第17話 スクランブルがかかりました!
腰がヘルニアでたまらなく痛い・・・。
演習場に通い始めてから二月が経過しました。
例のパチもん機を完全に乗りこなすために特訓の日々です。
ランダムに動く的を狙うとなると軌道修正、予測行動が必須となります。
特に高速移動する的に対してははっきり言ってカン働きです。
どうにかできるか!
こんなもん!
『ヨシト。そろそろ休憩しなさい。』
『もうお昼だから降りて来て。』
イリーナとレアイナの声がスピーカーから聞こえて来る。
もう昼なの?
てことはざっと四時間ブッ続けでやってたって事?
このゲテモノ機を乗りこなせてきたって事を喜ぶべきか嘆くべきか・・・。
午後の特訓もあるために昼食はあまり食べない。
絶対リバースする。
それを知ってるイリーナは栄養補助食品みたいなのとお茶を用意してくれる。
それをモゾモゾ食べる俺をレアイナが痛ましそうに見て来る。
なに!? 何か文句あるの!?
「文句って言うか・・・、食後にスクランブルがかかったら間違いなくリバースする事になるでしょ? まともに食事が出来なくなりそうだなぁって思ってね・・・。これからの生活どうする?」
・・・・・・・・・。
まっさかぁ! そうそう簡単にスクランブルなんてかからないでしょ?
「今、一瞬リアルに想像したでしょ? でも、正直な話スクランブルって結構頻繁にあるわよ?」
え? うそ?
「嘘じゃないですよ? メルフィル王国はアーバック王国と小競り合い程度とはいえ戦争中ですし。ただ、私達の場合はヨシトの訓練と新しく配備されたアシガルの訓練でアラート任務の対象外になっているからこうしてのんびりしていられるの。」
え? マジで?
・・・特務隊の面々ってのんびり訓練してるの?
・・・必死なのって俺だけ?
「んなわきゃ無いでしょ! みんな規定通り務めに勤しんでるわよ!」
それでも俺の様な地獄の特訓してる訳じゃないんでしょ!
「それは・・・。まぁ・・・。」
・・・今から普通のアシガルに乗り換える!
よくよく考えたらこれって特別扱いじゃない!
差別だ! 間違いなく差別だ!
本来だったら鬼神や闘神で華々しくデビューを飾り一躍時の人になって特務隊の広告看板として色々やるはずだったのにどこでどう間違ったのかこんなゲテモノ機に乗る羽目になるなんて!
「残念だけど貴方が乗る機体ないわよ? 頑張ってそのゲテモノ機乗りこなしなさい。」
チクショウ!
「レアイナ隊長・・・。ヨシトの訓練具合はどうですか?」
「この二月で完全に順応しているわ。機体のシステムプログラムが雑らしくって直しながらの訓練よ。後一月も開いたらゲテモノ機を乗り回すエースパイロット様が帰ってくるかも?」
「あんなのを本当に乗りこなせたんですか!?」
「信じられないわよねぇ。普通は。」
「フォーメーションとかどうするんですか?」
「それが悩み所なのよねぇ・・・。」
軌道修正? 予測行動?
はん! やってられるか!
よく考えたらこんな加速の化け物機で細かい軌道修正なんかできるか!
ひっくり返るわ!
これだけの重装甲なんだから多少の攻撃なんかなんとも無い!
突撃の勢いが凄いから敵機の芯に当たらなくてもどこかに掠れば大打撃になるし!
予測行動だってマシンガンかライフルで行動範囲を狭めれてそこに突撃するというセルフコンビネーションが出来たとたん面白いように的が粉砕できた。
レアイナに連絡入れよう。
訓練完了しましたって!
何て言われた? ゲテモノ機の実戦データ?
「参考にならないって。」
・・・・・・。
は?
「あまりにも特殊すぎて参考にならないそうよ。」
うそん!! 俺の二月以上に及ぶ訓練って何だったのさ!?
「あのゲテモノ機はますますヨシト専用機になったって事よ・・・。」
夢にまで出て来たんだぞ! そのゲテモノ機!
「とりあえずこれで私達とフォーメーションを組んだ一般訓練に合流することが出来たんだから良しとしなさい。」
ヴーン ヴーン ヴーン
「ちょっと! 嘘でしょ!」
レアイナ・・・、これってひょっとして・・・。
「緊急出動<スクランブル>よ!」
ちょっと! 此処ってスクランブルに備えてアラート任務に就いてる部隊っていないはずだよね!? なのになんで!?
「こっちが聞きたいわよ!」
とにかくこの軍事演習場の管制室に行こう!
「貴女が特務隊のレアイナ隊長ね?」
軍服をピシッと来たお姉さまが居ります。
猫耳だ。
うん、猫耳だ。
「私の名はメニアと言うわ。階級は少佐よ。」
「特務隊隊長のレアイナです。」
同じく特務隊所属のヨシトです。
「そう、貴方があの化け物機のパイロットにされた・・・。」
道すがらレアイナから聞いたけどこの軍事演習場にアラート任務についている部隊は無いのにどうしてスクランブルがかかったのでしょう?
「ここにアーバック王国の特殊部隊と思われる敵の部隊が迫ってると報告があったわ。おそらく狙いはヨシトさんの機体よ。」
あの化け物機ですか?
「任務内容はメルフィル王国の新型機を奪取せよってとこかしら?」
・・・対応できる部隊は?
「残念ながらこの軍事演習場に配備されている旧式のアシガルじゃあ一方的にやられるでしょうね・・・。対空設備すらないんだから。」
塹壕とかも無いんですか?
「有るけどそれは演習用でここを守るためのものじゃないから意味が無いわ。何より敵がわざわざ防御の厚いところから侵入してこようとすると思う?」
御尤も。
という事は俺の出番?
「正直、こんな形で実戦に投入させるのは個人的に反対だけどこのままだとただの一般事務員まで死ぬことになるわ。お願い。出撃して欲しいの。」
そう言って頭を下げるメニアさん。
だったらこっちから出迎えてやりましょう!
この軍事演習場は戦線から大部離れてる。
周りにも遮蔽物になりそうなものは無い。
一番近い部隊が特務隊だけどすぐには来れない。
来たとしてもその間にここが蹂躙される。
何せ駐屯部隊があてにならない。
余ってる機体も無いからレアイナも動けない。
ただ特殊任務を帯びた敵に援軍は無いと踏んだ。
だったらこっちから打って出る!
何も遮蔽物が無いという事はこの加速の化け物機<アクセラレーター>の推進器を全開にして突っ込み放題という事だ。
推進器を全開にする。
体がシートに沈む。
右腕の騎兵槍は既に構えている。
敵機は既に目の前まで来ている。
回避運動を取ろうとしているがそれは遅すぎる!
騎兵槍がアーバック王国のアシガルの胸部を貫いてその後上半身が爆砕する。
その勢いを殺さぬまま後続機にまで突貫。
相手からしたらいきなり味方機が爆砕して敵機が目の前に現れたように感じるだろうな。
勢いが殺された分敵機を爆砕させる事は出来なかったが串刺しにしたやった。
騎兵槍で串刺しにしたまま方向を変えて再度推進器を全開にして別の機体に突貫する。
グン
串刺しにした機体が騎兵槍の根元までめり込んでくる。
目標にされた機体はマシンガンをばら蒔いてくるが串刺しにした機体を盾に構わず突貫し続ける。
敵機が構えていた盾ごと貫きこれで串刺し二機。
それでも加速に衰えは見えない。
もう一機に向かい再度突貫。
距離は十分ある。
だが、加速の化け物機<アクセラレーター>にとっては一瞬で詰める事が出来る。
騎兵槍に二機ものアシガルを串刺しにしているのにもかかわらず爆発的に加速する。
敵機を貫いた時に串刺し済みの他の二機が衝撃に耐えきれず爆砕。
目標にされた三機目は言わずもがな、上半身は突撃によってえぐれ、下半身は他の二機の爆砕により木端微塵となった。
それでも加速の化け物機<アクセラレーター>は装甲に守られて未だ健在である。
「あの化け物機を使いこなしてる?」
「流石私達のお婿さま!」
「レアイナ隊長・・・、彼は一体・・・?」
「ダメですよ。彼は私達特務隊が文字通りつばつけてるんですから。」
接近戦が主軸のアナログな陸戦機と思ったのか敵機が引こうとはしなかった。
きっと鹵獲するつもりなんだろうな。
こっちとしては都合がいい!
それでも数が減れば逃げようとする機体は存在する。
全滅するよりはいいからな。
残っているのは情報収集機と思われる他の機体とは形容が若干違う機体。
その特殊機が反転して逃げようとしている。
こちらとしては逃がすつもりは無い。
残りは三機。
一機目。
推進器を全開にして突貫。
騎兵槍の一撃であっさり粉砕。
二機目。
一気目を粉砕後、若干軌道を修正して再度突貫。
串刺しにしてはるか距離を奔る。
三機目。
二機目を串刺しにした時に追い抜いて加速の化け物機<アクセラレーター>を正面にする事になる。
三機目は正面から騎兵槍の餌食にされる。
「・・・終わった・・・。」
「メニア少佐?」
「レアイナ隊長、本当に彼は何者なのだ?」
「私達特務隊のお婿さんです。」
「ふざけないでくれ!」
「ふざけてませんよ? 本当に彼は醜女部隊なんて言われる私達特務隊の女性を娶りつもりですから。」
「そう言う事を聞いているんじゃない! 真面目に答えてくれ! 彼が使っているあの化け物機も正体は聞いてるはずだ!! 誰が作ったのかも分からない! 形式番号すらない! ただし名称だけが伝わっている! 惑星イウーロに入植してから存在し続ける機体!」
「主待つ騎士<ナイト>、ですか?」
「そうだ!」
「そんなの知りません。」
「知らないだと!?」
「はい。」
「・・・この三か月こちらも何もしなかった訳じゃない! 彼の経歴は調べた! ほとんどの項目が不詳となっていた! 閲覧するなら将軍階級のさらに限られた者しか閲覧できないと分かっているんだ!」
「・・・何故、確認が必要なのですか? メニア少佐。貴女はヨシトを調べてどうするつもりですか? 事と次第によってはこの場で貴女を殺します。」
「!?」
「この場で即答してください。私達の味方か敵か。」
「・・・少なくとも敵じゃないわ。」
「曖昧な返事は敵とみなします。」
「!?」
「どうなんですか?」
「・・・・・・。」
「沈黙も敵とみなします。」
「!? ・・・分かったわ。私は味方よ・・・。」
「何故味方を調べる必要があるのですか?」
「・・・。これ以上詮索しない。」
「分かっていただけて何よりです。」




