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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第十章 狂信編

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第198話 マトモな戦争

 五月の刺すような日差しが、広大な平原を容赦なく照りつけていた。乾いた風が吹き抜けるたび、細かな砂埃が舞い上がり、鉄と馬の汗の匂いが混じり合った戦場特有の空気を運んでくる。

 クライナイン王国軍大将、ゲオルク・グラックは、愛馬の背に揺られながら、遥か前方に広がる光景を静かに見渡していた。

 地平線を黒く塗り潰すかのように布陣しているのは、北方の巨大な防衛国家、ギルディン都市連邦の軍勢である。百ほどの都市国家が寄り集まった連合体は、目前の脅威を前にしてかつてない結束を見せ、実に二十五万という途方もない数の兵をこの平原に集結させていた。

 陽光を照り返す無数の槍先と、大地を震わせる鬨の声。それは、一国が存亡を賭けて生み出した巨大な壁そのものだった。

 ゲオルクの背後には、彼が率いる五万のクライナイン王国軍が、微動だにせず命令を待っている。二十五万対五万。圧倒的な兵力差を前にしても、ゲオルクの部隊に焦りの色は見られない。彼らはすでに、数に勝る敵を幾度となく蹂躙してきた歴戦の精鋭たちだった。


「大軍ですね」


 横に馬を並べた副官のレジスが、手元の望遠鏡を下ろしながら気安く声をかけてきた。その声音に悲壮感はない。ただの事実確認のような響きだった。


「まあな。他国の末路を知ったら、当然必死にもなるさ」


 ゲオルクは無精髭の生えた顎を擦りながら、口の端を吊り上げて好戦的な笑みを浮かべた。


「こういう相手は組みやすくて助かる」


 ゲオルクが視線だけで敵陣の値踏みをしていると、不意に、むせ返るような甘い香水の匂いが風に乗って漂ってきた。


「ゲオルク様ぁ~、軍の展開、完了いたしましたわ~」


 甘ったるく、語尾を不自然に伸ばした女の声。振り返ると、豊満な胸元をこれ見よがしに強調した軍服姿のアダリーが、妖艶な笑みを浮かべて馬を寄せてきていた。元ヴィスタ帝国の特務部隊であり、今はゲオルクの副官として少佐の階級を持つ彼女は、相変わらず借りてきた猫のように甲斐甲斐しい態度を崩さない。


「お前、まだいるのか?」


 ゲオルクは、心底うんざりしたように顔をしかめた。


「ゲオルク様~、またご冗談を~」

「本心なんだけどな」

「そんな~、ひど~い。でも意外ですわ~。こんな僻地にゲオルク様がわざわざ出向くなんて~」

「お前うるさいんだよ。仕事してろ!」


 ゲオルクがシッシッと犬を追い払うように手を振ると、アダリーは不満げに唇を尖らせながら少しだけ後方へと馬を下げる。彼女の香水の匂いが薄れると、レジスが苦笑交じりに口を開いた。


「私も意外でしたよ。わざわざ志願するとは」


 レジスの言葉に、ゲオルクは手綱を握り直し、小さく息を吐いた。


「嬢ちゃんのとこも所帯がでかくなって、揉め事が多くなったからな。近くにいて余計な事に巻き込まれたくない。それに……」

「それに?」

「戦うなら、人間相手がいい」


 ゲオルクは、鋭い眼光を真っ直ぐに前へ向けたまま答えた。


「人間? 当たり前じゃないですか」

「当たり前の相手ではない国が残ってるだろ」

「ああ、イの国ですか……」


 レジスも合点がいったように低く唸った。

 平和主義の女王を狂信的に信奉する異常な国家。ゲオルクは前々から、自分がイの国を制圧することになった場合の作戦をいくつも考えていた。だが、人間の理を備えていない相手に対しては、どれも有効ではなかった。

 たぶん、戦術的な駆け引きも通用しない。いや、そもそも戦争にすらならない。戦術や用兵を競う余地がない戦いは、ゲオルクにとってただの退屈な作業に過ぎない。


「我ながら、度し難いな」


 ゲオルクは、命のやり取りである戦争に『用兵の面白さ』を求めている己の業の深さに気づき、自嘲気味に呟いた。


「何かおっしゃいましたか?」

「いや、こっちの話だ」


 その時、後方に下がっていたはずのアダリーが、再び馬を寄せてきた。


「ゲオルク様~、そろそろお時間ですよ~。隠れてるアーレン様が、待ちくたびれるかもしれませ~ん」


 ゲオルクは、脳裏にこびりついていた王都の息苦しさや狂信者への嫌悪感といった雑念を、頭を振って完全に振り払う。

 そして、手綱を強く引き絞り、飢えた獣のような獰猛な笑みを顔全体に浮かべた。


「さあ、人間同士のマトモな戦争を始めようぜ。全軍、戦闘用意!」


 その声に呼応するように、ゲオルクのすぐ傍らで空気を震わせる怒号が響き渡った。


「総員、戦闘態勢!! 野郎ども、気を抜くんじゃねーぞ!」


 先ほどまでの甘ったるい猫撫で声は跡形もなく消え失せ、ドスの効いた凄みのある地声が平原に轟く。アダリーの豹変に、周囲の空気が一気に張り詰めた。

 五万の軍が一様に戦闘態勢に入り、静かで圧倒的な死の気配が戦場を完全に支配する。

 それを見たゲオルクは、鞘から抜き放った剣を、地平線を埋め尽くす二十五万の敵軍へと真っ直ぐに突きつけた。


全軍突撃(エクラゼ・レ)!」


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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