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【70万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第九章 併吞編

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第171話 誤算と幸運

 ルカ少将率いる七千の別働隊が、クムーラーナ共和国軍の横腹を食い破るべく砂塵の向こうへ姿を消した直後だった。本陣の守りが極端に薄くなったその間隙を縫うように、一人の伝令が血相を変えてミレーヌの元へ駆け込んできた。


「ご、ご報告いたします! 北東の丘陵地帯より、新たな敵影! その数およそ一万、すべて騎馬兵です! 猛烈な速度で我が本陣へ向かってきます!」


 その報告を聞いた瞬間、ミレーヌの凍てついた蒼眸が見開かれた。


(……しまった)


 ミレーヌの脳内で、完璧に構築されていたはずの盤面が大きく揺らいだ。


(別働隊を共和国軍へ向かわせず、そのまま予備兵力として残しておくべきだった……)


 だが、ミレーヌの氷の思考回路が後悔に支配されたのは、ほんのコンマ数秒のことだった。彼女は直ちに感情を切り捨て、冷徹な声で傍らの近衛将軍へ命じた。


「フィデール! 全軍、三列横隊で待機、いかなる犠牲を払ってでも騎馬の突撃を迎え撃て!」

「はっ! 全軍、陛下を死守せよ! 盾を構え、銃座を固めろ!」


 フィデールの怒号が響き渡り、本陣に残されたわずかな兵士たちが慌ただしく陣形を組み替える。しかし、大地の震えはすでに足元から全身へと伝わってきていた。地平線の彼方から、土埃の巨大な壁が、文字通り風のような速度で迫り来る。ヴィスタ帝国が誇る一万の軽騎兵軍団だ。


◇◆◇◆


「一気に蹂躙せよ!」


 先頭を駆けるリュディガー将軍の雄叫びが、風に乗って微かに聞こえる。その傍らには、黒いレースのヴェールを風にたなびかせ、右手に抜き身の剣を握りしめた女騎士が併走していた。彼女の瞳の奥には、長きにわたり燃やし続けてきた復讐の炎が、今まさに悲願を達成する歓喜となって燃え盛っている。


(あと少し……! あと少しで、あの銀髪の魔女の首に手が届く!)


 帝国騎馬軍団との距離が、五百、四百、三百メートルと縮まっていく。ミレーヌの陣営の銃撃兵たちが、震える手でフリントロック式マスケット銃を構えた。だが、一万という圧倒的な質量の波が迫る光景は、兵士たちの心を容易くへし折るほどの絶望感を伴っていた。


(この数と勢い……今の薄い防衛陣で、果たして防ぎきれるか?)


 ミレーヌが、万が一の白兵戦に備えて腰の細剣に手を掛けた、まさにその時だった。

 突如として、猛追してくる帝国騎馬軍団の右側面にあたる林の陰から、空気を激しく切り裂くような凄まじい一斉射撃の轟音が鳴り響いた。

 直後、先頭集団を駆けていた帝国兵の馬体が次々と弾け飛び、血飛沫を上げて地面に激突する。時速数十キロで疾走していた騎馬が突然真横から撃ち抜かれて転倒したことで、後続の騎兵たちも巻き込まれ、将棋倒しのように次々と無残にひしゃげていった。

 女騎士の乗る軍馬もまた、横腹に数発の鉛玉を浴びて悲鳴のような(いなな)きを上げた。彼女の体は無情にも宙に投げ出され、湿った泥と血だまりの中を無言のまま無様に転がっていく。


「な、何事だ! どこから撃ってきた!」


 リュディガー将軍が血相を変えて右側面を振り返る。そこにいたのは、いつの間にか林の陰に完璧な伏兵陣を敷き、硝煙を立ち上らせている五千の銃撃兵たちの姿だった。

 その隊列の最前列で、一切の感情を顔に浮かべることなく、純白の手袋をはめた手で優雅に指揮棒を振り下ろしている金髪の青年将校がいた。


「第二射、放て」


 アルノー・ルベ大佐の涼しげな声が響くと同時に、再び正確無比な銃弾の雨が帝国騎馬軍団の横腹を容赦なく抉り取っていく。


「新手だと……!」


 機動力を完全に殺され、立ち止まることを余儀なくされた帝国騎馬軍団は、もはや巨大な的に過ぎなかった。リュディガー将軍が態勢を立て直すべく声を張り上げようとした瞬間、彼自身の胸部にも数発の銃弾が深く突き刺さった。将軍は目を見開いたまま、愛馬から泥濘へと転げ落ち、二度と動かなくなった。

 将軍を失い、側面からの苛烈な十字砲火を浴びた帝国騎馬軍団は、またたく間に統制を失い、悲鳴を上げる軍馬とともに無秩序に敗走していく。

 泥に塗れた女騎士もまた、自らの復讐がまたしても指の隙間からこぼれ落ちた屈辱に唇を噛み切りながら、這うようにして戦場から離脱していくしかなかった。


◇◆◇◆


 ミレーヌは、怒涛の勢いで迫っていた帝国の軽騎兵団が次々と薙ぎ倒されていく様を見て、微かな驚きの色を浮かべた。


(何が起こったの?)


「どうやら、援軍のようです。さすが陛下、このような策まで施しておくとは……」


 傍らに控えるフィデールが敬愛する主人に感嘆の言葉を伝えた。


(援軍……? ゲオルクが兵をこちらに回したかしら? まあ、いいわ。この機を逃してはダメ)


 予期せぬ幸運の正体はわからずとも、それが自軍にとって決定的な勝機であることは間違いない。ミレーヌは即座に思考を切り替えた。


「フィデール、塹壕のクロヴィスとニコロに伝達。塹壕から出て全面攻勢するようにと」

「はっ!」


◇◆◇◆


 帝国騎馬軍団を完全に撃滅したことを確認すると、アルノーは表情一つ変えずに、血や泥の跳ねていない美しい軍服の襟を正した。


「休まず、そのまま前方のクムーラーナ共和国軍の背後へ突撃します」


 アルノーの部隊五千は、息をつく間もなく軍を反転させ、ミレーヌの本陣の前方で交戦中だったクムーラーナ共和国軍へと猛然と襲い掛かった。

 ルカ少将率いる別働隊によって側面を食い破られ混乱し始めていた共和国軍に、今度は背後からアルノーの新鮮な五千の兵が、無慈悲な銃撃と白兵戦を仕掛けてきたのだ。さらに、ミレーヌの指示を受けた正面の塹壕の部隊も全面攻勢に出た。


「もう無理だ! 逃げろ!」


 金で雇われただけの傭兵や、士気の低い民兵たちに、それ以上戦線を維持する精神力など残されていなかった。バレリオ将軍が必死に叫ぶ声も虚しく、クムーラーナ共和国軍十八万は完全に崩壊し、壊滅状態となって四方八方へと散っていった。

 圧倒的な絶望を覆し、盤面を完全に制圧したヴァールの平原。ミレーヌは、死体と硝煙に覆われた戦場を静寂な瞳で見渡していた。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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イケメンで出来る男かw
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