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プロローグ②

このペンギンが鬼畜の所業すぎる

この感情のなさそうな瞳をした可愛らしい生き物はアデリーペンギンといいます

土の魔女テラリカ。

百年にわたり王国の発展に寄与してきた魔女。

一夜にして山を生み出すとも言われる並外れた土魔法の使い手。

それは決して誇張や比喩ではない。

この世界の魔女は本当にそれだけのことをなし得る。

向こうの世界ならまさに神話の神々の如き所業だ。

だが、それでも加護があるとはいえただの人間でありながらトーノには魔女を殺せる確信がある。

魔女を殺すのに山を生む必要も海を割る必要もない。

ただ距離を詰め、首を刈る。

それだけで十分だ。

如何に強大な魔力を有するといえども、魔法を除けばその肉体は普通の人間と大差ない。

転生によって得られた呪いにも似た身体能力をもってすれば、魔女が反応するより先に魔法を使わせずに殺せる。

これまで幾人もの魔女をそうして葬ってきた。

今回も同じことだ。

相手がどんな魔女だろうと首を落とせば殺せる。

殺した魔女は塵になって消える。

それを見届ける、それだけの仕事だ。

前日に受け取った資料を頭の中で反芻しながら、トーノは出撃の準備を終える。

革鎧を身につけ、籠手を嵌め、腰に長剣を差す。

前の世界では、記憶は朧気だが、握ったことすらなかったはずの剣は、今ではすっかり手によく馴染んでいる。

明朝、ブルムラシュ候の一隊は魔女狩りに向けて城を発った。

先頭を行くのはトーノ。

その後ろには馬に乗った騎士が2人。

護衛の名目でつけられた彼らだが、真の目的はトーノの監視であり、もし不審な動きがあれば片方が足止めし、もう一方が即座に報告する手筈となっている。

彼らは実に優秀な騎士のようで、腰にぶら下げた水晶球を使って本隊と仕切りに連絡をとりながら、斥候の役目を果たすため周囲をスイスイと見回りながら進むトーノに対し、付かず離れず一定の距離を保つよう馬を操っている。

後方には本隊たるブルムラシュ候と彼を囲む騎士たち、さらにその従者を含む百人規模の隊が続く。

貴族らしく腹に贅を蓄えたブルムラシュ候は、彼の体型に合わせて作られた特注の金属鎧を身に纏い、過度に装飾された大柄な馬に跨っている。

かつては豪傑として名を馳せ、前王の時代には自ら先陣を切って蛮族の反乱を鎮圧したと聞くが、今や見る影もない。

目的地はブルムラシュ候が治めるヴェスペア領の端に位置する小さな村。

人口は数百人ほど。

付近の村民からこの村に魔女がいるとの密告があった。

食事も睡眠も必要としない魔女だが、だからといって王都での暮らしを経験した彼女らが野宿に耐えられるはずもない。

ゆえに国を出ようとする魔女は各地の村や町を転々としながら国外を目指すことが多い。

トーノにとっては都合のいい話だ。

村に魔女がいるならば、そこに火を放ち、外に誘き出せば、彼女らが困惑している隙に容易く殺せる。

その過程で多少の被害は出るかもしれないが、それらは全て魔女を討ち国を守るための尊い犠牲である。

そう自分に言い聞かせるのには、既に慣れている。

隊は夕刻、件の村へと辿り着いた。

日の出ているうちにと随分と飛ばしてきたので、騎乗を許されない従者たちは疲弊し切っていた。

だが、彼らに配慮する必要はない。

彼らは見栄えのために連れてこられたのであって戦力には計算されていない。

村は寂れた農村であった。

遠目に見れば畑に出ているのは女子供か老人ばかりで働き手に若い男の姿はほとんど見当たらない。

先の大戦で徴兵され、その多くが戻らなかったのであろう。

それでも課される税は変わらず、村人たちはひどく痩せ細り疲弊し切っていた。

先行して村に入ったトーノと騎士2人の前に村長と思わしき人物が進み出る。

彼もまたひどく痩せこけている。

その皺くちゃで筋張った手を震わせながら、村長は深々と頭を下げる。


「き、騎士様方…一体どのようなご用件で…」


その視線の先にはトーノたちではなく、村の外で待機するブルムラシュ候の姿が映っている。

領主の顔を知らない村長でも、騎士たちに囲まれた着飾った男が相当な身分であることは分かるはずだ。

そんな人物が辺鄙な村にまで訪れているのだからただ事ではないこともまた分かるはずだ。

あまりに哀れなほど怯える村長を更に追い込むようで悪いがと思いながら、トーノが火をつける用意をしようとしたところで後方にいた騎士が騎乗したまま進み出る。


「この村が魔女を匿っているとの報告があった。隠し立てすれば容赦はせんぞ」


馬上から怒鳴りつけるように問いかける。


「し、知りませぬ……どうか、お許しを……!」


その言葉に、村長は必死に地に額を擦り付けながら否定する。

実に意味のないやりとりだ。

魔女はその存在を決して口外できぬよう、匿う者らに暗示を施す。

簡易な暗示だが只人に争う術はない。

故にさっさと村を焼き払うのが一番手っ取り早いのだ。

それにも関わらず、騎士たちは問答を続けている。

無駄だ、とトーノは思う。

時間をかければかけるほど、魔女にこちらの存在を察知される可能性がある。

そうなれば厄介なのはこちらの方だ。

次第に苛立ちが募り始めた、その時であった。


「貴様ら何を悠長にしておる!」


騎士の腰元にぶら下がった水晶球から怒号がとぶ。

声の主はブルムラシュ候だ。


「早急に火を放ち村を焼けと命じたはずだ!」


怒れる主人に対し、騎士の1人が言い淀みながら答える。


「しかし、この者に問いただしたところ魔女など知らぬと申しております」


「この者が嘘をついているようには見えませぬ。それを根拠なく罰すれば我らの誇りにも御身の名にも傷がつきますぞ」


彼らの言い分にブルムラシュ候の表情が歪むのが水晶球越しにも分かる。


「愚か者どもめ!魔女が暗示をかけた者が素直に口を割るはずがなかろう」


再び怒号が飛ぶが、それでも彼らは動かない。

彼ら2人は実に優秀な騎士だ。

しかしそれ故に騎士としての規範にも忠実なのだ。

契約に縛られ主人の命に絶対服従のトーノとは違う。

主人が道に反していれば命をかけて背くのが騎士という存在なのだ。

ブルムラシュ候もそれを知らないわけではない。

彼らへの説得が無理だと分かったのか、水晶球越しにため息が聞こえる。


「騎士の習いとやらか。よい、貴様らは下がれ。代わりにトーノに水晶球を渡しておけ」


無言でトーノは水晶球を受け取る。

次に出る命令は概ね察しがついている。


「その者の首を刎ねて村に火を放て。迅速にな」


その命令にトーノは静かに頷く。

騎士たちは何か思うところのある表情を浮かべるが黙って彼に背を向ける。

いくら誇りがあろうと彼らにはブルムラシュ候の命令を覆す権限はなく、その命令に従うトーノを止める力もない。

ゆっくりとトーノは腰の剣を抜き、未だ跪き許しを乞う老人の頭上に剣を構える。

彼の持つ剣はかつて名のある騎士が使っていた名刀と聞く。

数え切れないほどの民を救った剣は今やかつて救った民へと振り下ろされる道具と成り下がっている。

申し訳ないと思う。

剣にも、老人にも、村民にも、それから魔女にも。

一つ息を吐きその罪悪感を心の隅に置く。

事が終わるまで直視しないように。

ふと、老人が顔を上げ目が合う。

目には涙を浮かべ、肩を振るわせ尚も許しを求めている。

胸に小さな痛みを感じる。

死を前にしてなんとも人間らしい老人の顔が隅に追いやった罪悪感を肥大化させる。

急がねば。

老人の背中を蹴り、強引に額を地面に着けさせ改めて剣を振り上げる。

そして、振り下ろそうとしたその瞬間。

足元の大地が大きく畝る。

地震とは違う、まるで波のような不自然な動きに足を取られ思わずトーノは体勢を崩す。

そこへゴウッと唸りを上げて大人の背丈ほどの大岩がトーノ目掛けて飛んでくる。

一歩飛び退って体勢を整えつつ、剣を振り下ろし岩を真っ二つに切り裂く。

切った感触は普通の岩よりも寧ろ砂の塊に近い。

とは言え、そんなことはどうでも良い。

これだけの質量を操れる者など異世界と言えどそうはいない。

魔女の魔法だ。

そう確信し、トーノは村長を飛び越え岩の飛んできた方へと駆け出す。

走りながら、その目に確かに捉える。

村の中央あたり、そこには確かに村人とは明らかに違う異質な出立の女が立っていた。

それが可愛い見た目と道徳に反した行いをするアデリーペンギンです

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