第290話 【無敵の隠密と王国の関所越え】一瞬で突破する常識外れの秘術! 絶品海鮮グルメを求めて港町ノガートへ!
馬車の中で目を丸くしているアマゾネス王女ハーミアへ向け、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「こんな感じだよ」
俺は左手甲に宿る精霊王レイの力を借り、一瞬で『認識阻害』のスキルを発動させた。
「ええぇッ!?」
ハーミアは思わず椅子から跳び上がり、目の前を両手でバタバタと仰ぐように素振りした。
「は、陛下!? どこへ行かれたのですか!? 気配も、音も、存在そのものが完全に消え去りましたよ!?」
俺は認識阻害のスキルを解除し、元の姿を現して見せた。
「どう? これなら関所の兵士に見つかる心配なんて一切ないだろ?」
「はぁぁ……凄すぎます……! なるほど、これならどんな厳重な警備も意味を成しませんね。……ですが陛下、あの豪華で目立つ馬車はどうされるのですか?」
ハーミアの疑問に、隣に座っていたダークハイエルフのグレイアが、優雅に髪をかき上げながら当然のように応じた。
「馬車なら、ヒロトが飛び立つ直前に私が影の空間へ仕舞っておくわ。召喚された後にまた出せば済む話だしね」
「はぁぁ……私の常識では到底考えられません……ッ! 空間に収納するなんて、伝説の魔法使いでもそう易々とはできませんよ……」
ハーミアは頭を抱え、自身の常識が音を立てて崩れ去るのに圧倒されていた。俺は苦笑いしながら尋ねた。
「ちなみにハーミアは、最初どんな作戦を考えていたんだい?」
「は、はい! 私はてっきり、身分を偽って普通の旅人として関所を堂々と通過するものと思っておりました。あの関所は入国税さえしっかり払えば、旅人の細かい素性まで詮索されることは滅多にありませんので」
「でも、それだと入国の台帳に記録が残っちゃうだろ?」
「そうですね……しかし、名前や偽造した通行証を使えば問題ないと考えておりました」
「ふむ、それでも悪くはないけどね。でも今回はできる限り足取りを隠したいんだ。記録一つ残らない方が後々都合が良いからね」
そう言い切ると、俺は馬車のドアを開けて外へと足を踏み出した。
「じゃあ、一足先に行ってくるよ」
神眼アイの『飛翔』を発動させ、ふわりと身体を宙に浮かせる。同時にレイの『認識阻害』と、亜神バアルゼブルたるスラオの『隠蔽』を重複して展開!
重なった至高の隠蔽スキルの前には、世界のあらゆる探知魔法すら意味をなさない。ハーミアの視界からは、俺が空へと消え去ったように見えたはずだ。
一瞬にして上空何千メートルへと舞い上がった俺は、雲を切り裂きながら目的地の関所へと向かって急降下した。
眼下に広がったのは、巨大な二つの山に挟まれた険しい谷間に佇む、圧巻の要塞都市だった。
まさに中世ヨーロッパの城郭を思わせる重厚な石造りの城壁が、山肌に沿って果てしなく伸びている。その広大な城塞の遥か南の奥には、太陽の光を浴びてキラキラと輝く水平線——雄大な海が見えた。
(あそこが目的の港町ノガートか……!)
上空から城塞をじっくりと見下ろす。分厚い石造りの城壁に囲まれた巨大な門の前には、入国を待つ商人たちの馬車や旅人の長い行列が蛇のように伸びていた。あの行列に並んでいたら、通過するだけで丸一日かかってしまいそうだ。
俺は誰にも気づかれることなく、悠々と城壁の上空を飛び越えて南の国の領域へと侵入した。
城壁の内側に入り、街道から少し外れた人気のなさそうな木立の陰へと静降下する。
周囲に誰もいないことを確認し、認識阻害と隠蔽のスキルを解除した。
(グレイア、これからみんなを召喚するから準備をしておいてくれ)
念話で語りかけると、即座にグレイアからの艶やかな声が脳内に響いた。
(準備はバッチリよ、ヒロト! 馬車も綺麗に影の空間へ収めたわ)
(助かるよ、ありがとう。じゃあみんなを呼ぶね)
(ええ、お願い!)
俺は眷属召喚の術を発動! まばゆい光の柱が立ち上り、一瞬にしてユイ、ウィーラ、グレイア、ブラリリ、そしてハーミアたちの姿が目の前に現れた。
影の空間から無事に取り出された豪華な馬車も、完璧な状態で佇んでいる。
「わあぁっ! あのお城、すっごく綺麗だわ! まるで中世ヨーロッパの古城みたいね!」
召喚された瞬間に周囲を見回した勇者ユイが、目を輝かせて歓声を上げた。
「そうだね、かなり趣のある良い景色だ」
ハーミアが関所の奥にそびえ立つ美しい城を指差し、誇らしげに教えてくれた。
「あの城が、このノガート領を治める領主の城館でございます」
「へぇーっ! お城の近くに行って見てみたいわね!」
「まずは長旅の疲れを癒やすために、宿屋でも探そうか。ハーミア、おすすめの良い宿屋は知っているかい?」
俺が尋ねると、ハーミアは少し気まずそうに申し訳なさそうな顔で俯いてしまった。
「知っている高級宿はあるにはあるのですが……私が行けばアマゾネス国王家の者だとすぐに露見してしまい、大騒ぎになってしまいます。ですので、私の知る宿へ行くのはやめた方が良いかと……」
それを聞いた龍脈の魔女ウィーラが、呆れたように小さく肩をすくめた。
「まったく……相変わらず使えない奴じゃのぅ」
「えぇぇっ!? そ、そんなぁぁッ! すみません、お役に立てず申し訳ありませんんんッ!」
あまりの容赦ない一言に、ハーミアはがっくりと膝をついて意気消沈してしまった。俺は慌てて苦笑いを浮かべながらフォローを入れた。
「まあまあウィーラ、そう責めるなよ。街中に出て、自分たちで手頃な宿を探しに行こうか」
すると、後ろで髪を整えていたグレイアが、名案と思い立ったように手をポンと叩いた。
「ねえヒロト、わざわざこんな場所で怪しい宿を探さなくても、寝る時は転移で樹海のメインの城に戻ればいいんじゃないかしら?」
「あ、それいいわね! 樹海のお城のフカフカのベッドの方が絶対に快適だもの!」
ユイも満面の笑みで賛同する。
「ちょっと待って! 折角ここまで来たんだから、ご飯くらいはこちらの街で食べたいわ!」
ブラリリが食い気味に主張すると、ウィーラもニヤリと不敵な笑みを浮かべて同意した。
「うむ! このノガートは海が近いゆえ、海鮮料理が絶品だと聞くからのぅ! 美味い魚と酒を喰らわねば損じゃ!」
グレイアが楽しそうにパンと手を叩いて打ち切った。
「決まりね! 食事はこの街の美味しいお店で楽しんで、寝るのは樹海のお城に決定!」
(おーい、俺の意見を聞く前にもう完全に決定しちゃったぞ……)
俺が苦笑いしていると、まだ落ち込んでいたハーミアが恐る恐る顔を上げた。
「うう……皆さん、本当にお役に立てず申し訳ありません……」
ブラリリがハーミアの肩を優しく叩き、ニッコリと微笑みかけた。
「気にしないでいいですよ! その代わり、この街で一番美味しい海鮮料理のお店を教えてくれればそれで十分ですからね!」
ハーミアの瞳が一瞬でパッと輝き、力強く胸を叩いた。
「はいッ! 任せてください! とびきり美味しい名店へご案内いたしますッ!」
こうして、関所を完全スルーした俺たちは、絶品グルメを求めて賑やかな港町ノガートの市街地へと足を踏み出すのだった。




