよさそうに細い目をさらに細めた。
すると次の瞬間──白蛇の全身が淡い真珠色の光を放ち、俺の右前腕へとスルスルと巻き付いていった。
手首から肘にかけて、まるで幾重にも重なる重厚な甲冑のように美しい白銀の鱗が密着する。そして、白蛇の小さな頭部がちょうど手の甲の位置でピタリと納まり、そのマリンブルーの瞳が静かに前方に睨みを利かせた。
「な……手甲……!?」
思わず声を漏らした。
見た目はまさに、神話に登場する英雄が身につける伝説の防具──『白蛇の手甲』だ。
右手に輝く神秘的な『白蛇の手甲』。
左手には、精霊であるレイが変化した深緑の『蔦の手甲』。
そして肩には超絶クリーニング&分解能力を持つ『スライム』。
「……なんか俺、無駄に格好良くないか!?」
黒のパーカーに左右異なる異形の生体手甲。異世界主人公っぽいハッタリだけは、完璧に仕上がってきた気がする!
もっとも、この白蛇はテイム不能の超格上モンスターだ。今のところ愛嬌を振りまいているだけで、いざ戦闘になればどんな恐ろしい力を秘めているのか計り知れないのだが……可愛いから良しとしよう。
腹が「ぐぅ」と情けない音を鳴らした。
そういえば、異世界に放り出されてから何も食べていない。
かといって、先ほどのような危険な魔物を狩って肉を焼いて食べるなんて芸当は、今のひ弱な自分には到底不可能でするつもりもない。
(そこらへんの葉っぱを食べるわけにもいかないしな……毒があったら下痢どころか即死だ。やっぱり狙うなら果実か?)
胃袋の限界を感じながら、木々の梢を見上げて歩く。
しばらく散策を続けていると、頭上の大木の枝に、理想的な『何か』を見つけた。
「おお……! あったぞ!」
それは、日本の洋梨に似た瓢箪型の果実だった。
黄褐色に熟しており、大きさは十五センチほど。見るからに甘い蜜を蓄えていそうだ。
だが、その果実はかなりの高所に生っている。木登りの得意でない中学生体型の俺には、到底手が届かない高さだ。
どうやって取ろうか頭を抱えていた、その時だった。
──ガサガサッ!
「ひっ!?」
頭上で葉が揺れる音。俺が身構えると、影がひらりと舞い、洋梨状の果実をサッと咥え去った。
なんだ!?
目を凝らして木の上を凝視する。
そこにいたのは、体長二十センチほどの小さなトカゲだった。
体色は木肌に見事に同化したグレーがかった茶褐色。模様も目立った装飾もない、ごくごく普通の地味なトカゲだ。足が四本、尾が一本、金色の白目に黒い丸瞳。
トカゲは咥えた果汁たっぷりの果実を、豪快にガツガツと平らげると、じっと澄んだ瞳で俺を見下ろしてきた。
「あ……」
俺は咄嗟に右手を差し出し、祈りを込めて唱えた。
「『テイム』!!」
『──フォレストリザードのテイムに成功しました──』
脳内に通るシステムアナウンス! よし、成功だ!
(俺はヒロト。よろしくね! 名前はあるかい?)
(なまえ……ない……)
頭の中に、少しサバサバとした少年のような声が響く。
(君は女の子かな?)
(……おんなのこ。)
(よし、君の名前は『リザ』だ!)
『──個体名『リザ』の命名を確認。ネームドモンスターへと進化しました──』
リザの全身が一瞬だけ緑の光を帯び、その瞳に知的でシャープな光が宿る。
(リザ! カッコいい名前! 好き!)
(気に入ってくれてよかった! リザ、お願いがあるんだ。あの上の果実、俺のために取ってきてくれないかい?)
(果実? おやすいご用!)
リザは目にも留まらぬ素早さで樹皮を駆け上がり、尾と鋭い爪を器用に使って、熟した果実をポンポンと3つ下へと落としてくれた。
(リザ、ありがとう! バッチリだ!)
(ふふん、これくらい楽勝!)
リザが木の枝の上で得意気に胸を張る。
落としてくれた果実を拾い上げ、パーカーの裾で軽く表面の埃を拭う。意を決してガブリと噛み付いた。
「──っ!! うっま……!!」
口いっぱいに広がる、芳醇で瑞々しい果汁!
洋梨のようなシャリッとした最高の食感と、濃厚な甘みが口いっぱいに弾ける。ブラック企業の深夜残業中に食べていた冷えたコンビニ弁当とは比べるべくもない、極上の天然の味わいだ。
夢中で二つの果実を平らげ、乾ききっていた喉と胃袋が幸福感で満たされていく。
最後のひとつに取り掛かろうとした時、右腕の白蛇がチロチロと舌を出し、欲しそうに果実を見つめているのに気づいた。
「お前も食べるか?」
パーカーで丁寧に拭き、小さく千切って口元へ運んでやると、白蛇は嬉しそうにパクリと食べた。美味しいらしく、満足そうに瞳をうっとりと揺らしている。
(リザは、何か特別な攻撃や特技はあるのかい? 火を吹いたりとか……)
(とくぎ? うーんとね、木の上をすごく速く走れる! 敵の気配を早く見つける!)
(なるほど、偵察と高所からの補給が得意なんだね。すごく助かるよ!)
(任せて! 果実、いつでも取ってくる!)
これで仲間は三匹──いや、白蛇を含めれば四匹だ。
服を新品にする『スラオ』、植物を操り防具や足止めになる『レイ』、木上を駆け巡るスカウトの『リザ』、そして謎の最強威圧を誇る『白蛇』。
生活面や索敵の能力は徐々に充実してきた。
だが──問題は圧倒的な「直接戦闘力」の欠如だ。
さっきの巨体イノシシのような化け物が再び現れたら、今の俺たちに正面から撃退する術はない。
その時だ。
『リザ』が急に身を固くし、ピシッと長い尻尾を緊張で震わせた。
(ヒロト……気をつけて。あっちの深い草むらから……怪しい匂いが近づいてくる……!)
4/18 誤字修正しました。
タイトルに第○話を追加しました。
4/28 0:23 誤字修正しました。




