第20話 酒場の悪質冒険者を静寂の雷撃で成敗!過激な眷属たちと挑む、初めての異世界宿屋の夜!!
「よし、一旦村の手前で馬車を止めましょうか」
俺の言葉で、御者台のアリアが手綱を引いた。
馬車が静かに停車すると、俺は膝の上で丸くなっていた雷獣ライゾウの頭を優しく撫でた。
「アキートさん、この子を一緒に村へ連れて入っても問題ないですかね?」
アキートはライゾウの姿をじっくりと観察し、うーむと首をひねった。
「う〜む……大きさ自体は小型犬程度ですので問題ありませんが……脚が6本もある神秘的な獣など、私は生まれてこの方見たことがありませんよ。間違いなく村中の注目を集めて目立ってしまうでしょうね」
「そうか……そりゃそうですよね。よし、ライゾウ、一回拠点に戻って休んでてくれ。後でまた呼ぶかもしれないからさ」
(ちぇっ、しょうがないなー。ヒロト、呼んだらすぐ出してくれよな!)
ライゾウは念話で不満げに鼻を鳴らすと、光の粒子となって拠点へと静かに送還された。
さて、村に入る前にもう一つやっておくべき大切な準備がある。着替えだ。
俺はアキートから買い取ったばかりの「村人用の服」と「上質な革の鎧」を馬車内で広げた。
もちろん、下着も異世界仕様の新品へとしっかりと交換する。前世から着ていた日本のパーカーとジーンズは綺麗に畳み、ハクの『異次元空間』へと大切に格納した。
身なりを整え、手甲に化けたハクとレイを両腕に纏い、スラオを革の鎧の裏地に忍ばせ、スパとアイを手甲の装飾として鎮座させる。
鏡はないが、革の鎧をピシッと着こなした自分の姿は、どこからどう見ても「凄腕の若き魔物使い」そのものだ。
◇
夕暮れ時、橙色の陽光が落ちる直前、馬車は目的地の『ガル村』へと到着した。
村の周囲は、魔物の侵入を防ぐための無骨な丸太の柵でぐるりと囲まれている。
内部を見渡すと、ほとんどが素朴な木造平屋の家々であり、その周りには青々とした田畑が広がっていた。村の入り口付近にだけ、数軒の建物が密集しているようだ。
村の堅牢な大門には、槍を手にしたガッシリとした体格の若い門番の男二人が、革の鎧を纏って警戒にあたっていた。
アキート、アリア、レイクの三人が御者台から降り、門番たちへ事情を説明する。
しばらくするとアキートが振り返り、俺へ向けて「ヒロト様、こちらへ」と手招きした。
俺は馬車から降り、門番たちの前へと進み出る。
「今説明した通り、助けていただいたヒロト様です」
アキートの説明に門番の一人が俺の全身を品定めするように見つめた後、ニッと気さくな笑みを浮かべた。
「俺はモンバーだ。アキートさんたちから事情は聞いたよ。ゴブリンの群れから彼らを救ってくれたそうだな。歓迎するよ、村へ入ってくれ!」
「ありがとうございます」
モンバーに丁寧に挨拶を返し、俺たちは大門をくぐって村の中へと足を踏み入れた。
「ヒロトさん、今日はもう陽が落ちますから宿に行きましょう。一緒についてきてください」
アキートの案内で、俺たちは村の奥にある宿屋へと向かった。
馬車と馬を宿屋裏の馬小屋へ預け、母屋の中に入る。
その宿屋は、小さな村には珍しい立派な木造二階建ての建物だった。一階は広々とした食堂兼酒場兼フロントになっており、二階が宿泊客用の客室になっているようだ。
薄暗い酒場の中には、既に何組かの先客がおり、木製のジョッキを傾けて賑やかに酒を飲んでいた。
アキートがフロントでチェックイン手続きを行っている間、俺とアリア、レイクの三人は、酒場の隅にある空いている四人がけの丸テーブルへと腰を下ろした。
間もなくして、部屋の鍵を手にしたアキートが笑顔で戻ってきた。各自へ鍵が手渡される。
「部屋は一人一部屋確保できましたよ。……さて、長旅でお腹も空いたでしょう。今夜の食事は私の奢りです! 存分に食べてください!」
「本当ですか!? ありがとうございます、ご馳走になります!」
アキートがカウンターへ向かい、四人分の焼きたて肉料理とキンキンに冷えた酒を注文してくれた。
運ばれてきた料理は実に香ばしく、俺たちは異世界の宴を満喫しながら楽しく歓談した。
──だが、楽しい時間が終わりに近づき、皿の料理が少なくなってきた、その時だった。
バコンッ!!!!
宿屋の頑丈な木製扉が粗暴な音を立てて勢いよく開き、酒気帯びの男四人が乱暴になだれ込んできた。
「ガハハハハ! おいオヤジ! 最高の酒と肉を今すぐ持ってこい!!」
店内へ響き渡る下品な大声。明らかに相当酒が回っているようだ。
すると、四人のうちの一人──顔を真っ赤に腫らした下劣な笑みを浮かべる男が、俺たちのテーブルに目をつけると、下品な足取りでぬうっと近寄ってきた。
「おやぁ……? こんな田舎のクソ宿に、たまらんイイ女がいるじゃねえか。おいねえちゃん、俺たちの席に来て酌をしな」
そう言って、男はアリアの細い腕を強引に掴み、連れ去ろうと力を込めた。
(はぁぁぁ……出たよ。異世界酒場お約束の『ならず者絡まれテンプレ』だ……)
俺が呆れ半分で吐息を漏らすと、アリアは一切怯むことなく、毅然とした冷たい眼差しで男を睨みつけた。
「お断りします」
アリアはキッパリと言い放ち、掴まれた腕を鋭く振り払った!
「な、なんだとぉ!? このアマ、俺たちが誰か分かって断ってんのか!?」
腕を払われた男は角を立てて激昂し、殺気混じりの威圧感を撒き散らし始めた。後ろの仲間たちも「ひヒッ、あの女生意気だぜ」とニヤニヤ笑っている。
「知りませんね」
アリアが吐き捨てるように言うと、男は胸を大きく張って己の威光を誇示するように叫んだ。
「俺様は『Cランク冒険者』のアギト様だ!! 村長の情けない依頼で、わざわざガリアの町からこんなクソ田舎までゴブリン退治に来てやってんだぞ! 俺様を不機嫌にさせたら、このまま町へ帰ってもいいんだぜ!?」
(うわぁ……最高に最低な野郎だな。冒険者の面汚しもいいところだろ)
胸糞悪いアギトの態度に、俺は机の下で静かに意識を集中させた。
(ライゾウ……出番だ。テーブルの下に無音で召喚する。あの威張り腐ってる男の足元に、極小の『麻痺雷撃』を打ち込んでくれ)
(任せろヒロト! あの下品な奴、おしおきだ!)
俺はテーブルの影でこっそり【眷属召喚】を発動。
足元に現れたライゾウは、目にも留まらぬ速さでアギトの脛へ無音の超微弱電流を叩き込んだ!
バチッ……!
「どうぞ、お好きなように今すぐお帰りください」
「な、何だとこの──ぐへっ!?」
アリアの冷ややかな返答と同時に、アギトは足元から全身を襲った謎の激痛と麻痺により、白目を剥いて倒れかけた!
ライゾウは仕事を終えるや否や、即座に拠点へと自力で送還。
「おっと! 大丈夫ですか!?」
俺は素早く席を立ち、白目を剥いて崩れ落ちるアギトの身体を絶妙なタイミングでガシッと抱きかかえた。
そして何事もなかったかのように微笑みを浮かべ、固まっている取り巻きの冒険者たちの元へアギトを引きずっていった。
「すいません、この方、相当お酒が回って酔っ払っておられるみたいですね。身体が限界みたいなので、部屋で休ませてあげた方がいいですよ?」
「あ……ああ……? え……?」
仲間の冒険者たちは、さっきまで威勢の良かったリーダーの突然の昏倒に訳が分からず、完全なパニック状態に陥っていた。
だが、俺の底知れない笑みと、周囲の客たちの冷ややかな視線に不気味さを感じ取ったのか、言葉もなくアギトを担ぎ上げると、ほうほうの体で宿屋から逃げ出していった。
席に戻ると、アリアが頬を仄かに赤く染め、輝くような瞳で俺を熱っぽく見つめていた。
「ヒロトさん……! 助けていただき、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、変な奴に絡まれて災難でしたね」
俺は席に着くと、木ジョッキに残っていた酒を一気に飲み干した。
「ふぅ……美味しかった! それじゃ、そろそろ部屋へ戻って寝ましょうか」
「そうですね。今夜はお開きにしましょう」
アキートが迅速にカウンターで会計を済ませてくれ、俺たちは二階の客室へと上がっていった。
自分の部屋に入り、扉の鍵をカチャリと閉める。
「ふぅ……あのCランク冒険者、マジで最低の男だったな」
右腕の手甲からスルリと抜け出した次元白蛇のハクが、不機嫌そうに舌をチロチロと覗かせた。
(本当ですわ! あのような女性の敵、私が一瞬で首を噛み切って殺して差し上げればよかったですのに!)
「うへぇ……ハクさん、過激すぎるって! あんな場所で派手に手を出したら、後々村から追い出されたりして面倒なことになるだろ?」
(ふんっ……人間の世界というのは、いちいち回りくどくて面倒臭いですわね)
「まあ、それが人間の社会だからねぇ」
俺は苦笑しながら、左腕の手甲に鎮座しているアイへ視線を送った。
「アイ、『魔力探知』で夜間の警戒をお願いできるか?」
(はいっ! ヒロトの睡眠、バッチリ守る!)
続いて、その隣にいるスパにも声をかける。
「スパ、小蜘蛛たちを宿の周りと、さっきのバカ冒険者たちの滞在先、それと村の外周に撒いて警戒網を張ってくれ」
「承知いたしました。網は完璧に張り巡らせます」
「よし……頼もしい眷属たちに感謝だな。それじゃ、おやすみ!」
ふかふかのベッドに飛び込み、俺は異世界での初めての夜、心地よい眠りへと落ちていくのだった──!
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