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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第十一章 反逆編

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第209話 大族長トゥムル

 九月の終わり。大陸の東方、乾いた風が吹き荒れる広大な砂漠地帯に、ルメイバ部族連合の大天幕が張られていた。

 天幕の中央で、毛皮が敷かれた豪奢な座に深々と腰を下ろしているのは、連合を束ねる大族長トゥムルである。歴戦の傷跡が刻まれた浅黒い肌と、猛禽類のように鋭い双眸を持つ彼の眼前には、西の国からやってきたという、純白の軍服に身を包んだアルノー・ルベの使者が、仰々しく頭を下げていた。


「我が主アルノー閣下は、大族長殿に『同盟』をご提案したく存じます。共にあの忌まわしき銀髪の女王、ミレーヌを討ち果たしていただきたい。その成功の暁には、ズタリア王朝の豊かな平野を丸ごと貴方がたに譲与するとお約束されております」


 使者の言葉に、天幕内に控えていた各部族の族長たちが、一斉に顔を見合わせた。やがて、荒々しい声が飛ぶ。


「ハッ! 虫のいい話だ! ズタリアには俺たちを阻んできたあの忌々しい『防護壁』がある。そこを越えられず、俺たちが何年苦汁を舐めてきたと思っている!」「そうだ! そもそも、まだ自分たちの物でもねぇ土地を餌にして、俺たちを都合よく動かそうってのか?」


 族長たちの怒気を孕んだ野次に、使者は顔色一つ変えずに答えた。


「ご安心を。実は先ほど急報が届きまして、ズタリア王朝はすでに我が軍が無血で制圧いたしました。我々が『内側から門を開き』、貴方がたをその豊かな平地へと迎え入れます」


 その一言に、天幕の空気が一変した。「壁がないなら話は別だ!」と、族長たちが色めき立つ。防護壁さえなければ、平原での機動力においてルメイバの騎馬軍団の右に出る者はいないからだ。

 だが、その熱狂のなか、ただ一人沈黙を守っていた大族長トゥムルが、重々しく口を開いた。


「……気前の良い話だ。だが、西の連中のやり口は知っている。『対価を求めない商人は、客の命を値踏みしている』というだろう?」


 トゥムルの低く響く声に、族長たちがピタリと口を噤む。


「お前たちだけで勝てるというなら、わざわざ我々に貴重な土地を割譲する必要はない。……相手は、それほどの強者か?」


 冷徹に「裏の意図」を突かれた使者は、一瞬だけ沈黙し、やがて恭しく頭を下げた。


「……いかにも。相手は女王ミレーヌ・グラッセ。そして彼女が率いるのは、全ての兵士に銃を装備した大軍です。まともに正面からぶつかれば、いかに我がアルノー軍といえども無傷では済みません」

「だろうな。要するに、我らルメイバの騎馬を『盾』にして、小娘の軍の弾薬を消耗させたい、というのがお前たちの本音だ」


 トゥムルの鋭い指摘に、使者はそれ以上言葉を返さなかった。トゥムルは手で軽く払い、使者を天幕の外へと下がらせた。

 残された族長たちが、不満げに口を開く。


「大族長! やはり西の連中は信用できません! 我らを使い捨ての駒にする気です!」

「だが、悪くない取引だ」


 トゥムルの言葉に、族長たちが「大族長!?」と驚きの声を上げた。


「壁さえなければ、平地において我らルメイバの騎馬に追いつける者などいない。銃だろうが何だろうが、圧倒的な速度と数で踏み潰せば同じことだ。アルノーとやらに恩を売り、あの豊かなズタリアの土地を手に入れる。……いや、それだけではない」


 トゥムルの顔に、獲物を前にした猛獣のような、凶悪な笑みが浮かんだ。


「西の国々が内輪揉めで疲弊している今こそ、我らが大陸の覇を唱える絶好の好機! アルノーに加勢するふりをして、奴らごと、クライナイン王国を喰らい尽くしてやる! 全族長に告ぐ! 騎馬十五を集結させよ! 今こそ西の豊かな大地を、我らが蹄で蹂躙する時だ!」

「おおおおおっ!!」


 大族長の野心に満ちた号令に、天幕が震えるほどの雄叫びが上がった。即座に出征の準備が始まり、広大な砂漠地帯に伝令の馬が四方八方へと駆け出していく。


◆◇◆◇


 それから二週間後。

 各方面から部族が砂塵を巻き上げて集結し、大族長トゥムルの元には、見渡す限りの地平線を埋め尽くすほどの騎馬隊が勢揃いしていた。その数、実に十五万。ルメイバ部族連合が動員できる、ほぼ全軍である。

 この十五万という数字は、単なる大軍ではない。六年前、大陸の東方を統一した直後のメーラ天帝国に対し、彼らが大規模な侵攻を行った際と同じ規模であった。あの時は、超大国である天帝国が七十万もの大軍を派遣し、甚大な犠牲を払ってようやく防ぎ切った「ガンスゥの戦い」として歴史に名を残している。

 それと同等の、国家を丸ごと飲み込むほどの未曾有の暴力の波が、今、防護壁の失われた西の豊かな大地へ向けて、怒涛の進撃を開始したのである。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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