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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第十一章 反逆編

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第216話 突撃

 それから五日後。刃のように冷たい冬の空気が、アラスエ川の荒涼とした大地を覆い尽くしていた。

 北東の砂漠地帯から進軍してきたルメイバ部族連合の騎馬軍団十五万は、川の上流に位置する浅瀬の渡河ポイントの手前で、見渡す限りの地平線を黒く染め上げていた。ここは、以前アルノーが渡河しようとしたポイントよりも十二キロ上流に位置する。

 馬のいななきと、無数の蹄が土を蹴る音が、低い地鳴りとなって響き渡る。吐く息が白く染まる中、分厚い毛皮の外套を羽織った大族長トゥムルは、愛馬の背に揺られながら、不敵な笑みを浮かべていた。彼の元には、先ほどアルノーからの伝令が到着し、ひどく高飛車な指示を伝えていったばかりだった。


『女王の首は差し上げます。倒した敵の装備もすべて奪ってかまいません』


 その言葉を思い出し、トゥムルは忌々しげに鼻で低く笑った。


(あの青二才め。この俺様に指図するとは、随分と小癪な真似をしてくれる。だが、条件としては決して悪くない)


 トゥムルの鋭い双眸は、これから広がる血みどろの未来を冷徹に計算していた。『銀髪の魔女』という大層な二つ名を持っていると聞くが、所詮は西の国を統べる小娘に過ぎない。その小娘の首を自らの手で容易く獲り、豊かなクライナイン王国の領土と富を心ゆくまで蹂躙する。そして、返す刀で生意気なアルノーの軍勢を背後から踏み潰してしまえば、この広大な西大陸は、すべてルメイバ部族連合のものとなるのだ。


「全軍、渡河しろ!」


 トゥムルの野太い号令が冬の空気を激しく震わせると、十五万の騎馬が一斉に動き出した。

 クライナイン王国軍が配置していたはずの斥候部隊は、トゥムルが予め放っていた精鋭の弓騎兵によって、瞬く間に駆逐されていた。冷たい川水を蹴立てて、無数の騎馬が渋滞することなく対岸へと渡っていく。驚くほどスムーズな進軍だった。


「西の連中も、随分と間抜けなものだ。巧妙な罠でも張っているかと思ったが、これほどの大軍の渡河をあっさりと許すとはな」


 トゥムルは、拍子抜けしたように吐き捨てた。渡河を完了したルメイバ部族連合軍は、何ら妨害を受けることなく、クライナイン王国軍が布陣しているという川の下流へと馬首を向けた。

 二時間程度進むと、遠目が効く前方の斥候から、弾んだ声で報告が入った。


「大族長! 前方に、クライナイン王国の女王の旗が見えます!」


 トゥムルは手綱を引き、前方を見据えた。

 凍てつく荒野の先に、確かに整然と布陣する軍勢の姿がある。冬の鉛色の空の下で、クライナイン王国の軍旗が冷たい風にはためいていた。


「あれが『銀髪の魔女』の直轄軍か」


 陣容を素早く見渡す。歩兵を中心に構成されたその軍勢は、およそ五万程度。アルノーの事前の情報と完全に一致していた。トゥムルの頭の中で、瞬時に戦力差の計算が行われる。


(敵は五万。全員が例の厄介な銃を装備していたとしても、一度の斉射で倒れるのはせいぜい数千だ。我が軍は十五万。五万の銃撃をまともに浴びたとしても、十万以上は確実に残る。奴らが次の弾を込めるまでに、圧倒的な機動力を持つ我が騎馬隊が懐に飛び込めば、それで勝負は決まりだ。そもそも、平原を高速で動いている騎馬の群れに対して、百発百中で弾が当たるわけがない)


 圧倒的な数の暴力と速度。それこそが、ルメイバ部族連合が大陸最強と謳われる所以である。銃の威力がいかに強かろうと、弾を込める暇を与えなければただの鉄の棒に過ぎないのだ。


「勝ったな」


 トゥムルの顔に、獲物を確実に仕留める捕食者の笑みが浮かんだ。自らの勝利を確信した彼の目には、前方に立ち塞がる軍勢が、ただの哀れな生贄にしか見えていなかった。


「あんなちっぽけな軍など、一瞬で踏み潰してやる! 全軍、突撃!」


 大族長の叫びと共に、十五万の騎馬軍団が一斉に加速した。地響きが荒野を激しく揺るがし、巻き上がる土埃が冬の空を黒く染め上げる。圧倒的な暴力の津波が、真っ直ぐにミレーヌの直轄軍へと襲い掛かった。


◆◇◆◇


 一方、アラスエ川の下流。大橋を挟んでジャックの軍と対峙しているアルノーの陣営にも、張り詰めた空気が満ちていた。

 本陣の天幕で、アルノーは純白の手袋をはめた手で、届いたばかりの報告書を優雅に受け取った。


「閣下。ルメイバ部族連合軍の十五万、無事に上流での渡河を終えたとのこと。まもなく、女王の直轄軍へ向けて突撃を開始するでしょう」


 副官のエディ・ベケ少佐が、興奮を隠しきれない声で報告する。 アルノーの端正な顔立ちに、愉悦の色が広がった。


「野蛮な獣たちは単純な餌でよく動いてくれますね。彼らの突撃力ならば、確実にあの女の首を獲ってくれるでしょう」


 アルノーは天幕を出て、ジャックの構築した強固な防衛陣へ視線を移した。トゥムルの十五万の騎兵団がミレーヌの五万を蹂躙するのは時間の問題だ。ジャックが主君の危機を察知して救援に向かうのを防ぐため、彼をこの場に完全に釘付けにする必要がある。


「エディ少佐。全軍に命じなさい。一時間後に、ジャックの軍に対して総攻撃を開始します」

「総攻撃ですか! しかし、あの防衛陣を正面から崩すのは多大な犠牲が伴いますが……」

「崩す必要はありません。これはあくまで『陽動』です。奴らが一歩もここから動けなくなるほどの、苛烈な弾幕を浴びせ続けるのです。ジャックの目をこちらに固定できれば、それで我々の仕事は終わります」


 アルノーの冷徹な命令に、エディは深く一礼して指揮所へと走っていった。 間もなく、アルノー軍の陣営から無数の銃声が轟き始め、対岸のジャック軍に向けて激しい銃火が浴びせられる。

 一人残されたアルノーは、激しい銃撃音が鳴り響く戦場を眺めながら、静かな歓喜に打ち震えていた。


(今日の戦いは、歴史に残る戦いになります。あの銀髪の魔女が獣の蹄に踏み躙られ、この私が圧倒的な勝利を収める。そして、私が大陸に覇を唱えるきっかけとなった、記念すべき戦いとなるのです)

 己の完璧な計算が世界を支配する瞬間が、すぐ目の前まで来ている。アルノーの薄い唇が、歓喜に歪んだ弧を描いて吊り上がった。

 かくして、アラスエ川を舞台にした、クライナイン王国の命運をかけた戦いが、ついに幕を開けたのである。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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