ラッキースケベがあると思ってたらなんか出てきた
日常、夜が来たら眠り朝が来れば起きる。
少しまだ肌寒さが残るが早朝から下半身が暑い、絡まる邪魔なものをどかし大きく伸びをする。
朝7時から活動し始めるというのは個人的には早すぎるので
もう少し眠って大体10時くらいから始動したい、世の中がそういう風になって欲しいとは思うが
そんなことをぼやいても仕方がない。スローライフに憧れてもそんな生活は引退したSランク冒険者じゃないので送れない。
おおよそ俺が起きる時間になると一階からコーヒーの匂いが漂ってくる。
それは、エシリアさんが最近コーヒーの豆にハマって(こっちに来てからそんなに経ってないが)いるらしく
スタ○やドトー○を爆破したいとかなんとかブツブツいいながら魔法の粉をごにょごにょしている。
豆から挽いたところで味なんて変わるものだろうか、変わるという人もいるが俺にはわからない。
バカな舌を持つ人間はある意味では幸せなのかもしれない、そしてどうか本当に爆破する日が来ないことを切に願う。
少し時間が経つと何故かキャッキャしながら例の二人が降りてくる、最近窓は割られていない。
以前はゆずももう少し普通の人間だったような気がするのだが、あの日(クラニーちゃんらが来た日)以来狂ってしまったように感じる。
いや、元来おかしくなる傾向にあったのは知っていた、それがより開放的になってしまっただけだ。
自分を出すことが出来るようになるのは良いことなのだろう。
変化や成長を。
朝寝坊をすることが少なくなったのだから、これはこれでいい方向へ向かったと言えるのかもしれない。
物は考え方次第であり、ある出来事が個人にとって良くなかった場合でも
別の観点から見れば必ずしもそうでは無いのだろう、そういうものなのだと思う。
サイコロのようなものだ。
ふと、考える。
そう言えば、与次郎先生が「どうにも気になることがある」と言っていた。
それは俺の体に関することでもあり、俺の出生に関することでもあるようだ。
きっかけが健康診断というのが気になるが、それは置いておくとして。
曰く「どこから来たのかわからない」らしく、俺も記憶は無い。
産まれたときの記憶なんて無いことが普通だろうが、そういう意味ではなく。
クラニーちゃんらは流石に何か知っているかもしれないが、特に深く追求しようとは思わない。
別に自分がどこから来た何者であるかなんて俺にとってはどうでも良いことだ。
敢えて言わないにしても、言う必要が無いだけのことだ。
いつの間にか施設にいて、いつの間にか現在の(という言い方はおかしいのかもしれないが)両親に引き取られた。
そのことに関して俺は全く不満はない、仮に何らかの組織により両親のフリをしていただけなのだ、
とある日突然暴露されたところで今までの生活を後悔することなんて何一つ無い。
そりゃあ少しは傷つくかもしれないが、俺にも築いてきた人間関係や今の生活があり
自分で物事の善悪なんかの判断だって出来るようになった、それが成長というものだ。
朝食はフレンチトーストが多い。
これはクラニーちゃんの希望であり、彼女は舌がお子様、じゃなくてとても甘いものが好きなだけだ。
はちみつとバターでトロットロ、コーヒーじゃなくコーヒー牛乳でありホットココアである。
いつか彼女も溶けてしまえばいいのになぁ。
テレビでは謎の組織に囚われたくノ一が感度4000倍だか何だかで騒がしいが気にしない。
皆大人なので、そういうアレはスルー出来る。
ただしクラニーちゃんにとって彼女らはヒーローであり、幼児が特撮にハマるのと同じ目線で見ている。
頭に第二次性徴期が来ていないのかもしれない。
そう言えば、頭がアレな人代表は八代さんというのがこの辺りに住む人の共通認識ではあるが
アレはアレでどうかしている、彼女の知能はとてつもなく高い。
活かす方向性が間違っているのでは、との懸念の声はややあるのだが
色々な発明やプログラムを企業に売って7世代遊んで暮らせるレベルの金銭を稼いだのだとか。
更に学生としての活躍は目を見張るものであり、試験の成績やら何やらは問題なく学園トップ。
その次に何故かゆず、後は……いや今はいい。
そしてクラニーちゃんらであるが、クラニーちゃんは流石というべきか王族を自称しているだけあって
こちらの星に移住してくるときに受けた試験や精神鑑定でも問題なく、素行も良い、とは言えないと思う。
元あった生活に準じる意味でもエシリアさんは教職についたわけであるが、これは立場上その方が都合が良いということなのかもしれない。
絵に描いたようなクールビューティーである彼女だから、結構ファンが増えているのも納得だ。
彼女は歳もさほど俺たちと変わらないわけだから、当たり前の「年頃」な生活を楽しんで欲しいとクラニーちゃんは言った。
彼女らが歩んできた人生はわからないが、今の生活を考えると同様にこちらに来たはずだから
クラニーちゃんの両親であり、エシリアさんの上司、に当たるのか、も同じだと思う。
朝食が済んでしばらくすれば登校である。学園への距離はさほど離れていないので
当然のように歩いて行くわけだが、ここのところ道路が大幅に改修されたのだとかなんとかで
かなり歩行者としては心地よく朝日を浴びながら、時には雨や風にうたれながら気持ちよく登校出来る。
以前は車道と歩道の境目も曖昧だったような気がするのだが、いざ変化するとそんな記憶も定かではなくなってくる。
本当にそんな道路あったのか?などと小気味よく話ながらエシリアさんを除いて登校だ。
彼女は先に仕事があると言って例の抜け道を使っている、正直ズルいと思う。
恐らくではあるが、エシリアさんにも同じような考えがあるはずなのだ。
でなければ、クラニーちゃんを放っておいて一人学校へ行ったりはしないだろう。
彼女には惑星の加護という超強力なバリアのようなもので守られてはいるらしいが
だからといって一人連れ去るのが不可能というわけでもないはずだ、だからといってそれに気づかないはずもない。
こういう日常が普通になっているここ最近ではあるが、考えてみれば割とファンタジーである。
列島半分消し飛ばせるレベルの拳を受けても「ボケたらタライが落ちてきた」程度のノリで流してしまえるのだから。
エシリアさん曰く「この星に我々の体を傷つけられる兵器は存在しない」とのことであるが、その言葉が真実だと思えてしまう。
若干思うところが無くはないが、ふわふわした感じで誤魔化してしまった方が皆幸せだきっとそう。
明日は未来。
とクラニーちゃんが立ち止まり、怪訝な顔をしながらこう言った。
「オメー、なんか今日匂いがおかしいデス。香水変えたデスか?」
「いや、いつもと同じだけど、つけすぎ?クサイ?」
「そういうことでもねーデスが」
すんすん、と鼻をならし「ここじゃねーデス」「ここもちげーデス」と言いながら俺も周囲を見渡す。
魂の匂いを嗅ぎ分ける少女、それがクラニー王女である。(ちなみにエシリアさんは魂の色を見ることが可能らしい)
物理的に介入する異臭であるならともかく、魂の匂いとやらがそう簡単に変わるのだろうか。
「うーん……強いて言うならここから妙な匂いがするんデスが、何もねーデス」
「ここって、地面じゃねぇか」
彼女が指差す方向を見て俺は言った。
「おかしなこと言うねぇクラニーちゃんは~、あ」
「あ、って。あぁ、そういうことか!」
「どういうことデス?」
「つーことは、ここだろ!?」
「そこ」を俺は勢いよく踏みつけた。
すると影であった場所から何かが飛び出し綺麗に回転しブロック塀に着地してこう言った。
「ハァーッハァー!!!元気そうで何よりだなワカ!!」
「やっぱり!帰ってきてたのか、フクロウ!」
軽く着地したフクロウとガッシリ握手をした。
「久しいな!!新宮も壮健なようで何より!!ハァッハァ!!そちらに見えるのが例の彼女かな!?」
「皆元気だよ、お前連絡も取れないからなぁ~。いや、お前も元気そうで良かったよ!」
背中を叩きながら俺は言った。
「そうそう、彼女がどこぞの星から来た王女様って相変わらずよく知ってるな」
「見ればわかるからな!」
「いぃ、うるせぇ奴デス迷惑デス……何なんですかアイツは……」
「あ~、あの人はねぇ、シーナの友達かなぁ、いい人だよ~?
猿喰 梟君。
半年くらい前からかなぁ、『世界で最も美しい顔』に選ばれてから旅に出てたんだけどねぇ、写真集作るとか~」
「聞いてねぇデスが、そうデスか。なんか変なやつばっかデスお前らの周り。濃いデス。
で、その通りやたらイケメンデス、なんか苦手かもしんねぇデスワタシは」
「グレコちゃんの幼馴染、又従兄弟なんだっけ」
「あぁ、それ聞いて納得したかもしんねぇデス。やっぱ変人ばっかデス」
「そう言うなよ、無個性な凡人なんて探したって見つからないって」
「はじめまして、宜しく!!」
何だか浮かない顔をしたクラニーちゃんの手を取り無理やり握手して腕を振るフクロウである。
ある日から世界に飛び出したこいつであるが、また同じ日々を送れることは嬉しいものだ。
さて、今日も一日やったりますか。




