最初の仕事 ―月見楓―
前回から時間がかなり空いてしまい申し訳ありませんでした。
ピピッピピッピ、パシッ
「ふぁ~あ、朝か……」
おはようございます、月見楓です!今日は生徒会長として初めての仕事の卒業式です。って誰に言ってんだろ私……疲れてるのかな?
「兄さんは帰って来たかな?」
私は、ベッドの上で軽く伸びをしてそう呟いた。
「今日は卒業式なのに相変わらずだな~」
枕元の目覚まし時計を見ると朝の五時。月見家の起床時間です。
まあ家は、朝の仕込とかがあるから仕方ないからね~
「楓~朝ご飯できたから下りてきなさいよ~」
「は~い、すぐ行くよ!」
下の階からお母さんの声が聞こえてきた、ってことは今日は兄さんのご飯じゃないんだね……たまにはお母さんのご飯もいいよね!別に嫌だなんて思ってないからね⁉
……一応、兄さんの部屋覗いてから行こうかな?
私は、パジャマを脱いで壁に掛けてあった制服に手を通しながら隣の部屋に兄さんがいる事を少し期待してそんなことを考えていた。
「……あのお母さん?そのミルクを飲んでる子猫サイズの子は何?」
「え?子猫じゃないの?なんか朝有の部屋で物音がしたから覗いてみたらこの子がいたから拉致してきたんだけど」
「なあ遥香、それって猫科だけど百獣の王とかいう奴じゃないのか?テレビの動物番組でそんなの見たことあるんだけど……」
お母さんが、撫でまわしている動物を新聞を読んでいたお父さんが呆れたように指摘した。ってか、またですか兄さん!なんで拾ってくる動物がみんながそういうのなんですか!どれだけ動物園の園長さんと仲良くなるつもりですか⁉
私の頭の中には、ヒグマと戯れてるちょっと頭のおかしい動物好きの園長さんが満面の笑みを浮かべてるのが思い出されていた。
「え~じゃあこの子も動物園に連れてっちゃうの?この前もあたしからツルちゃんを引き離したくせに!」
「ツルちゃんってあれハゲワシだったじゃん……」
あれって可愛いのかな?ウチにいたときですらカラスより大きかったのに今じゃ、羽広げたら3メートルくらいあるんだけど?
「楓、遥香はこうなったら止まらないぞ?」
「お母さん動物大好きだからね……兄さんと違って」
「そうよ、あの子とは違うのよ!もう二度と有とは動物園に行かないんだから!」
兄さんは、食料かそうじゃないかで判断する人だから動物を生きたまま連れてくるとすごい言い争いになるんだよね……
私は、動物園に家族で行ったときの『なあ、あそこの馬いい肉付きしてるよな?馬刺しにしたらうまそうじゃね?馬だけに』っていう品定めをするような目と冗談に聞こえない声を耳にして衝撃を覚えたのを今でも忘れられない。その時のお母さんは、泣きながら兄さんに詰め寄ってたっけ……
「ははっ、あっそろそろ私学校行くね?兄さんにも遅れないように声かけてね?」
「あいつが困るのはどうでもいいけど、楓が困るのはかわいそうだから蹴り起こして叩きだすから安心しろ」
「それって、兄さんが安心できないけど⁉」
親指を立てて満面の笑みのお父さんに思わずツッコんだ私は間違っていないはずだ。
「あたしも後でいくからね~頑張って挨拶するんだよ」
「うん、頑張るよ!」
お母さんの激励を背中に私は玄関に向かって歩きだした。
「あれ楓、あなた今日手ぶらでいいの?」
「よくないね⁉」
まさか激励されて三歩目に出鼻をくじかれるとは、思ってもみなかったよ……やっぱり恰好付かないな私って。
『か、帰って来た‼』
私が、受付の子と打ち合わせをしていると校門の辺で兄さんの叫び声が聞こえてきた。
いや、兄さんあなたの家はこの学校じゃないんだけど?朝部屋で寝てたじゃん……
「えっと、会長のお兄さんは元気な方ですね?」
「うん、受付ちゃんなんで最後が疑問形なのかな?」
「すいません!私が悪かったですどうか命だけは勘弁してください!」
「なんで土下座⁉私そんなことしないよ!」
なんか、私って怖がられるような事したかな?それは、私が外に買い物に行くときは毎回、何処からともなく厳ついお兄さんとかが荷物持ちに来てくれるけど……あれって兄さんが怖いからだよね?そうだと言ってお願いしますよ神様!
私は、まだ土下座を続けている受け付けの子の前で空を仰ぎ心の中で叫び声を上げるしかなかった。
『…………どーゆうことだ!』
すると、兄さんと葵さんが言い争う声が聞こえてきた。ここまで聞こえるってすごい恥ずかしいんですけど……
「ちょっと兄さん!どうしたんですか?」
そろそろ周りの目がきつくなってきたので、原因を知るべく近くに駆け寄っていった。
ところで、なんでみんなそんな呆れた目で私まで見るのか詳しく教えて貰いたいんですけど!
「「……ゴメンなさい」」
兄さんにお説教をされました……なんでも卒業生の胸に飾るお花が違ったみたいです。確かにすごく綺麗なのばっかりでしたけど、私聞いてないんだもん!そんな怒ることないじゃんか!
まあ、言いませんけどね!いや、言えませんよ、だって背後に般若が見えましたよ。もし言える人がいるなら出てきてください!骨は拾ってあげますよ。
「仕方ねぇなぁ、いいか楓、帰ったら説教だかんな!」
まさかのパート2が控えてるらしいです……
『卒業生代表 月見有』
あれ?私の耳がおかしいのかな?なんか兄さんの名前が聞こえたんだけど!
『なんで、俺なんだよ!葵でいいだろうが!』
私の耳じゃなくておかしいのは理事長の頭でした……
あと、兄さんみんなの注目集めてるから!大人しく座っててよ!
「カエちゃん大丈夫?」
「ゴメン、アカちゃん私はもうだめだよ……あとは任せるね?」
そういって私は頭を抱えて思わず座り込んだ。なんで、初仕事がこんなにも波乱に満ちってるの⁉神様は私の事が嫌いなの?私も嫌いだよ!
「いや、無理だよ私は~だって……有先輩の挨拶を撮影しなくちゃいけないんだから!」
「ねえ、なんでそんな本格的なビデオカメラが準備されてるの⁉というか、皆も撮影するき満々だよね⁉何、私だけこのこと知らなかったの?」
思わず、檀上に嫌々上がった兄さんを見ると案の定驚いた表情をしていた。あっ今目が合ったよ。
そうして、兄さんの挨拶?が始まった。
『こちらをご覧下さい』
いや、なんで兄さんがそんな風にスクリーンの操作できるの?風紀委員ってそんなことまでできるようになるんですか?
隣で、ビデオカメラを回しているアカちゃんを見やりながらそんなことをぼーっと考えていると、とんでもない発言が聞こえてきた。
『落ち着いて下さい!理事長は処女です!』
うん、まずは兄さんが落ち着こうか!
ほ~ら、皆一瞬で殺気立ったよもう私にはついていけない世界だね!
「まったく何やってんのよ、兄さんったら」
どうやって収集つけんのかな?やっぱり風紀委員のメンバーが……
「ねぇ、あれ本当?理事長先生も有先輩好きなの?しかもなんであんなこと知ってんの!ねぇカエちゃん!」
ダメだ、アカちゃんは混乱してる。こういうときの葵さんは……ニコニコ笑ってるよ目以外で。じゃあ夏奈さんなら……ダメに決まってるよね!完全にヤるきだよ、どーすんのよ兄さん!
「…………」
なんかこっちを見てるし……どうしろと?もしかしてこれ?けどまさかここで使うことになるなんて!兄さん恨むからね!私の挨拶が白紙になっちゃうんだから!
こんなのも、生徒会長の仕事なの?
私は、ため息交じりに用意した一枚の『プレート』を床から拾い上げ檀上の兄さんのもとへ急いだ。
「ハイ、皆さん『ドッキリ大成功』です!」
兄さんのほっとした顔を尻目に手にしたプレートを掲げそう宣言した。というか、このプレートを私が用意してなかったらどうやって落ちをつけるつもりだったんだか……
『どうでした?正直私はかしこまった挨拶なんて出来ないので、こうやってお茶を濁してみました。理事長には先ほどの映像を作るために演技をしていただきありがとうございました。さらには生徒の皆さん台本通りの演技ありがとうございます。以上を持ちまして私の挨拶とさせて頂きます』
どの口がそんなことを言うのか本当に兄さんの口の上手さには驚きしかないですよ。なんですかね、アドリブに対して強すぎませんか?
私は、そんなことを思いながら檀上を去ろうとする兄さんの耳元で今回の件に対する報酬を要求することにしました。
「……兄さん、貸しですかね?」
「すまない楓よ、だかよく俺が望んだものがあったな」
「私が使うつもりだったんですよ!どーしてくれんですか!これでパァですよ!」
「すまないな、後でなんか買ってやるから」
「じゃあ、洋服買ってくださいね!」
実は春服で、よさそうなのがあったので今回の件はラッキーだったかもしれません。
兄さんが、壇の下で理事長につかまってるのを見ながら私は、ショーウィンドウに飾ってあった服を思い出して笑みをこぼした。
『えーそれでは生徒会長、月見楓さんよりこの度ご卒業する先輩方に向けての送辞をお願いしたいと思います。それでは会長お願いします』
「はい!」
進行役の副会長ちゃんのアナウンスで私の挨拶の時間にとうとうなってしまった。正直兄さんの後に挨拶するのはちょっと嫌なものがあるけどまあ仕方ないよね。
そんなことを考えながら私は、マイクの前に立ち話し始めた。
「先輩方、ご卒業おめでとうございます!私はこの度生徒会長となりました月見楓と言います。本日は天候にも恵まれて素晴らしい一日となりました」
どーですか、この素晴らしい挨拶!別に私はあんな小細工なんてしなくても兄さんとは違ってきちんとできるんですよ!
「こんな素晴らしい日に先輩たちを……ってありゃ?」
なんで、こんな時にマイクが調子悪くなっちゃうんですか⁉なんなの呪われてるの?私は、少々お待ちくださいと一声かけ、舞台袖の倉庫に予備のマイクを取りに行った。
舞台袖ってなんだか怖いんだよね~なんか出てきそうで。
ちょっとした恐怖を振り払って、ドアを開けると……
目の前で、実の兄と学校の最高責任者の逢引の瞬間に遭遇してしまった。
「何してるんですか二人とも?」
「な、なんでここに?」
「そ、そうよ、挨拶はどーしたの?」
まず、抱き合った体勢をどうにかしてからそういうことは言って欲しいんですけど……服乱れてるし、ここ学校なのに何してんだろこの二人。
私は、恥ずかしさとかよりも呆れの方が強く頭が冷えるのを感じた。
「マイクが入らなくなったから別のを取りにきたの。で、二人はこんなとこで何してたの?」
「ち、違うのよ楓ちゃん?」
「そうだぞ楓!何にもないんだ!」
何が違うのか教えて貰いたいんだけど今はそれどころじゃない。
「ふ~んそうなんだ……どーでもいいけど私がしゃべるから戻ってね」
「「了解です!」」
相変わらず、この二人は息がぴったりですね。まるで夫婦みたいに。そういえば兄さんって家に帰ってこない日はどこに泊まってるんでしたっけ?
「ねえ有?帰っていい?」
「逃がさねぇよ!」
何が、逃がさないのか気になるけどそれよりも。
「あっ、兄さん?唇ちゃんと拭いたほうがいいと思いますよ?それと生徒と学校のトップのそういう関係は
よくないと思います」
「……え?」
「あ、口紅……」
うん、アウトです!
「「待って楓さん!」」
言い訳は聞きたくないですよね?
「……って」
どーしよ、落ち着いたらトンデモナイものに遭遇してるよ私!舞台袖は怖いとか思ってたけど予想以上に怖かったよ!明日の一面的な意味で!
だって、に、兄さんと理事長先生が抱き合ってたし、絶対キスもしてたよ~ウソでしょ!もしかして、実は付き合ってり?確かにそう思うとあの二人は異様に仲が良いから……まさか、将棋っていってあんなことやこんなことしてたり!はぅ!
こんなのが、あの人達にバレたら殺されるよ~
「あの~会長?そろそろ挨拶の続きをして頂きたいのですが?」
「ひゃい!すいません!」
司会の副会長ちゃんの声で現実になんとか戻ってきた。
う~兄さん覚えてなさいよ!
先ほどの、実の兄と、理事長の見てはいけない事が頭を占めてまともな考えができなくなっていた。
「えっと、どこまで話したか忘れたんで最初からやらせていただきます。新生徒会長になりました月見楓と申します。先輩がたご卒業おめでとうございます。えっと、先輩がたが残してくれた~伝統?を私達が引き継ぐことが私の夢です。あれ?なんか変?たとえば、ウチの兄さんが残した伝説は今でも生徒の間では語り継がれ、尊敬と畏怖が共存しています。正直、妹の私はそんな兄さんの存在によって入学当初はそれはもう、化け物のように見られましたよ!」
なんか、思い出したら腹が立ってきたよ!なによ兄さん、呆れた顔して!こうなったら……
「世間では揉め事処理班なんて言われてますが、兄さんは自分から揉め事を引っ張りだし、それを自分で片付けてるだけですからね!ただ!その規模がバカみたいなだけです!しかも、他人のことはどーでもいいとか言っときながら知り合いが困ってたら、無条件で助けちゃうお人好しなんです!さぁ答えなさい兄さん!この学校の生徒何人を助けましたか!コラ!月見有あなたのことですよ!なんで後ろ向くんですか!立ちなさい!口が滑りますよ!」
さぁ、兄さん!諦めるんですね!
『俺は無実だ!』
何が無実ですか!というか叫ばないでくださいよ恥ずかしい。なんなんですか男子生徒全員のヘイト集めるとか壁役なんですか?
思わず思考がどこか変なとこに飛んだ時とんでもない言葉が耳に入ってきた。
『よし、お前ら落ち着け!あっ楓パンツ見えてんぞ!』
「え?うそ!」
「「「なに!」」」
兄さんの声と、男子生徒全員のこちらを見る視線がほぼ同タイミングなんですけど⁉っていうか演説台の後ろにいるんだから見えるわけないじゃないですか!
『バカ共が!じゃあな!』
「兄さん!」
まさか、あの人は実の妹をスケープゴートに仕立て上げたんですか?これはオハナシする必要がありますね!
「「「野郎!自分の妹犠牲にして逃げやがった!」」」
「「「まてこら!!」」」
一応、これ卒業式なんですけど男子生徒が全員いなくなるってどういうことなんですかね?
「……あはは~実は演技でした~とかはダメですか?」
「「「……」」」
みなさんそんな目で見ないで!たすけて茜ちゃん!
「……」
そんな、なんで目を逸らすんですか!私が悪いんですか?どー考えても諸悪の根源は月見有っていう問題児ですよね。知ってますか?彼実の兄なんですよ私の。そうですか、良いですよ『家族の責任は家族が負う』それが月見家ですもんね。
じゃあ兄さん、生徒会長の特権は覚えてるかな?
「生徒会長権限発動!」
こういう時は権力だよね、葵さん?
まあ、こんなに早くに使うことになるなんて思いもよりませんでしたけど、これでこの問題が乗り越えられるもんなら安いもんですね!
「女子生徒全員に告ぐ、男子を引っ捕らえよ!」
「「「了解!」」」
とりあえず、この私の初仕事を無茶苦茶にした男どもは痛い目を見て貰わなくては困ります。誰が、この学校のトップか教えてあげなくては。
ついでに別の事に意識を向けさせ、私の失態のことは忘れさせる!
「来賓の方々少々お待ち下さい。後三十分もすれば再開できると思いますのでそれまではどうかごゆっくりしていて下さいますようお願いします」
さて、私の印象の回復のために糧となってもらいますよ兄さん!
ここまで読んでいただきありがとうございました。




