第296話 【港町ノガートと戦乙女】ダンジョン素材が生む至高の絶品スープ! 謎多き有翼人スクルドを追え!
何百種類もの絶品料理がずらりと並ぶ広大なビュッフェカウンターを巡りながら、俺は今日の朝食のメニューを決めた。
「よし、今朝は香ばしいパンの気分だな」
トレーに載せたのは、ジューシーなハンバーグ、サクサクのコロッケ、ふわふわの黄金たまごを挟んだ三種類の特製サンドイッチ。そこに彩り鮮やかな新鮮サラダと、甘酸っぱいフルーツヨーグルト、淹れ立てのブラックコーヒーを添えた。
隣を見ると、応龍のハクは昨日ノガートで食べたばかりのブイヤベースに、カチカチに焼き上げられたフランスパン風の硬めのパンを添えて選んでいた。
そして左手甲から顕現した世界樹の精霊王レイのトレーには、いつものように透き通った冷たい水が入ったグラスが一つだけ置かれている。
「よし、座って食べようか」
妻たちと一緒に大テーブルの指定席に着き、和気あいあいと朝食を食べ進める。
ふとハクのトレーを見ると、濃厚なスープに浸したパンが黄金色に輝いていて実に旨そうだ。昨日ブラリリが料理人魂を燃やしていたが、果たしてどこまで再現できたのだろうか。気になって仕方がない。
「ハク、そのスープをひと口だけ飲ませてくれないかい?」
「ええ、もちろん良いわよ。ヒロト、はいどうぞ」
ハクがスプーンでスープをすくい、お口へあーんと運んでくれた。その心遣いにデレつつ、スープを含んだパンを口へ運ぶ。
「んんっ!? う、美味いっ! 昨日のノガートの名店で食べたスープよりも、遥かにダシのコクと深い旨味が増しているぞ!?」
あまりの劇的な美味さに驚愕する俺に、ハクも嬉しそうに何度も頷いた。
「本当に美味しいわよね。こんなに美味しいお料理を毎日食べられるなんて、ブラリリがヒロトについてきてくれて本当によかったわ」
そこへ、エプロン姿のキラーアントエンプレス・ブラリリが、誇らしげな笑顔を浮かべて温かい紅茶を運んできてくれた。
「ふふ、ヒロト様! 今回のブイヤベースはすべて当帝国のダンジョンで採れた超高級素材で作っていますから、旨さが何倍にも跳ね上がっているのです! 魚介類もダンジョン内の極上な海で育った魔魚、魔海老、魔蟹、魔貝を使用しておりますし、煮込みに使ったオリーブオイルのオリーブに至るまで、すべてダンジョン産の最上品ですから!」
「なるほど……! 素材そのものが異次元のスペックを持っていたわけか!」
ダンジョン素材のポテンシャルの高さに感心しながら、大満足で朝食を平らげた。
食後のコーヒーを飲み終え、俺はゆっくりと立ち上がった。
「さて、リビングへ移動して寛ぐとしようか」
朝食を終えた妻たちも、楽しそうに雑談をしながらゾロゾロと俺の後をついてくる。
ふと後ろを振り返ると、霊亀のリザが、もの凄い勢いで三杯目のブイヤベースを平らげながら慌てて席を立とうとしていた。
(リザ、無理についてこなくていいんだぞ? ゆっくり食べていなよ)
俺が念話で語りかけると、リザは口の周りをナプキンでサッと拭い、真顔で答えてきた。
(お構いなく、ヒロト陛下。陛下が南の王国へ向かわれた後、おかわりでまたゆっくり食べますので)
(……まだ食べる気満々なのかいっ!?)
リザの底なしの胃袋に心の中でツッコミを入れていると、同じく食事を終えたブラリリもついてきた。
グレイアとウィーラはまだ優雅に朝食を味わっている最中だし、サクラとハーミアもアラクネの糸や水洗便所といった城の凄まじい設備の話で大盛り上がりしていたから、全員が揃うまでもう少し時間がかかりそうだ。
俺たちは先に豪華なリビングへと向かい、フカフカのソファに腰を下ろしてのんびりと待つことにした。
右隣にすかさず腰掛けたハクが、俺の顔を覗き込んで微笑む。
「ヒロト、今日も南の王国の港町ノガートへ行くのよね?」
「そうだよ。まずは街の様子を見て回りたいからね」
勇者ユイがソファの背もたれに肘をかけ、身を乗り出してきた。
「ノガートに行く一番の目的は、噂のヴァルキリーを遠目から一目見ることだものね!」
鳳凰のハピが、首をかしげて可愛らしく問いかけた。
「ヴァルキリー……? それってどんな人なの?」
「戦乙女と呼ばれている伝説の種族よ。今回見に行くスクルドっていう女性は、南の王国の元国王親衛隊隊長で、有翼人だったらしいわ。背中に神聖で真っ白な美しい翼があるんですって」
天使のアリアが自分の背中にある真っ白な翼をパタパタと揺らしながらつぶやいた。
「背中に白い翼……なんだか私たち天使みたいですね」
そこへ、朝食を終えたダークハイエルフのグレイアがリビングへ入ってきた。
「天使と似ているけれど、性質は少し違うわね。ヴァルキリーはまさに『戦う天使』よ。戦闘に極限まで特化した種族らしくて、その武威は相当なものだそうよ」
すると、グレイアの後ろからついてきていたアマゾネス王女のハーミアが、目を輝かせて熱狂的に叫んだ。
「そうなんですッ! ヴァルキリーのスクルド様は、私のような武芸を志す者にとりましてはまさに伝説! 憧れの存在なのですッ! 一度で良いからそのお姿を拝んでみたいのですッ!」
ハーミアの興奮ぶりに、ハピはふんわりとした笑顔を浮かべた。
「ほえ~っ、凄いのねぇ。戦闘特化なんて、私とは正反対だわ」
ハーミアはハピの圧倒的な美貌と神聖な気配を感じ取り、興味津々で尋ねた。
「ハピ様も神獣の鳳凰様ですから、相当なお強さなのですよね!?」
「私はねぇ~、戦うよりもみんなの前で楽しく歌を歌う方が好きなのよ~」
ほんわかとしたハピの返答に、後から入ってきた悪魔ベルフェゴルのサクラが呆れたようにくすりと笑った。
「ちょっとハピ、それでは答えになっていないでしょう? ハーミア、ハピは『歌が好き』と言っているけれど、本気で戦えば恐ろしく強い上に、超絶優秀な『間接支援特化型』なのよ。ハピの歌声は味方の全ステータスを倍以上に跳ね上げ、敵のステータスを極限まで弱体化させるの。戦場ではこの上なく頼りになる存在なのよ」
「ええぇぇッ!? ステータスを倍増させて敵を弱体化ですかぁぁッ!? そんな恐ろしい効果を歌声一つで発揮されるのですかぁぁッ!?」
案の定、ハーミアは口をぐぐっと開けて驚愕し、リビングの空気を一気に盛り上げてくれた。
そんなやり取りを楽しんでいるうちに、どうやら妻たち全員がリビングに揃ったようだ。俺はパンと手を叩いた。
「よし、全員揃ったみたいだから、そろそろノガートへ向かおうか。……スパ、ヴァルキリーのスクルドの現在の所在は分かるかい?」
影からすっと姿を現した大悪魔バエルのスパが、恭しく頭を下げた。
「はい、ヒロト陛下。あらかじめ潜ませた小蜘蛛からの情報によりますと、スクルドは現在、ノガート城館の客間に滞在しております」
「うーん……そっか。客間から外に出てきてくれないことには、遠目から姿を見ることも難しいよね」
ハクも顎に手を当てて考え込む。
「そうねぇ。城館の中に潜入するわけにもいかないし……」
その時、リビングの扉がガラリと開き、寝巻き姿で目をこすりながら吸血鬼真祖のヒナが入ってきた。
「ふぁ~あ……別にわざわざ現地まで見に行かなくても、このリビングに居ながらスパの念話映像で見ればいいんじゃないの~?」
俺は驚いて目を丸くした。
「お、ヒナ! やっと起きてきたのか。おはよう」
「んー、ヒロトおはよー……」
ヒナのアイデアを聞いたハクが、ぽんと手を叩いて賛同した。
「あら、それすごく良いアイデアじゃない! スルドが外に出てくるまで、私たちはこの快適なリビングでふかふかのソファに座って、お茶でも飲みながら気長に念話映像を見ていましょうよ!」
「はは、確かにそれが一番ラクで確実かもしれないね!」
こうして俺たちは、超高性能なスパの索敵念話映像を活用し、至高のリビングにいながら目標のヴァルキリー観察を開始するのだった。




