森へ 1回目
「と言うわけで今日は森の奥地に行ってみようかと思う!」
「はぁ、好きにすれば良いじゃないですか」
「にゃう」
白露の突然の宣言に露美は興味なさげに答える、いや興味無いのだろう。
「そうなんだけどさ、ちょっとは心配とかしても良いんだよ露美ちゃん」
「えー、別に心配事なんて何も無いですけど」
「そう」
白露は露美の態度に少し落ち込むが気を取り直し
「まあいいか、とりあえずブラットベアと、締め切りのおかげで冒険が止まってたからね、本格的に森へ行くよ」
「そういや先生全然異世界に行ってませんね、ずっと部屋にいましたし」
「仕方ないだろ、締め切りがキツかったんだよ」
「ちゃんと計画立てないからですよ」
「うるさいな、お前んとこの会社がアホみたいに仕事させるからだろ、このブラック出版社!」
「むぅ、否定出来ません」
「出来ないのかよ、せめて社員には否定してほしいよ」
露美も会社の業務時間に不満はあったりする。
「まあいい、それでゴブ郎が言うにはこの家の門から真っ直ぐ一キロは開発完了したそうなんだ、だからそこまでは車で行けるのさ」
「ほぉ、何で行くのですか?」
「無難に軽トラかな? そこから五キロから10キロぐらい進んで、キャンプ張って一泊、そこから更に半日進んでキャンプ地まで戻って一泊、で帰る二泊三日を予定している」
「ぶはっ! ただのキャンプやん!」
露美は飲んでたお茶を吹き出しながらツッコム
「う、うるさいな、冒険と言ってもこれくらいが良いんだよ、せっかく帰る場所があるんだからこれくらいが」
「もう異世界で胸踊る冒険する気無いですね」
「あるよ、胸踊ってるよ」
「本当ですか?」
「ほ、本当だよ」
白露は自分でも慎重に過ぎるとは思っていたが、ブラッドベアが出るような森である、慎重に慎重を重ねるのが正しいと自分に言い聞かせる。
「それに魔法だって練習してるよ、異世界で魔物を狩りまくってやるさ、そうやってやるさ」
「えー、もしかしてあの変な踊りですか?」
「えっ! 見てたの?」
白露は夜中にどうやったら魔法が使えるか自己トレーニングを行っていたりする、それは変な踊りにしか見えない者だった。
「見てますよ、でも先生が変なのはいつもなので大丈夫ですよ、プププ」
「笑うなよ!」
白露は半泣きで抗議するが、その日は落ち込んで自室でうな垂れていた。
そして翌日に
「じゃあ行ってくるよ露美ちゃん」
「ふぁーあ、いってらっしゃい先生、お土産は宝石で良いですので」
「そんなのとってこれねーよ」
こうして白露は軽トラに乗りゴブリンが開発した町並みを眺めながら進む、とは言ってもすぐに道は無くなり
「はぁ、キャンプ道具重いんだよな、今日だけで10キロ進めるかな?」
「大丈夫ですよ白露様、我々がついています」
今回の旅に同行するのは、ゴブリンナイトのゴブ郎とゴブリンメイジのゴブ子である、他の進化組は町の建設監督である。
「にゃぁ!」
おっとミーコもちゃんとついて来ています。
「じゃあ行くよ、今回の目的は散策だ」
「「はっ!」」
こうして森へ入る一行、闇の森は通常の森と全てが段違いで、濃い魔素と呼ばれる物質が蔓延し、魔物が凶暴化する魔境である。
「うわー、この辺は空気が澄んでるね」
「そ、そうですか?」
「流石白露様だ」
「にゃあ」
普通魔素が濃いと気持ち悪くなるのが普通だが魔力が強い者には居心地が良いらしい、なので白露にとって居心地が良い森は、他者にとっては少し息苦しかった。
「よーし、スマホのコンパスも何故か使えるし、方角を間違えないように」
既にスマホが気軽に使える事を気にしない白露、彼はスマホを駆使しながら森の散策をする、見つける植物をスマホで写すと種類を教えてくれるアプリ、何故か異世界対応のアプリがあったのだ。
「あはは、本当に便利だな、異世界どんとこいだよ」
白露の行動はゴブ郎達にとっては奇怪に映るが、後で白露に説明を受けると白露が凄いととても褒めていた。
「よーし、なんかゴブリン達用の薬草が沢山取れたな」
「はいありがとうございます、これだけあれば群れも安泰です」
ゴブ郎は真剣に感謝していた、やはり医療関係は森に住まう彼らには未知の領域で薬草が生命線だったのだ。
「そうかそうか、よし進むぞ」
こうして順調に何事も無く1日目が終わる、少しひらけたスペースにキャンプをする。
「今日は固形燃料持って来たし、まきとかはいいよゴブ郎」
「はっ」
「で見張りは」
「大丈夫です、我らがいたしますので白露様はゆっくりとお休み下さい」
「えっ、悪いよ僕もするよ」
「何をおっしゃいますか、白露様にその様な雑事をさせる訳には参りません、我らにお任せを」
「そ、そうかい」
白露はメスのゴブ子にも任せる事に少し躊躇したが、よく見ると後ろから数匹のゴブリンがついて来ていた、どうやら彼らが雑用をする様だ。
「じゃあお願いしようかな」
実はこれまでの道中に魔物が白露の前に現れる事は無かった、それは先行して森に入ったスリングショットを武器とするアーチャー部隊の活躍があったのだ。
その中にゴブイチの姿もあり、ゴブリンの町に残ったのはゴブリンソルジャーのゴブ助率いる、ゴブリン歩兵とメスと子供だけである。
今回の白露の旅に際してゴブリン達は、白露を陰ながら見守る事に重視し、ゴブ郎率いる白露の親衛隊を見つからない様に配置していた、全てゴブ郎の配慮である。
『ほぉ、あのゴブリンなかなかやるな』
ミーコことアイムも感心するほどの洗練された兵士運用であった。
『これなら魔王軍として相応しいな』
ミーコことアイムは主人である白露と喋らない時は魔族らしい喋り方なのだが、白露と喋る時は猫になる、恐らく白露がアイムの事を猫と思っているための弊害なのだろうが、アイム自身は白露から与えられたミーコと言う名を誇りに思っているし猫である事も白露のペットであるためなら受け入れるのである。
「さぁ白露様野営の準備は我々が、白露様はお休み下さい」
「そうかい、じゃあ休んでるよ」
そう言って白露はテントに入り、ノートパソコンを取り出し、執筆作業に入る。なんだかんだで働き者なのだ。
「よし白露様の邪魔になるもの全てを排除するぞ!」
「「「はっ!」」」
白露の配下のゴブリンは強い、いや強くなったと言うべきか、彼らは白露の指示により訓練と言うものを行う事になる。
これにより軍隊の様に規律正しくなったゴブリン達は、そこら辺の軍隊顔負けの一団に成長する。ゴブリンの成長は早いのだ。
こうして何人かがゴブリンポーンに進化し、中にはゴブリンソード、ゴブリンランサーなどのこの世界にも存在しないゴブリンに進化していた、かく言うゴブ郎もゴブリンナイトからゴブリンジェネラルになっていた。
これは例に見ないほどの集団で既にプラッドベアならば一個小隊ならば勝てるほどである。
「うーむ、今日は薬草で話を作るか」
白露が今日の体験を早速小説に活かそうとしていた、そんな彼は変わりゆくゴブリン達に全く気づいていなかった。何回も名付けを行なったのに
「おー、なんか筆が進むな!」
そんな呑気な事を言ってる外では
「おい、そっちに言ったぞ、確実に仕留めろ!」
「はっ!」
ゴブリン兵が大量の魔物を狩っていた、これが後に人間達に恐れられた鬼人軍である。
「さて飯を作るか」
家などをすぐに作り出すゴブリンだが何故か食事だけは上手く作れなかった、だからたまにだが食事をゴブリン達に作っている白露、そんな時は必ず
「うおーー、白露様の飯はウメーーーー!」
と、絶叫しながら食べるのである、そんな時いつも白露は
『うむ、餌付けは完璧なのかな?』
と思ったりしていたのだ。
まあ完璧にゴブリン達は白露に忠誠を誓っている、飯抜きでもだが飯付きならばより強い忠誠を誓うのだ。
「今日はカレーだよ」
「うきゃ! カレーだ、白露様のカレーだ!」
「やっふー」
白露も驚くほどのゴブリンがわらわらやって来る。
『あれー、こんなについて来てたのか、ならもっと大きな鍋にしとけば良かったな』
との思い通りに、この後白露は三回もカレーを作る羽目になり、後でゴブ郎に愚痴り、ゴブ郎が腹を切ろうとしたのを止めるのに苦労したのは、いい笑い話である。
『にゃう、カレーは苦手だな、私は唐揚げが食べたいな』
アイムの猫化は進んでいたりする、いつか完璧に猫になるだろう。




