第286話 【神速の領域と覇王の慈光】圧倒されるアマゾネス王女! 爆発する眷属たちの忠誠心と至高の模擬戦!
精霊王レイの手から放たれた神聖なエメラルドグリーンの光が、激痛に悶えるハーミアの全身を柔らかく包み込んでいく。
その瞬間、胸と背中を襲っていた骨が砕けるかのような激痛が、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗さっぱり消え去った。内臓の損傷も、口端から流れる血も、瞬く間に完全に治癒されていく。
「えっ……!? 痛みが……傷が跡形もなく消えている……!? 嘘でしょう……ッ!?」
ハーミアは驚愕のあまり目を丸くし、自分の胸や身体をペタペタと触りながら周囲をぐるりと見渡した。
そんなハーミアへ向かい、腰の刀をシャキンと滑らかに鞘へと収めながら、ライカがフッと笑いかけた。
「ふふ、レイ様の奇跡の回復魔法よ。ごめんなさいね、あのお優しいレイ様が控えていらっしゃったから、手加減なしで遠慮なく叩き込ませてもらったわ」
「なっ……! あ、あの瞬間にそこまで計算して……っ!?」
あまりの次元の違いに戦慄したハーミアだったが、ハッと我に返ると、俺の左隣に佇むレイの前へと脱兎のごとく駆け寄った。
「レ、レイ様っ! 命を救っていただき、本当にありがとうございましたッ! 精霊王様の慈愛の深さに心より感謝いたしますッ!」
「ふふ、構いませんよ。体を大切になさいね」
レイが優しく微笑む横で、俺はライカに向かって声をかけた。
「ライカ、かなり腕を上げたな。見事な居合だったよ」
「ヒロト陛下……ッ!!」
俺に褒められた瞬間、ライカの大きな瞳がぱっと輝いた。嬉しさのあまり耳をピコピコと動かし、尻尾をぶんぶんとちぎれんばかりに激しく振りながら俺の前へと駆け寄ってくる。
ライカは両手を胸の前でキュッと組み、潤んだ瞳で俺をじーっと熱烈に見つめてきた。
(う、うわぁ……! めちゃくちゃ距離が近いし、ものすごい圧で見てくるな……ちょっと照れるぞ……)
ライカの熱視線に耐えかねた俺は、照れ隠しに隣に立つ巨大な漆黒の武者へと話題を振った。
「オニバル、師匠の目から見て今のライカの動きはどうだった?」
オニバル将軍は重厚な兜をゆっくりと頷かせ、地鳴りのような重低音を響かせた。
「……ライカの動きは文句なしでございます。日々の地獄の訓練の成果が見事に出ておりますな。相手の最速の突きを最小限の動きで躱し、そのまま横から叩き据えた。カウンター気味に入ったため相当な衝撃だったはずです。もし真剣で斬っていれば、相手は上下真っ二つに両断されていたでしょう。さらに念を入れた背中への袈裟斬りも隙がありません。斬った後も油断なく構えを崩さなかった点も評価できますな」
師匠からの大絶賛に、ライカは照れくさそうに頬を染めた。
「えへへ……それほどでも〜っ!」
「まあ、ベタ褒めだねぇ。ライカ、さらに上の領域に行くなら、相手の攻撃を躱しながら斬る……というより、むしろ『斬りながら躱す』くらいの感覚で体捌きができるようになると、もっと良くなるよ」
俺の助言を聞いた瞬間、ライカの表情が引き締まり、深く感服したように頭を下げた。
「あぁっ……! 攻撃と回避の一体化……! 至高のアドバイス、真にありがとうございますッ! 精進いたしますッ!」
「さて……ハーミアの動きはどうだった?」
俺が尋ねると、オニバルは腕組みをして厳しく告げた。
「踏み込みの気迫自体はなかなか良いですが……工夫が全く足りませんな。我が師の眷属になっている割には、スピードも精度も圧倒的に不足しております」
「ええぇぇッ!?」
その言葉に、ライカが飛び上がるようにして激しく反応した。
「ハ、ハーミア殿も陛下の眷属なのですかぁぁッ!? ず、ズルいですッ! 私がヒロト陛下の眷属にしていただくまでに、どれほど過酷な試練と時間がかかったかぁぁッ! 羨ましがる者がどれほどいるかお分かりですかッ!? オニバル様の弟子たちは全員、陛下の眷属になりたくて毎日必死なんですよッ!?」
(あー……そういえばオニバルの弟子って、オークやら獣人やらものすごい数がいるんだよなぁ……)
正直、俺の眷属はすでに多すぎて、誰を眷属にしていて誰をまだにしていないのか、自分でも全員は把握しきれていない。今のところ人数の制限はないみたいだけど、一人ずつ眷属化の儀式をするのも一苦労だ。
俺は少し考えてから、ライカに告げた。
「よし、オニバルの弟子たちには、今後の戦いや任務で目覚ましい活躍があった時の『最高の報酬』として、順次俺の眷属にしてあげると伝えておいてくれ。みんなに頑張るように言って引き締めてくれよ」
その言葉を聞いたライカの目が、カッと怪しく光り輝いた。
「かしこまりましたッ! そのお言葉をお伝えすれば、弟子たちの目の色が変わり、地獄の猛者どもが狂喜乱舞すること間違いなしですッ!」
(そ、そうか……なんだかちょっとどころじゃないくらい怖いことになりそうだな……)
気を取り直した俺は、手を叩いて次の模擬戦を促した。
「よしっ、次はアンナとライゴーだ! ハーミア、しっかり見ておくんだぞ。強者同士の戦いを見るのも良い経験になるからね」
ハーミアはゴクリと生唾を呑み込み、必死に頷いた。
「は、はいっ! 拝見させていただきますッ!」
「「ハッ!!」」
アンナとライゴーが広場の中央へと進み出で、向かい合った。
次の瞬間——ドォンッ!!
爆音とともに二人の姿が消失した。
異次元の超神速による攻防の応酬!
ライゴーが雷光のような一閃でアンナの胴体を薙ぎ払うが、切断されたアンナの身体は一瞬で歪み、漆黒の『影』となって消え去る。本物のアンナはすでにライゴーの頭上に位置し、自身の腕の外骨格を硬化させて鋭い爪撃を叩きつける!
ライゴーは間一髪で刀の身で爪を受け流し、火花を散らしながら地を滑るように距離を取る。
ライゴーの戦術は基本、ギリギリまで引きつけてから躱して斬るスタイルだ。しかし、斬られる直前まで寸動ひとつ見せずに微動だにしないため、傍から見ているハーミアには、まるでライゴーが何度も切り刻まれているように見えているらしい。
「ひやあぁぁぁッ!? あ、アンナ様が斬られた!? と思ったら消えたぁぁッ!? らい、ライゴー様も首が飛んだように見えたのに生きてるぅぅッ! なに、何が起きているのですかぁぁっ!?」
ハーミアは目を極限まで見開き、髪を振り乱して頭を抱えているどころか、二人の動きがあまりにも速すぎて残像しか見えず、ハーミアの視認能力では完全に置き去りにされていた。
彼女はただただ、口を大きく開けて言葉を失い、次元の違う超絶技巧に見とれることしかできない。
場に生じる風圧だけで周囲の樹木が激しく揺れる中、俺はタイミングを見計らって声を張り上げた。
「そこまで! やめっ! それくらいで十分だろう。ライゴーも素晴らしい腕前だな」
「ッ! 恐れ入ります、ヒロト陛下……! しかし、まさかアンナ様がこれほどとは……っ」
荒い息を吐きながら刀を収めたライゴーに対し、アンナは忍び装束を整えながらフッと不敵に微笑んだ。
「ふふ、私はこう見えても最高峰の『エンペラー種』だからねぇ。そのエンペラー種である私とここまで純粋な剣技だけで打ち合えるなんて、大したものですよ」
「いやいや……アンナ様は恐ろしい邪気も膨大な魔力も一切放出せず、キラーアントエンプレスとしての固有スキルも何ひとつ使わずに、素の剣術だけで付き合ってくださいました。これくらいの立ち回りができなければ、ヒロト陛下の直弟子として面目が立ちませんから」
ライゴーは謙遜しながらも、晴れやかな表情で深々と頭を下げるのだった。




