白露の初恋は
「ところでナギ」
「なーにお兄ちゃん」
「お前何の部活に入ってるんだ?」
「えっ? 言ってなかったっけ」
「聞いてないな、今日部活のメンバー来るから分かるかと思ったが、余計分からなくなった」
「えー、なんでよ、私達の部活なんて見たまんまじゃん」
「そ、そうなのか」
「そうだよ、どっからどう見ても
【軽音部】
じゃん」
「なるほど、一つ聞いていいか?」
「なにお兄ちゃん」
「お前は何をしてるんだ?」
「私はベースだよ」
「なるほど、俺はお前がベースを担いでるとこ一度も見たことないが」
「そりゃそうだよ、だってエアベースだもん」
「……何処が軽音部やねん!」
ナギは軽音部にいる、だが楽器が弾けなかった。
「何よ、別にいいじゃない、エアでもいいじゃない」
「いや、せめて練習しろよ、初めから諦めるなよ」
「うぬ、お兄ちゃん酷い、なんで私を虐めるの!」
「えっ? 何処がイジメなんだ」
「うわーん、みんなお兄ちゃんが酷いこと言うの!」
「ええ」
走ってみんなのところに走っていくナギ、こうして白露は悪者にされてしまった。
そしてしばらく白露への罵倒が続いて少しした時にバーベキューも最後の締めの焼きそばを焼き始めた頃に
「君達はエアでは無いんだろ?」
「はは、当たり前ですよお兄さん、僕はボーカルですけど他のメンバーはみんなちゃんと楽器を弾きますよ」
「へぇー、凄いんだね」
「ええ、今度フェスに出る事になったので合宿しようって事になったんですけど、まあ本格的に始まる前にバーベキューでもして英気を養おうってなりましてね。庭を貸して頂きありがとうございます」
「いいんだよ、こんな所で良ければいつでも使って」
「ほ、本当ですか」
「えっ? あ、うん」
部長さん、名前をユウキと言い凄い美人さんで背も高くモデルさんと言われても納得してしまう外見で、内面はサバサバした姉御肌って感じだが、さっきからヨシコと富ちゃんを可愛がる目が少し心配な女の子である。
そんなユウキはこの庭を使って良いと言うと凄い剣幕で確認して来る、そして
「いやー、合宿の場所悩んでたんですよね、夏はみんな合宿するから予約取れなくて、金も無いしいやーナギのお兄さんが優しくて本当に良かった」
「へっ?」
「おーいみんな、ナギのお兄さんがこのお屋敷で合宿して良いってさ」
「本当ですか、わーいやった!」
「うへー、夏の間大城先生のお屋敷に入れるんですか、はわわ」
「良かったわ、ここなら音出しても問題ないようですし」
「えっ、お兄ちゃん良いの? ケチなお兄ちゃんが珍しい、あっ! JKが家に来るからね、やらしいんだお兄ちゃん」
「えっ、えっ?」
白露が呆気にとられ狼狽えてると、部活のメンバーからお礼を言われ、もうダメだと言えなくなる。
「あ、うん、キレイに使ってね」
「「「「はーい」」」」
「マール?」
「はっ、何でしょうか白露様」
「合宿するみたいだから部屋の用意とか頼めるかな?」
「かしこまりました」
お辞儀をしてマールは準備に入る、部屋とか大丈夫かな? と白露は思うが、正直言うと余裕であるし、なんならマールは現在完全防音の楽器が弾ける部屋を作ってるぐらいだった。
「よし、これで懸案事項は無くなった、今日は遊びまくるぞ!」
「「「「おお!」」」」
「ふぇ、皆さん遅れて申し訳ありません」
今から食後のレクリエーションをしようとしていた時におそらく、ナギたちの部活の顧問らしき人がやって来る。
「あ、蘭ちゃん遅いよ」
「蘭先生、2時間の遅れですよ」
「はぁはぁ、すいませんユウキさん、急な会議がありまして、そうですナギさんのお兄さんは何処ですか、場所を貸して頂いたお礼をしないと」
「お兄さんならあちらですよ、蘭先生」
「ああ、ありがとうユウキさん、えっと」
白露は蘭先生を見た瞬間に固まってしまう、蘭先生は黒のロングヘアに少し童顔気味で胸が凄く大きなおっとりした美人さんだったから……訳でなく
「荒木さん」
「へっ? 大城君?」
荒木 蘭
白露の通っていた高校でファンクラブが出来るほどのマドンナで
「ひ、久しぶりです、えっと先生やってるの?」
「ええそうよ、あらナギさんのお兄さんって大城君だったんだ、凄い久しぶりね」
初恋の人だったりする。
久しぶりに会った初恋の人に白露はガチガチに緊張してしまう。
「本当に久しぶりだね、大城君同窓会にも来ないからみんな心配してたよ、今頃何してるんだろって?」
「えっと、今は小説とか書いてるんだ」
「えっ、そうなの凄いね大城君」
JK達はニヤニヤしながらその光景を見つめていた、蘭先生はおっとりしているがとても優しく生徒にとても人気があった、そして未だに独身なので男性教師からも人気があった。それは生徒と教師の本気の殴り合いが発生するほどに
しかしメイド達は信じられないほどの怖い目をしながら蘭先生を見つめていた、それは嫉妬のこもった目なのは間違いなかった。
「あ、荒木さんが教師だなんて思いもしなかったよ、プロのバンドとかするのかと」
「えー、そんな事ないよ、私にプロなんて無理だよ」
「で、でも荒木さん凄く可愛かったし」
「もう大城君ったら、過去形なんて酷いな」
「えっ、あっ、違う、違うよ今も、今も凄く可愛いよ荒木さんは」
「うふふ、ありがと、でもそっか大城君立派になったんだね、こんなお屋敷に住んで」
「たまたまだよ、書いた小説がちょっと売れてね」
「そう言えば大城君昔から作文得意だったもんね」
「えへへ、そうだっけ」
二人の雰囲気はまるで付き合いたての中学生のカップルの様だった。だが荒木蘭という女は外見と少し違っていた。
『マジかよ、あの陰キャの大城がこんな屋敷買うほどの金持ちになってるのかよ、私もそろそろ金持ち捕まえようと思ってたらこんなとこにいたのか』
荒木蘭、彼女の内面はとても計算高かった。だが付き合う男を厳選しすぎた為に生き遅れに成りかけていた。
『三十までに結婚したいんだよな、こいつ私に惚れてた筈だから押せばいけそうだな、まあ顔も嫌いじゃないしな』
白露はブサイクではない、いや格好をキチンとすればかなりのサワヤカイケメンになれるポテンシャルはあると言える。
『年収億超えてるかな、どうかな、聞きたいな』
女は怖いものだが、その内面は女には通用しない事はよくある。
「お客様、そろそろ白露様はお仕事に戻らないと成りません、ご歓談中申し訳ありませんがここで」
「えっ、そうなの、もう仕事の時間」
「はい、千歳様が怒っております」
「うひゃ! 大変だ、ごめんね荒木さん、また今度ね」
そう言って仕事場に走っていく白露、そんな白露を見送りながら
「ちっ! なんだこっちの手は分かってるのかメイドさん」
「うふふ、あなたの様な女性に引っかからない様にお守りするのがメイドの仕事、貴女の思い通りにはなりませんよ」
「はん、まあいいさ、大城君は必ず私にメロメロになるからね」
「ご冗談を、貴女程度では不可能ですわ」
「ふん、あんたは男心がわかってなさそうだな」
「なんですって」
「それが敗因になると忠告しておくわ」
「貴女に勝ち目なんてありませんよ」
「ふん、さあ、みんなもうお開きにしますよ、いつまでもご迷惑をかけてはいけませんよ」
「はい蘭先生、よし片付けて終わりにするよ」
「「「「はーい」」」」
「蘭先生、なんですか、ナギのお兄さんとどんな関係だったんですか」
「もうからかわないの、ただの同級生よ」
「あはは、お兄ちゃん蘭ちゃんにメロメロだったのに蘭ちゃん眼中にないじゃん」
「こらー、ナギさん変な事言わないの、昔話をしただけなんだから」
「あはは蘭ちゃん照れてる」
「もう先生怒りますよ」
和やかな雰囲気の中、新たに現れた強敵に心落ち着かないメイド達であった。




