第292話 【異次元の妻達と激震の城】暴かれた驚愕の種族! 伝説の四霊獣と魔王級美女が集う樹海帝国へ帰還!
港町ノガートの老舗料理店で、至高の海鮮ブイヤベースに舌鼓を打っていた俺たち。
そのテーブルの片隅で、キラーアントエンプレスのアンナが、残った海老とカニの硬い殻をポリポリと満足そうに噛み砕き始めた。
「うふふ……この海老とカニの殻も香ばしくて非常に美味しいですわ」
その光景を目撃したアマゾネス王女ハーミアが、目玉を飛び出さんばかりにして叫んだ。
「ええぇぇッ!? アンナ様ッ、普通は海老とカニの殻なんて食べませんよぉぉッ!?」
アンナは首をかしげ、不思議そうに今度はアサリやムール貝の硬い貝殻を口へと運んだ。
「ふ~ん、そうなのですか? この貝の殻もカリカリとして素晴らしい歯ごたえで美味しいですけれど……」
「貝の殻も食べませんッ! 胃に穴が開いてしまいますよぁぁッ!?」
ハーミアが必死の形相でツッコミを入れる中、俺は苦笑いを浮かべてなだめた。
「まあまあハーミア、いいじゃないか。食事の好みなんて人それぞれだよ」
「人は殻を食べられませんッ! 人間以前の常識の問題ですッ!」
アンナは優雅にフフッと微笑むと、今度は魚の太い背骨を丸ごと口に放り込んだ。
「私は人間ではなくキラーアントですから大丈夫ですわ。この魚の骨もカルシウムがたっぷりで美味しいですのに」
「普通は骨も食べませんよ……うぅ、私の常識がどんどん破壊されていく……」
ハーミアは心底疲れ切ったように、ハァと深い溜息をついて肩を落とした。
その横で、スープを最後の一滴まで飲み干した勇者ユイが、お腹をさすりながら満面の笑みを浮かべた。
「ふぅ~っ! お腹いっぱい! 本当に最高の夕飯だったわ!」
すると突然、料理の腕前に感服していたブラリリが、ピクッと眉を動かした。応龍のハクから直接念話が入ったようだ。
(ブラリリ……今度、そのノガートの海鮮ブイヤベースっていう料理を、城の食堂で私にも作りなさいよ~? 念話越しに聞いていたらお腹が減ってたまらないわ……!)
ハクはどうやら念話を通してリアルタイムでこちらの一挙一動をチェックしていたらしい。
「あはは、ハクもしっかり聞き耳を立てていたか。よし、美味しいご飯も食べたことだし、城へ帰って寝るとするか!」
俺たちは店を出ると、夜の静けさに包まれた人気の少ない裏路地へと移動した。
周囲に一般人がいないことを、俺は広域の魔力検知を広げてしっかりと確認する。
(あ、そうだ……スパ、明日またこの街に戻ってくるときのために、人が誰もいない場所に転移できるよう小蜘蛛を展開しておいてくれるかい?)
俺が念話で呼びかけると、大悪魔バエルのスパから即座に、冷徹かつ完璧な応答が返ってきた。
(すでに街の主要な路地裏や影の中に、私の小蜘蛛を展開済みでございます。明日いつでも安全に転移可能ですので、何の心配もございません、ヒロト陛下)
(おお、流石はスパ! 仕事が早くて助かるよ、ありがとう!)
俺は満足そうに頷くと、仲間たちに向かって手を挙げた。
「よし、みんな転移するよ~」
亜神バアルゼブルたるスラオの『転移』が発動し、視界が一瞬で闇に包まれる。
次の瞬間、俺たちは樹海帝国にある城の絢爛豪華なリビングへと帰還していた。
「ヒロト~! お帰りなさ~いッ!」
転移の光が収まるやいなや、飛び込んできた応龍のハクが俺の右腕に抱きついてきた。
さらに左側からは、眩い光とともに左手甲から現れた世界樹の精霊王レイが、自然な動作で左腕に抱きついてくる。
右にハク、左にレイという、いつもの極上かつ甘やかな固定体勢の完成だ。
一方で、鳳凰のハピは素早い動きでブラリリの背後へと回り込み、ガシッとその両肩を捕獲した。
「ブラリリ、今すぐ夕飯の絶品海鮮スープを再現してねー」
「ひ、はいッ!? ハピ様、ただいま準備いたしますッ!」
そのワチャワチャとした光景を微笑ましく見つめていた吸血鬼真祖のヒナが、妖艶な笑みを浮かべてハーミアの前へと歩み出た。
「貴方が新しい仲間のハーミアね? 私はヒロトの妻の一人、吸血鬼真祖のヒナよ。よろしくねー」
「は、はいッ……! 吸血鬼の真祖様……!?」
ハーミアはリビングに勢揃いしている圧倒的な美貌と気品を備えた女性たちを見渡し、目を白黒させて固まっていた。
そこへ、ヒロトの妻たちが次々と挨拶を交わしていく。もちろん、全員が優美な人化形態だ。
「私が応龍で、ヒロトの皇后を務めているハクよ」
「霊亀、后妃のリザ。よろしく頼む」
「鳳凰のハピだよ~! よろしくねっ!」
「麒麟のコボミと申します。お見知りおきを」
「凄腕の魔女サクラよ。困ったことがあれば言いなさい」
「天使のアリアです。ようこそ樹海帝国へ」
「不死王のルシーですわ。仲良くしましょうね」
「大悪魔バエルのスパです」
妻たちが一通り挨拶を終えたところで、俺はハーミアの肩を軽く叩いた。
「ここまでが俺の妻たちだよ」
その言葉を聞いた瞬間、ハーミアのキャパシティは完全に限界を迎えた。驚愕のあまり膝をがくがくと震わせ、絶叫のような悲鳴を上げる。
「ええぇぇぇッ!? 左手に宿るレイ様が精霊王様というだけで驚き死にそうでしたのに……四霊獣の応龍様! 霊亀様! 鳳凰様! 麒麟様ッ!? さらに真祖! 魔女! 天使! 不死王! 大悪魔ってどうなっているのですかぁぁッ!?」
ヒナがクスリと可憐に笑いながら、首を傾げた。
「どうもなってないわよ。みんなヒロトを心から愛している、ただの妻ってだけよ」
「はぁぁ~……世界が違いすぎます……」
皇帝ヒロトの妻たちは、種族の名前を聞いただけでも神話の領域であり、全大陸を滅ぼしかねない規格外の存在ばかりだ。さらにその肌で感じる圧倒的な威圧感と佇まいは、格の違いをひしひしと全身に分からせてくる。
(このお方たちを絶対におこらせてはいけない……絶対にだッ……!)
ハーミアは心の中で血の涙を流しながら、固い決意を誓うのだった。
「さて、あとはブラリリの妹たちで、優秀なメイドのブラルルとブラロロだ」
「ブラルルです。ハーミア様、どうぞよろしくお願いいたします」
「ブラロロです。何かご用があればお申し付けください」
「そして、この城のすべてを取り仕切っている執事のアスタロトだ」
紳士的に一礼したアスタロトが、深みのある声で挨拶した。
「アスタロトでございます。ハーミア様、我が城でのご滞在が快適なものとなりますよう、心よりお仕えさせていただきます」
「は、はいッ! よろしくお願いいたしますッ!」
凄まじすぎるメンツに囲まれ、ハーミアの激動の一日はこうして幕を閉じるのだった。




