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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第十一章 反逆編

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第220話 処分

 旧ラスカ王国の王都ミランドラから、アルノーが夜の闇に乗じて逃亡してから二日後。主将を失った反逆軍は、迫り来るクライナイン王国軍の威容を前に抗う気力を完全に失い、呆気なく白旗を掲げた。

 ミレーヌ・グラッセ率いる軍勢は、一滴の血を流すこともなくミランドラへ入城を果たした。王宮の豪奢な廊下には、敗走したアルノー軍が残した疲労と、微かな鉄錆の匂いが澱んでいた。ミレーヌは、かつてアルノーが占拠していた執務室に入ると、ジャックを呼び出した。


「お呼びでございますか」


 ジャックが畏まって一礼すると、黒檀の机の奥に座るミレーヌは、無機質な瞳で彼を見据えた。


「逃げ出したアルノーや幕僚の行方を徹底的に追いなさい。生死は問わないから必ず探し出しなさい」

「必ずや」


 ジャックが力強く頷くのを見たミレーヌは、次の指示を出した。


「それと、降伏した者のうち、我がクライナイン王国軍に軍籍があった者はすべて処分しなさい。後で今回反逆に加担した者の二親等の縁者も見つけ次第、例外なく全員処分するわ」


 平坦な声で告げられたその内容に、歴戦の将であるジャックの武骨な肩が微かに強張った。


「……よろしいのでしょうか?」

「何?」


 ミレーヌは、退屈そうに小首を傾げる。


「アルノーが率いていた軍九万の傭兵上がりには、血の繋がりに無縁の者もおります。しかし、正規軍出身者やその縁者を含めてすべてを処分するとなると、対象者は二十五万人を優に超えるかと存じますが」

「当たり前じゃない」


 ミレーヌは、ジャックの懸念に対して、一切の躊躇なく言い放った。


「我がクライナイン王国の法において、王に対して反逆した者は、縁者も含めて死刑と明文化して公表しているわ。彼らはそれを知っていながら反逆の道を選んだのよ。死罪は覚悟の上でしょう?」

「しかし、陛下。イの国で五十万人以上を無慈悲に虐殺したアルノーの非情な行いを咎められた陛下が、法とはいえ二十五万人以上を死罪となさるのは……」

「ジャック」


 ミレーヌは、底冷えのする視線を向け、大将の言葉をピシャリと遮った。


「本質を見間違えてもらっては困るわ。確かに私はアルノーを咎めようとしたけれど、今回反逆の兵を挙げたのはアルノー個人の決断よ。アルノーが私の命令に違反して五十万の民を虐殺したという事実と、法に基づく反逆者およびその縁者の処分は、全く次元が違うこと」


 ミレーヌの言葉には、一片の矛盾も感情の揺らぎも存在しない。法は絶対であり、それを破った者への処罰を躊躇えば、国家の基盤となる「恐怖と秩序」が揺らぐ。彼女にとって、処刑される人数など、単なる事務処理の数字でしかないのだ。


「……失礼いたしました。私の思慮が浅うございました」


 ジャックは深く頭を下げ、別の懸案事項を口にした。


「あと、数は多くありませんが、降伏した者の中に、逃げ遅れて巻き込まれた少数のズタリア王朝の兵士が混ざっております。こちらはいかがいたしましょうか?」

「ズタリアは我が国に隷属したとはいえ、あくまで属国よ。その軍民に我が国の法をそのまま当てはめるのは無理があるわ。彼らについては追って沙汰を下すから、そのまま厳重に監視しておきなさい」

「承知いたしました」


 ジャックが踵を返して退室しようとした背中に、ミレーヌの静かな声がかけられる。


「ジャック、先ほどの命令のうち降伏した兵の処分は、ニコロに命じるわ。貴方(あなた)は、逃げたアルノーの確保と、この地域の治安維持に努めなさい」

「御意」


 ジャックは恭しく一礼し、重厚な扉を閉めた。


◆◇◆◇


 ミレーヌに降伏した反逆軍の兵士、およそ三万七千人は武装を解除され「反乱の罪を贖うための労働」を命じられた。そして、四日後、ミランドラから二十キロほど離れた荒野にある、巨大な露天掘り鉱山の跡地へと連行された。

 すり鉢状に深く削り取られた広大な廃坑の底。夕闇が迫る中、降伏兵たちは平坦な岩肌の上で野営の準備を進めていた。


「明日からは穴掘りか……」

「だが、命が助かっただけ儲けものだ。その場で全員の首を刎ねると思っていたからな」


 兵士たちの間には、疲労の中に微かな安堵が広がっていた。生きてさえいれば、いつか逃げ出す機会もあるかもしれない。そんな淡い希望が、夜の冷気を少しだけ和らげているようだった。

 しかし、その安堵は真夜中になって唐突に打ち砕かれた。突如、地鳴りのような轟音が、静まり返った廃坑に響き渡ったのだ。


「な、なんだ!?」


 跳ね起きた兵士たちが音のした方角を見ると、廃坑の底から地上へと続く唯一の経路であった巨大なスロープが、無惨にも崩れ落ちていくのが見えた。退路が完全に絶たれたのだ。騒然となる降伏兵たちが、絶望とともにすり鉢状の崖の上を見上げる。そこには、松明の明かりに照らされたクライナイン王国軍の兵士たちが、無表情で立ち並んでいた。

 その中心で、元傭兵団長であり、現在は王国軍少将の地位にあるニコロ・ゴンティエが、温厚な面持ちのまま、事務的な手つきで右手を振り下ろした。


「それじゃあ、始めますか」


 ニコロの合図と共に、すり鉢状の崖の周囲に仕掛けられていた無数の爆薬が、一斉に火を噴いた。

 凄まじい爆発音が連続し、大地が激しく揺れる。直後、脆くなっていた崖の斜面が大きく崩落し、何万トンという途方もない量の土砂と岩塊が、まるで巨大な滝のように廃坑の底へと流れ込み始めた。


「ひぃっ! や、やめろぉぉぉっ!」

「助けてくれ!」


 生き埋めになる恐怖に狂乱した三万七千の兵士たちが、絶叫を上げながら逃げ惑う。だが、すり鉢の底に逃げ場など存在しない。這い上がろうとする者は、容赦なく上からの銃弾に撃ち落とされた。

 降り注ぐ土砂の津波は、彼らの悲鳴や命乞いをいとも容易く飲み込み、押し潰し、完全に埋め尽くしていく。土煙が晴れた後、広大な露天掘り鉱山は、巨大な一つの平坦な墓標へと姿を変えていた。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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