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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第十一章 反逆編

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第221話 贖罪

 旧ラスカ王国の王都ミランドラ。ミレーヌがこの街に無血入城を果たしてから、四日後に、ゲオルクが騎馬兵を連れて入城した。彼は、愛馬の首を軽く叩いて労うと、土埃と硝煙の匂いが染み付いた軍服のまま、王宮の執務室へと大股で足を踏み入れた。黒檀の机の奥にはミレーヌが座り、傍らではジャックが静かに控えている。


「遅かったわね、ゲオルク」


 ミレーヌは、感情を削ぎ落とした静謐な瞳を彼へ向けた。


「これでも急いできたんだぜ。なにせ、大陸の北の端から駆けつけてきたんだからな」


 ゲオルクは気安く笑いながら、促されるまま客用のソファーに長い脚を投げ出した。

 ミレーヌが彼に命じていたのは、北方の巨大な防衛国家、ギルディン都市連邦の攻略である。ゲオルクは、用意された冷たい水で渇きを癒やすと、これまでの経緯を語り始めた。

 主力である二十五万の連邦軍を撃破した後、各都市に降伏を勧告。抵抗する街は力攻めや計略を用いて順調に陥落させていったという。百にも及ぶ都市国家の寄り合い所帯は、彼の圧倒的な武力の前に次々と軍門に降っていった。


「それで? ギルディン都市連邦は完全に攻略したのね?」

「いや、残り二都市となったところで、アルノーが反旗を翻したって報せが入ったんだ。だから、アーレンとレジスにそれぞれ四万ずつの兵を預けて残りの攻略を任せ、俺は一万だけを率いて、こっちの鎮圧に駆けつけたってわけだけど、俺が来る前に終わったから見せ場が無かったな」


 その言葉を聞いた瞬間、ジャックが呆れたように眉をひそめた。ミレーヌはペンを静かに置き、冷徹な光を湛えた眼差しでゲオルクを射抜く。


「それって、明確な命令違反じゃないの?」


 ミレーヌの指示は「ギルディン都市連邦の攻略」である。それを完了する前に戦線を離脱するなど、軍の規律を重んじるならば重罪に問われてもおかしくない。だが、ゲオルクは豪胆な笑みを崩さなかった。


「い、いや違うね。命令には攻略以外は禁じられてない。それに、ギルディン都市連邦の攻略を無事完了した……と思うぜ」

「思うね……」


 呆れを含んだようにスッと目を細めたミレーヌだったが、珍しく口元を微かに綻ばせ、それ以上彼を咎めようとはしなかった。


「まあいいわ」

「それで、アルノーはどうなった?」


 ゲオルクが尋ねると、ジャックが苦々しい顔で首を横に振った。


「まだ捕まえていない。城の裏口から抜け出し、少数で東へ向かった形跡はあるが、足取りが掴めておらん」

「このまま逃げられるのは困るわね。あの男の才覚を、メーラ天帝国に利用されると非常に厄介よ。こちらで確実に処分しないと」


 ミレーヌの言葉に、二人の大将は無言で頷いた。


「ところで、ゲオルク」


 ミレーヌは、静かに話題を変えた。


「ズタリア王朝の王、ラファエロはどうなったの?」


 アルノーに恫喝され、十五万の兵と国を明け渡すことを余儀なくされた悲運の王。アルノーが本軍を動かした隙を突き、ゲオルクは騎兵のみでズタリアの王都を強襲したはずだ。ゲオルクは少しだけ表情を曇らせた。


「王都の城に捕らえられていたのを助け出したんだが……次の日、自ら命を絶った。首を吊っていたよ」


 その言葉に、室内に重苦しい沈黙が降りた。ラファエロ王は、民の命を救うために苦渋の決断でアルノーに降伏した。しかし、結果として自国の兵は盾として使い潰され、十万以上がアラスエ川の露と消えた。己の決断が招いた凄惨な結果に、彼の精神は耐えきれなかったのだろう。


「そう……悪いことしたわね」


 ミレーヌの口から漏れたのは、ただそれだけの短い感想だった。その声に感情の揺らぎはない。


「ミレーヌ様。ズタリア王朝の統治はどうされますか?」


 ジャックが今後の行政について尋ねる。


「王都で保護している皇太子イレネオに王位を承継させる手もあるけれど、まだ幼すぎる。とりあえず当面は直接統治するわ。今回は王を人質にされて利用されただけだから、出征したズタリアの将兵の責任は一切問わないことにするわ」


(寛大な処置……いや、これはミレーヌなりの筋の通し方か)


 ミレーヌとジャックのやり取りを聞きながら、ゲオルクは思った。隷属を誓った国を自国の内乱に巻き込み、結果として守れなかったズタリア王朝への、宗主国としての贖罪。冷徹な女王の底にある、奇妙なまでの潔癖さを彼は感じ取っていた。


◆◇◆◇


 同じころ、ギルディン都市連邦の最後の都市の城門が、重々しい音を立てて開かれた。


「我が都市は、クライナイン王国軍に無条件降伏いたします……」


 寒さに震えながら進み出てきた降伏の使者を前に、馬上で分厚い外套を羽織った男が、深く安堵の息を吐いた。ゲオルクの副団長にして、現在四万の軍を預かるレジスである。


「承知した。直ちに武装を解除し、城内へ案内しろ。略奪は固く禁じてあるから安心するがいい」


 レジスは使者を下がらせると、手綱を握る手を緩め、白く染まる空を見上げた。吐く息が白く曇り、頬が痛いほどに冷える。


「……ようやく、落ちたな」


 もう一方の都市の攻略を任されていたアーレンは、先週すでに平定を完了させていた。これで、ギルディン都市連邦を構成していた百余りの都市国家は、すべてクライナイン王国の軍門に降ったことになる。


「それにしても……」


 レジスは、はるか南、主であるゲオルクが向かったであろう空の彼方を見つめながら、呆れたようにぼやいた。


「まったく、うちの団長は、こういう面倒で地味な後片付けばかりをこっちに押し付けて、自分はさっさと美味しいところを持っていくんだからなぁ」


 愚痴をこぼしながらも、レジスの顔には任務を完遂した誇らしい笑みが浮かんでいた。

 こうして、北方の巨大な防衛国家、ギルディン都市連邦は完全に滅亡した。ゲオルク・グラックが大軍を率いて王都クーロンヌ・ダルジャンを出征してから、わずか十ヶ月。それは、軍事史に残る驚異的な速度での平定劇であった。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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