白露の靴
ホーレットには一人の奴隷戦士が存在した。
彼の名は【ゲダ=ホーレット】王権争いに破れ、いやはなから参戦してはいなかったが、欲深き兄によって奴隷の身分に落とされた王子であり、ホーレットの最終兵器である。
ホーレットあるところにゲダありと言われ、彼の謀反を恐れたホーレット史上最悪の無王と呼ばれた兄に奴隷紋と呼ばれる魔法により絶対に逆らえない様にされてしまう。
いつもは地下深い牢獄に鎖で繋がれており、彼を支持する比較的善良な貴族達が何度も救おうとしたが、それ以上に無王を支持する欲深き貴族の策略に勝てず、ホーレットは歴史上最悪の治世と呼ばれる地獄を送っていた。
ホーレットの民はロストランドやレチュピアに逃げることが多かったが、ロストランドが魔王に落ちた事により状況が悪い方向に変わる。
「ふっへっへ、ロストランドが落ちたか、ふっへっへ、これで愚かな民は逃げずに酷使出来るな、早く我のピラミッドを作らせられるな」
「はい、しかし陛下」
「なんだ?」
「まだレチュピアがあります」
「ふん! あんな小国潰せば良かろう……いや潰すか、ピラミッドを作るのに何も我が民を使うこともあるまい、レチュピアに奴隷はごまんとおるわ」
レチュピア王がご機嫌な様子で語る、それを欲深き貴族は
「陛下素晴らしいお考えです、民を思う陛下だからこそのおかんがえで」
「そうであろう、レチュピアを落とそうではないか」
「はい陛下、ただちに」
こうしてホーレットはレチュピアに侵攻する、最初は順調だった。
「陛下レチュピアの十の都市を落としたそうです」
「そうか、奴隷は増えたか」
「はい、これですぐにでも陛下のピラミッドを」
「そうかそうか」
ピラミッドはお墓である、この世界の権力者は自らの偉大さを表現する為に巨大なピラミッドを作る事に費やすものもいる、ホーレット王は典型的な権力欲と顕示欲を持った俗物であった。
「今回は、あの愚か者を使う必要もなさそうだな」
「そうですな、レチュピア程度の小国なら」
順調だった進軍だが、レチュピアに侵攻していたホーレット軍の九割、これはホーレット総軍の七割に当たる兵が全滅したとの報がホーレット王に届いた事により事態は急変する。
「馬鹿な、我がホーレット軍が何故だ!」
「こ、これはその」
王の怒りは凄まじく、取り巻きの貴族も慌てていたが
「王よ、これでは仕方ありません、あれを使わねば」
「ちっ! 分かっておる、さっさとレチュピアを潰して来い!」
「はっ」
王の側近の一言により、ホーレット最終兵器を使用する事にする。だがこの時ホーレット王はまともな思考をしていたのだろうか?
ホーレット軍の七割があっさり負けたのだ、それの意味を深く考えればホーレットの未来は……いやどちらにせよ変わらなかったかもしれない
「これはこれはイーグレット王よ、この様な場所まで」
白露達はレチュピアの王宮に来ていた。
「ごめんね、この子達をお家に返す為に来たんだけど」
白露がそう言うが、ラスティは
「マスター、此度はこやつらの不始末の後片付けです、マスターが下になる事はありません」
「それはそうだけど、一応王様だよ」
「マスター、この世の王はマスターだけです」
「えっ、いや王様っていっぱいいるんだよ、国の数ぐらいには」
「マスターだけです」
白露はラスティがどんだけ言ってもダメだと思い、気にしない事にする。
「でね王様、この子達を返すのにエルサチアの天靴ってのが必要なんだけどね」
「え、エルサチアの天靴ですか、しかしあれは我が国の至宝」
少しレチュピア王が悩むと、ラスティが
「愚かなる人間よ、エルサチアの天靴は元々魔王様な物、貴様は唯地べたに這いずり許しを請いながらマスターにエルサチアの天靴を返却なさい」
と怖い声で要求する、それにビビったレチュピア王はすぐさまエルサチアの天靴を持ってくる。
「ダメだよラスティ、あんなに怖い事言ったら、平和的にスマイルだよ」
白露は完全に感覚が麻痺してる、彼も一国の王を前にしても自分が下の一般市民といった感覚は既になかった。
「こ、こちらです」
レチュピア王が震えながらエルサチアの天靴を持ってくる、エルサチアの天靴は漆黒の鉄製と思われるブーツ型の靴で、カカト部分に鳥の羽の装飾を施していた。
「ほぉ懐かしいな、エルサチアの天靴よ」
白露の魔王モードは急にやってくる。
「我が下に!」
白露がそう唱えるとエルサチアの天靴が光り輝き白露の足元に
「馬鹿な、誰も履く事の出来ぬ宝具が」
レチュピア王の驚きの声、エルサチアの天靴は誰も履けない靴で、王家ですらその力の一端を使うだけであった。
「ふむ、これで……」
白露が何か言おうとした時
「た、た、大変です陛下!」
兵士が走ってやって来て
「ホーレットの、あの、あの、ゲダが現れました!」
ゲダ=ホーレット、ホーレットの最終兵器でその昔三千の兵を一人で倒した一騎当千の戦士である。




