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【60万PV突破】傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む  作者: かずまさこうき
第八章 連衡編

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第154話 報告書

 重く沈んだ鉛色の雲が、王都クーロンヌ・ダルジャンを覆う冬の午後。王宮の執務室で、ミレーヌは淹れたての紅茶を口に運び、ふと美しい眉をひそめた。

 視線の先には、玉座の傍らに直立不動で控える近衛将軍、フィデールの姿がある。彼が今日身にまとっている鎧は、普段の無骨な鉄のものとは異なり、鈍い銀色の光沢とやけに重厚な圧迫感を放っていた。


「その鎧、どうしたの?」


 ミレーヌが冷ややかな声で問うと、フィデールは姿勢を正し、誇らしげに胸を張った。


「はっ! ホマン室長が新たに開発した『鋼』とかいう素材で作られた試作品でございます! ミレーヌ様を守るためには、このフィデール。何があっても倒れるわけにはいきません! 室長は私の熱意を感じ取っていただき、新たな鎧を……」


 ミレーヌが左手を上げてフィデールの発言を遮る。そして、優雅に立ち上がると、カツ、カツ、とヒールの音を響かせてフィデールの目前まで歩み寄った。氷のように冷たく美しい顔を、彼の胸元の高さまで近づけて鎧の造りを観察し始める。

 フワリと、甘いユリの香りが直接鼻腔をくすぐった。主君の吐息がかかりそうなほどの至近距離に、フィデールの心臓は早鐘のように激しく打ち始める。

 ミレーヌは彼の緊張などお構いなしに、白く細い指先で新しい鋼の表面をツゥーと撫で、装甲の継ぎ目を確かめるように、コン、コン、と軽く叩いた。

 指先が鎧に触れるたび、フィデールはタコのように真っ赤に染まった。息をするのすら忘れ、直立不動の巨大な肉体が、歓喜で微かにプルプルと震えている。

 そんな近衛将軍の気持ちなど全く理解せずに、ミレーヌは語りかけた。


「こんな分厚い鎧、よく着てられるわね」

「いえいえ、滅相もございません! 前の鎧よりも遥かに薄くて硬いのです! 重さもたったの二十キロほどしかございませんので、まるで羽のように軽く感じます!」


 満面の笑みで豪語するフィデールに、ミレーヌは小さくため息をついた。自分のような普通の人間にとって、二十キロの金属を身に纏って動くなど苦行でしかない。


「あなた……相変わらず、脳の造りまで筋肉みたいに凄いわね」

「身に余るお褒めの言葉、ありがとうございます!」

「褒めてないわよ」


 ミレーヌが、完全に恍惚の人となって昇天しかけている近衛将軍を放置して、自席にもどった、まさにその時だった。重厚な扉が控えめにノックされ、情報庁長官のマリユスが入室してきた。

 元商人である彼は、普段は飄々とした態度を崩さない男だが、今日の彼はどこか様子が違った。その顔には、隠しきれない濃い疲労と焦りの色が浮かんでいる。


「どうしたの? いつもとトーンが違うじゃない」

「……申し訳ございません、陛下」


 マリユスは深く頭を下げ、重苦しい声で切り出した。


「ヴィスタ帝国の件ですが……帝都クヴァントの警戒が尋常ではありません。現に……すでに五名の密偵が、消息を絶ちました。これ以上深く潜れば、ヴィスタ帝国の諜報網が壊滅します。」


 ミレーヌのアイスブルーの瞳が、僅かに細められた。


「先日、クヴァントの大通りにある商館に、各国の要人が極秘裏に集まったことまでは掴みましたが……密談の内容までは、どうしても探り切れませんでした。リナならば問題なく潜入できるかと思いますが……」

「わざわざリナを向かわせる必要はない。無理に探らなくてもいいわ」


 ミレーヌは、感情を排した声で即答した。


「よろしいのでしょうか?」

「ええ。相手が何を企んでいるか、だいたい予想はついたから。それより、例の異邦人の女の件はどうなったの?」


 ミレーヌが尋ねると、マリユスは懐から分厚い報告書を取り出した。


「はい、そちらは断片的な情報ですが、ある程度まとまりました。こちらが、その報告書でございます」


 ミレーヌは報告書を受け取ると、静かに目を落とした。数枚の羊皮紙に書かれた文字を、すべてを見透かすような蒼い瞳が高速でなぞっていく。

 室内には、暖炉の薪が爆ぜる音と、紙を捲る乾いた音だけが響いていた。息を呑んで見守るマリユスの前で、やがて全てを読み終えたミレーヌが、ゆっくりと顔を上げる。


「ありがとう。よく分かったわ」

「その報告書は、完璧ではありませんが……」

「これで十分よ」


 ミレーヌは、悪魔のような笑みをマリユスに投げかけた。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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